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四貫機復活計画!
さて、今回はそもそもインスタに投稿するつもりで書いていた文です。インスタに文字制限ある事を知りませんでした。
なので以下はいつもと文体が少し違います。なんかインスタっていわゆる陽キャ(古い言い方w)ばかりじゃないですか。僕なんかは斜に構えないと投稿出来なくて…
なのでいつもこんな感じの投稿してます。そもそもインスタに長文書くのも変か。
せっかく途中まで書いたし、どうせ四貫機の事はnoteに書くつもりだったのでこちらに載せます。
四貫機復活計画、第一弾です!
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僕はバカなのは間違いない。
去年、最後の一軒残った近所の、委託製造を頼んでくる人がお茶を辞めた。
自園分の生葉は数も充実し籠棚も出来た事で全て竹籠で置ける様になった。
委託の人用にだけ送風式の生葉コンテナを使っていた。それが要らなくなったという訳だ。
狭い工場なので、たかが2ホイロしか入らないコンテナを退かしただけで大分広くなった。清々として良い空間になった。
そしてその清々しさは一ヶ月程で終わりを迎えた
「出会ってしまった二人は止められない」。
随分昔流れていた避妊具のコマーシャルの文句である。記憶が間違っていなければ。
高林の四貫粗揉機との出会いはそんな言葉が似合う。
仕事でたまたま走っていた道中に茶機械屋が有る。正解に言えば茶機械屋の前を敢えて選んで通った訳だが。
しかし今時の機械屋に僕が欲しい様な小型機械等ある訳が無い。今の僕からすれば聳える様にデカい120キロ機ばかりだ。
そう分かっているのだが、いつも狭いそのルートを選んでしまう。
その日も何となく前を通った。雑多に置かれた機械の中に妙に小さく見える一台がある。
そんな訳が無いと思いつつ通り過ぎ、目的を果たして帰路につく。
もちろん同じ道。後ろに車が居ない事を確認してゆっくりと通る。そして思わず近くで作業していた方に声を掛けてしまった。
路駐した4トンダンプは邪魔だっただろう。機械屋さんが愛想よく対応してくれると分かり直ぐに敷地に入れさせてもらった。
やはり四貫機だった。しかしどうも様子がおかしい。
なぜおかしいと分かるか。既に2台同じ物を持っているからだ。
貴重な物だと思うと機会が有る度に得てしまった。ありがたい事にほぼ無償だったが。
初めて四貫機という物の存在を知ったのは知り合いの工場にお邪魔した際だった。
120kの工場の中に分散されつつ置かれたそれは、大型機では不可能に近い少量の手摘みの逸品を揉む為のオーナーのこだわりだった。
当苑の工場を構えたいと考えた際に車2〜3台分の車庫程度でなんとかなる35k機を選定した訳だが、そのオーナーに四貫機はどうかと言われた。例えばだが海上コンテナやプレハブ小屋程度でも済む。より小さな工場で済む訳だ。しかし基本的に機械摘みの当苑には一度で15キロの処理力ではいかんせん少な過ぎると考えた。
何より入手出来る気もしなかった。静岡県の田舎で位しか見ない35k機。それに輪を掛けて希少な四貫機。
何処そこに有った、位の話は聞いた事が有った。そんなレベルの物である。
無事工場を構えて少し経った頃、たまたま木製の四貫機を手に入れる事が出来た。当初は貴重な物だ、何とか保存しようと位しか考えていなかった。
高林謙三翁が発明した当初と現代の粗揉機の構造は面白いと言ってしまって良いのか、反面この一世紀何が進歩したのだろうかと考えてしまう位構造が変わっていない。基本的に何も進歩していないと言って良いだろう。たった一点を除いて。
それは茶葉を乾燥させる為の熱風の加え方である。
現代の、というには時間が経ち過ぎているが、粗揉機はおそらく全て背面送風である。従来の機体側面の吸引ファンで弱々しく熱風を吸い込む側方吸引式に対して、機体後方から熱風を送風している。大量の送風を可能にした背面送風式によって粗揉機での茶葉のムレが解消され品質は大いに向上した。ある指摘を除いて。
背面送風式が普及し出した際にある声が寄せられたそうだ。
大量の熱風で茶葉を乾かす背面式の普及で、茶から香りが消えたと。
香気成分は揮発性なので、製造時に出来る事と言えば如何に茶葉に残すか?である訳だが、大量の熱風で乾かす背面送風式によって蒸し煎茶から香りが減ってしまった。
半世紀前にこの様な指摘が為されていた訳だ。そして現代の煎茶はどうなったのかは皆さんもご存知だろう。
僕が見た限りではオリジナルの四貫機で背面送風式は見た事が無かった。最初に見た大型機に同居していたそれはオーナーのこだわりで背面式に改造して有った。
入手出来た二台。木製の物の後で鉄フレームになった同型の物を入手していたのだが、もちろん吸引式。
これでお茶を揉んでみたらどんな香りに仕上がるのだろうか、と想像するのは僕にとっては当然の顛末だった。
いつか復活させたいと、その二台は見ては言っていたのだが、中々手をつけられずにいた。
火炉(熱風発生機)は入手出来た。だがモーターは付いていない。一台のそれぞれのモーターが付いていない時代の物なのだ。新しい鉄製の方で60年前の機械である。相応に錆て傷んでいる。
