お遍路に出るまでの軌跡
8年間のサラリーマン生活、朝8時から同じ格好をした大人が一同に集まり、朝礼に並ぶ、なんだか真空パックに包まれた使い捨て乾電池のようだった。
ちなみに電池残量はなくなる寸前、スカスカの電力でヨロヨロ働く。
ダルそうに課長の話を聴く大人たち、「仕事遅れるぞー!」野次を飛ばすおじさんもいる。
今日も1日始まった、せっせと準備をして外回り、イヤホンで音楽聴きながら仕事してた。
明るいうちに帰ってきて、後始末が終われば、17時のチャイムの音とともに仕事は終了。
毎日同じことを間違えずにこなすだけ、ミスさえしなければ怒られる事もうるさく言われる事もない。
福利厚生もバッチリ、クビになる事もなさそう、大きな元国営の企業なので潰れる事もないだろう。
思考停止の中で、目の前の娯楽だけを頼りに毎日を生きてた。
社会に出てから、目標を持ってなにかに打ち込む日々とは無縁になっていた。
毎日一生懸命、仕事は休まずこなしていたが段々それにも慣れてくる。
始めた当初と、辞める直前にやっていた業務にそこまで大きな違いはない。
始めた時は時給750円、手取りで12万ほど、残業代もほぼないので軽く絶望した。
だけど四年目には時給は1500円近くまで上がり、手取りはほぼ倍になった。
やる事は変わらないのに、むしろ慣れてきて横着になっているのに、暮らしはなぜか豊かになった。
周りも特に向上心や将来の展望なんてものはなさそうだった。
その日が終わればハッピーエンド、パチンコ行って帰るだけ。
毎日つまらなかったけど、仕事ってそんなもんだろう、好きなことよりできることで価値を提供し、より短い時間で高い対価を得られる場所で働くべきなんだ。
そう思っていた、あの時までは、、、
2017年に結婚式を挙げる事になった。
久しぶりに旧友たちと会う事になり、今の現状について語り合った。
学校の先生になって今は学年主任、子供の教育についてより深く知識をつけたい。子供の未来のために、自分の時間とエネルギーを損得勘定なしで全て差し出す友達。
東大を出て、メジャーリーガーの通訳をしたいと語っていた中学時代の野球部のキャプテン、今は海外で働くエリート、ヨーロッパを旅しながらワールドワイドに働く姿が眩しい。TOEICは満点。
みんな自分の未来に向けて走り続けていた。
僕だけ止まっていた。
気がついたら遠くに行っていた。
その時、高校生の時の甲子園予選、放送エンディングテーマが流れてきた。
俺だって同じだ、今からだって追いついてみせる。
次に会った時は、未来を活き活きと語る仲間の中に自信を持って入っていくんだ。
しかし、環境は変わらない、どれだけ一生懸命仕事をしてものれんに腕押し、ストレスだけが溜まっていった。
年が明けて、もう一人の旧友と会うことになった。
同じ高卒、野球部のキャプテン(ちなみに僕は高校は弓道部)大阪に出て美容師見習いとして就職、毎日夜遅くまで雑用とカットの練習に明け暮れていた。
給料もそんなに多くはなかっただろう、通信教育を利用して、独学に近い方法で美容師免許は取得した。
長い期間の下積みを経験していたことは知っていたけど、その後の事は詳しく知らなかった。
久しぶりに会って近況を聞いてみると、今は就職した店舗の店長になり、休日にはフリーで活動もしているらしい、資金の目処がつけば独立も視野に入っていると言っていた。
ずいぶん自立した大人になっていた同級生を見て、会社におんぶに抱っこの自分が情けなかった。
「毎日はそりゃ大変よ、だけど仕事が楽しいからな、弱音なんて出ないだろ」
かっこ良すぎた。
スカスカの乾電池に溢れるほど充電された。
この機を逃したらもう仕事は変えられない、絶対に抜け出して人生を洗濯してやる!
会社からの脱出を決意した瞬間だった。
その時ちょうど司馬遼太郎の竜馬がゆくにハマり、土佐藩の下士である竜馬が28歳の時に脱藩し、さまざまな人との出会いを通じて成長、自己実現の旅を歩んでいくストーリーに感銘を受けていたところだった。
今とは比べ物にならないほど、面子が重んじられていた武士の時代に、自分の想いを押し通してビジョンを実現させていく物語に心打たれた。
結婚式での出来事、旧友との再会、竜馬がゆくとの出会い、そして自分が今28歳だという事。
この縁に僕は、理屈を超越したなにかを感じとった。
四国をまわって見識を深めよう、偏見を持たず、どんな人、経験からも吸収する覚悟でひとりで歩くんだ。
そう思って歩き遍路をする為の準備をし始めた。
当然嫁は大反対、そんな経緯を話しても納得するわけがない。
しかし、これは僕の人生のターニングポイント、絶対に譲れなかった。
6月いっぱいで仕事を辞め、7月の終わりから徳島に降り立ち、歩き始める。
反対されたまま出発することになったが、最後は車で徳島まで送ってくれた。
優しい妻に感謝をしながら歩き始めたのが2018年の7月の出来事。
このお遍路での経験は、僕の人生に思った以上のポジティブな影響をもたらしてくれた、この話しはまた別の機会に、、、
僕も働く場所が変わればまた違った想いで働いていたのかもしれない。
でもサラリーマンのシステム上、僕には甘えが入ってしまう気がする。
雇用されている人は良くも悪くもしっかりと守られている。
簡単には辞めさせられないし、キツすぎるノルマも課すわけにはいかないだろう。
頑張れば難なく終わる毎日、むしろ新しい事に取り組むことはリスクになる。
自然と皆、新しい事は拒み、なるべく残業をして手取りを増やし、安定した生活に重きを置き始める。
その生活が続くと、楽な毎日に執着する事となる。
しんどい事はしたくなくなる、頑張っても頑張らなくても年功序列で給料は決まる。
だったら仕事はテキトーでいいじゃない。そんな思考に僕はなっていた。
でも仕事の醍醐味ってホントは安定や、時給換算でのコスパじゃないんだ。
チームで目標を持って一丸となって組織の繁栄に全力を注ぐ。
ミッションステートメント(組織の共通の目的)の中で顧客に最大限の喜びを提供する。
その中で、お客さんから喜びと感謝で迎えてもらえる人物となる事。
今はまだお金という形で結果は出てないけれど、自分の足で毎日の行動を選択してる。
イメージする未来に向けて一歩一歩、歩みを進めている。
しなやかに激動の毎日を楽しんだ竜馬のように、不安定に揺れる毎日に打ちのめされながらも楽しんで毎日を過ごしている。
今はまだ脱藩浪士のような存在かもしれないけど、いつか必ず本当のハッピーエンドを迎えてみせる。
そして、盃を交わして皆で活き活きと語り合うんだ。
次はなにする?って
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