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「文学のプロポ」  しぼんだ感受性、あるいは初めにありきの完全主義者



 * インテリは、よりインテリに弱い


苦労して書いたものを、
いとも簡単に中学生高校生やお母さんたちから、
あなたの言うことよくわかる、
理解できるといわれても
喜んでいいのかどうかわからないだろう

たとえば手軽なファーストフードみたいな、
マーケティングばかりに気をつかっている
小説などを読んでもどうかなと思う


欧米のように、
聖書とカレンダーしか文字を見なかった
といわれたフランス革命以前の大衆とちがって、
読書を教養と思われてきた時代もどうやら過ぎ、
昨今では完全に本は消費品になってしまった
売れないとファーストフードみたいに、回転よく捨てられる

アリストクラシーからブルジョワジー、
そして大衆社会
欧米も中国もどこでも、日本でも、
人間社会が出来あがっているところは、
天皇、貴族、武士、
そして市民と、
知識人階級が変わっても、
いつの時代も実権を握っているのは1パーセントの人々だった


 いまの大衆文化を運用して、作用しているのはこの人たちだった。大手をふるっているこの人たちは、いまの世の中、こんなものでいいだろうと思っているだろう。変に知恵をつくような本はいらない。

 それに、われわれも小むずかしい本はめんどうくさいし、楽しければいいんじゃない。変にむずかしいこといって、国家権力に絡まれても嫌だし、いっしゅんマスコミに取りあげられてもその後は知らないふりで、次の話題に移っていく。


まじめにやっていたらバカをみる、
ほんと資本主義の社会、
信じられるのはお金だけね、
と冷めた気持ちに追い打ちをかけちゃいます
いつの時代の空気も、
上部団体と大衆層は、
お互い利害関係が一致して文化が出来あがっているようだ


こんな感じでいまの文学世相をみると、
置かれている状態の風景がおのずと見えてきます
どんな作品が受けているか、察しできます

ひとことでいって、
美しい言葉でもっともらしい
世間受けする本は信用できない、
接待業みたいに人の顔色を見て、
言葉巧みにいい寄るのは本能的に好きになれない
遊びとしてかわいい女性とかハンサムな人に
いわれるのは相手の人はいいけど、
真の言葉としていわれるのはどうも信頼できない


この美しい言葉というのは、
ほとんど先人の人が苦労して築きあげた言葉が、
いまの世間に格言のように通用し広まったものが多く、
それをいとも簡単に引用し賢そうにいわれると、
胡散臭く見えてしようがない


先人もそういわれることを
たぶん望んでいないし、
次の世代にはこれをヒントにいまの時代を
乗りこえていくような考えを持ってほしい、
と願っているだろう
時代が移っているのに過去の言葉が
現在のそのまま通用する訳がないし、
考えて見ればおかしな話だ
政治体制や物理学の発展も、
先人からのバトンタッチから成り立っている



 永遠性を求められる文学。不易流行といわれても、普遍な日本人の気持ちも移り変わるモラルと同じように、まだ見つけられていない感受性があります。

 たぶんに日本の心を古典の読書で学んだ三島由紀夫は、いっけん少年期のボクの気持ちをつかんだ。ボクがいうのもおこがましいけど、いい文章だしいい内容だった。



インテリは、よりインテリに弱い
たぶんにそのことを熟知していた彼は
本人のがんばりもあり、高級官僚にもパスし、
社会的地位や認知度もまだ低い出版業界の思惑も絡んで、
文学賞から出発しなくても作家を続けられた

厚化粧の履歴に、厚化粧な文章
いろんなパフォーマンスを行なった
作家業も人一倍、がんばっていた
申し分なかった
思い通り、事は進んでいた


ところで話は変わって少年の頃、
芥川龍之介の小説が好きで短編のこともあって、
高校のときにはほとんど全部読んでいた
その本の折り込みの解説のなかである作家が、
芥川の小説は青少年期のもので大人になったら読まない、
といっていた
その時、ボクはそう思わないと憤慨した

でもじっさい高校生を卒業してから、
いまも本棚に鎮座しているのに一度も本を開いていない
大人になって読んで見ると、
なつかしく気づかなかったものがあるかもしれない
そう思いながらも一度も本に手がいかない
なぜだろう、ただの気持ちかな


 じつは三島由紀夫の小説も読んで同じような気持ちを持った。教科書に載っているような、文学全集に載っているような感受性を見るようで、だからインテリや編さん者に好まれるとか。なつかしい感受性を見るのだった。悪いわけじゃなし、ボクがいうまでもなく文学史に残る一流作家でしょう。でもなぜか一度読むと、もういいっかとなるのはボクだけでしょうか。

 図書館に行きさえすれば、豪華に装幀された個人全集が本棚の中心に鎮座しています。

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