レストアを頼める良い機械屋さんとも縁が出来たが、当然相応の対価が必要になる。そんな余裕があるはずもない。
中々手をつけられずにいた。
話は戻る。今回出会った四貫機である。様子がおかしい、と先に書いた訳だが、何と背面式に改造してあった。驚く事に底竹も樹脂になっていた。オリジナル時には考えられない素材の物である。
2馬力、1.5kwのモーターともはや使えないだろうがインバータも付いていた。
比較的近年誰かが使っていたのだろう。底竹の素材で何処が改造したかは想像が付いた。
当初はサイズの問題ではなく、吸引式の粗揉機で茶を揉んでみたい、というのが動機だった。だが友人に「絶対に背面の方が良い。ダラダラ初期乾燥させて良い事は無い」と言われた。
考えてみれば風量は既にインバーターで幾らでも絞る事が出来る。良し悪しは別として、やろうと思えば当初から風量を落として揉んでみれば良いだけだ。
それならば調整幅はあればあるほど良い。大風量乾燥が“出来ない”のと“出来るが敢えてやらない”のでは何もかも違う。
であれば、今回の出会いは正に僥倖と言える。
今使っている35キロ機の設備をそのまま流用出来る。新規に用意する物が殆ど無く済んでしまう。
背面送風式に改造した際に他の点も改良してある。
作られてから既に60年は経っているだろう機械である。オリジナルのままならば相応に傷んでいる部分が多いだろう。
この機体はリペイントをしており、まあそれもそこそこ時間経過して凄く綺麗とは言えないがすぐさま直す必要も無い程度。
重要な機体内部、いわゆる底竹もオリジナルなら流石に傷んでいただろうが、これは何と樹脂の物に張り替えてあった。各種ある中でも結構高価なタイプである。
これは大きな意味を持つ。蒸し煎茶の機械製造は釜炒り等に比べて掃除が大変になる。蒸し機も洗う必要があるが、何より粗揉機の底竹に付くシブを取るのが大仕事になる。
蒸し煎茶を少量作る際に最も憂鬱になる点の一つである。
今回付いている樹脂タイプの底竹はシブが剥がれ易く、掃除の負担がかなり減る。
気軽に試作をしたいという点において、これはとても大きな意味を持ってくる。
背面式に改造するにせよ底竹を樹脂にするにせよ、そんな物を用意するなんて自分の想像の範囲に無かった物なのである。
現代で特注で無い限り、最小の荒茶製造機械は35キロ機である。一度に生葉35キロを処理するという事である。
そしてその価格は、60キロ機120キロ機と、より大型の機械と同等だと言われた。部品点数が変わらないからだと。
120キロ機なんてあからさまに大きく、自分で設置するなど思いもよらないサイズなのだが、しかし価格は同じなのである。
釈然としないし、何より一度に35キロの生葉を揉んで出来上がりは7キロくらい。仕上げをすればそれ以下になる訳で、到底償却など出来る訳が無い。
既に35キロ機は品評会出品茶などを作ったりする研究施設などでしか新規導入されない代物なのだ。
一方で、茶不況の元、より個性的なお茶をとの声は確実に増えてきた。大量生産で高品質かもしれないがあまりに均質な製品ばかりになったのもこの状況を招いた一因である。
しかしこれだけ設備投資費が莫大となれば少量生産設備など、個人で構えようが無いのは明白である。
機械のみならずそれを納める建屋等も当然必要になり、合わせた投資は莫大な物になる。
もしも。もしもだが、四貫機=15キロ機が新造出来るのならば。
より小さい建屋で済む。最少だと10畳間くらいに何とか収まるかもしれない。
少量生産用なので量産には有り難い制御系や搬送系の機械も最小限で済む。ならば今一律だと言われる機械費も抑えられるのでは無いか。
家族全員でも手摘みで30キロ程のお茶を摘むのは大変なのだが、10キロ強ならば4人位でなんとか摘む事が出来る。
例えば大型共同工場に所属しつつ、最小限の投資で自製も可能になるのでは?
そういう妄想を友人茶農家としている。
茶不況の今だからこそ、可能性があるのが四貫機なのでは無いか。
そんな試みは聞いた事が無い。
ではやってみようか。それが持つ者の義務かもしれない。
いや、正直に言えば大義は後付けに過ぎない。やってみたいだけなのだ。四貫機でお茶を作るという事を。
それがもしも将来の茶業にほんの少しでも寄与する事があるのならば幸いである。
僕はバカなのは間違いない。
120キロ機と35キロ機の同居は理想的だ。
量産して収益を確保しつつ、目的は自己満足でも名を上げるでも高く売るでももちろん何でも良いが、同時に少量生産も叶える。
最初の方に書いた120と四貫機の同居工場 噂だともう一軒知っているが、おそらくこれ以上ない組み合わせだろう。
だが、僕が目指す35キロ機と四貫15キロ機では相乗効果は低い。
量産には35では小さ過ぎるからだ。
それでもなぜやりたいかと言えば、面白そうだから。
その一言に尽きる。
かつて大型工場で1日10トンの生葉を揉んでいた。
それは必然的に流れ作業になる。何より重視するのはつつがなく茶が製茶ラインを流れるか、という点である。
大きな工場でお茶を作るという事は多くの場合そんな宿命を持つ。そういうお茶作りが茶業界では大多数だと思う。
今茶業に一番必要な点と言えば、「面白い」とお茶を作る人自身が思える事ではないかと思う。
僕がやると「面白い」というそれはバカな事にならざるを得ないのだ。
やってみよう。バカな事を。