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【インド】サドゥ女子ウマギリとの友情
翌日もウマギリのテントを訪ねた。
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友達を連れて行くね、と頭出しはしてあったので、前日は別行動で撮影をしていた戦士ヨーコ(宗教写真家)と賢者ショビット(コーディネーター/通訳)も同行したが、ウマギリは二人を一瞥(いちべつ)した後、あっという間に私だけを連れてテントから立ち去ってしまった。
呆気(あっけ)にとられたヨーコとショビットは、それでも撮影を開始。私と同じようにビッグマザーの存在感に圧倒されたようで、ショビットは相当に緊張しながら、使ったことのないヒンディー語の最上級の敬語を駆使して写真の許可を取ったという。
さて私の方は、ウマギリに連れられて女性サドゥのテント村を出て別の男性グルジのテントにお邪魔した。全く予想外の展開。
「私が好きなグルジなの、パワフルよ」
とウマギリが言う。その素っ裸のナガサドゥのグルジに参拝をすると、孔雀の羽ではなく直接背中をバンバンバン!と叩かれた。確かにパワフル…!きっと悪いものの除去の意味があるのだろう。グルジの隣には7~8歳くらいに見える幼い少年のサドゥが座っていて、眉間に灰を塗ってくれた。
ウマギリはその様子を見て笑みを浮かべている。ナガサドゥグルジには愛嬌があり、ウマギリは普段から可愛がってもらっているのだろう。
ナガサドゥのグルジのテントで弟子からチャイを出してもらいながら、ウマギリはすっかり寛(くつろ)いだ様子で話し始めた。
「自分のテントにいるとあなたは他の女性サドゥたちからもいろいろと話しかけられてしまって独り占めできない、だからここに来たの」
と言われて驚く。
「後ろは向いちゃダメ。後ろのサドゥは別のグルジだし、生き神様だから。目の前のグルジだけ見ておいてね」
と言われて、そんなものかな、と思い言われた通りにする。
ウマギリは決してぺちゃくちゃ話さない。
一つ一つの話題を、時間を置いて、冷静に、それでいてときどきからかう様に話す。
間に挟まる沈黙の時間は決して気まずくはなく、むしろ心地良い。
スマホを貸して、と言われたので差し出すと、
“Om Namo Narayan”
と入力し、
「これを言ってみて」と言う。その通りに「オム・ナモ・ナラヤン」と口にすると、
「心を平穏にするマントラだから、これをいつでも大事にしてね」
と真剣な顔で言う。
「いい?あなたの身体と心はあなたのもの。あなたと、あなたの夫と子どもたち以外に絶対に触れさせてはいけない。大事にしてね。」
そして炎色のネックレスを外して私にくれた。驚いていると、
「私の大事なお母さん(ビッグマザー)があなたの存在には許しを出した。だからいいの」
と言う。
お礼に私がしていた赤い腕輪をあげようとすると、
「お母さんに怒られちゃうからダメ、めちゃくちゃ怖いんだから」
と茶目っ気たっぷりに断られた。
「お母さんは、他のサドゥのようにチラムは絶対にやらないし、私たちにも禁止している」
とも言う。大麻を瞑想に使うサドゥが多いのをよく見るので驚く。自分が良しとしないものは、いくらサドゥの伝統でも手を出さないビッグマザーの断固たる意志を感じた。
ナガサドゥグルジは私たちの様子に気を配りながら、次々にやってくる参拝者の背中をバンバンバン!と叩き続けている。あの髪の毛は一体どうなっているのかなとじっと見ていたら、ウマギリが下ろして見せてあげてよと頼み、笑いながら快く外してふざけて隣の少年サドゥに被せて見せてくれた。
少年サドゥはスマホでずっとTikTokを見ながらビスケットを食べたりアイスバーを食べたりしているが、タイミングよく参拝者の眉間に灰を塗ることだけは忘れない。
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参拝者が少し途切れると、少年サドゥはグルジにスマホを取り上げられてしまい手持ち無沙汰になったのか、後ろに控えていた大人の弟子たちに笑いながら全力で突進していった。倒された大人たちは、仕方のない子だな!というように爆笑しながら少年サドゥを抱き締めている。
ああ、サドゥの世界にはきっと、俗世でウマギリやこの少年が手に入れられなかった愛情があるのだろうな、と胸がじんわりとあたたかくなった。ここだったらきっと心の底から安心できる。
ウマギリが、身体のこと、心のこと、お母さんのことにこだわって私に諭すように話すので、それらに関して絶望的な何かが昔あったのかもしれない。あの女帝のようなビッグマザーだって過去に関しては例外ではない。こちらからは決して尋ねはしないけれど。
ウマギリと仲良くなり過ぎると社会を捨てて自分と向き合う修行の妨げになるのでは、とも心配していたが、ビッグマザーから許可が出ていることに加え、少年サドゥと大人の弟子たちとのあたたかな愛着関係を見て、大丈夫そうだなと安堵した。
そして、ウマギリが自身の心を支えているマントラや、おそらく自分の体験から得た教訓であるのかもしれないメッセージを、私のために懸命に伝えてくれたことに改めて感動が湧いてきた。
そのうちに、歯ブラシが欲しいから買い物に行こうと言って、ウマギリはナガサドゥグルジにバッグを預けテントの外へ出た。
会場内を一緒にぶらぶらする。小さいスナックの袋菓子を、「これおいしいよ」と露店で買ってくれようとするが、受け取らないと機嫌が悪い。逆に、私が何か買おうとしても決して受け取らない。仕方がないので一方的に有難くもらっておく。
昼間からネオンがつき、ぴかぴか光って動く神様がたくさん置かれた遊園地のような一角に入ると、「ここが無料なんて素敵」とウマギリは喜んだ。
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別の露店でよくサドゥが持っている刺繍バッグの値段交渉をしたりしながら(結局高くて買っていなかった)、歯ブラシ売ってる?といろいろな露店に聞いて歩く。
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てっきり、歯磨きによく使うニムの木の枝を買うのかと思ったら、通常の歯ブラシと歯磨き粉だった。何だか拍子抜けしてしまった。その辺の女の子同士のお出かけと全く変わらない、むしろウマギリは私とごくごく普通のお出かけをやりたかったのかもしれない。
ナガサドゥグルジのテントに戻り、預けていたウマギリのバッグを受け取る。もう行くのか、とナカサドゥグルジはパパイヤを切ってご馳走してくれた。
女性サドゥエリアの水場へ歯磨きに向かうウマギリに着いていく。
その後に困ったことが起きた。
交互にトイレに入り、ウマギリが入るときはバッグを預かったが、私が入るとき私はバッグを預けなかった。自分の常として、現地で仲良くなっても貴重品を入れたバッグは必ず自分で管理する。
「私は寂しい。どうしてさっきバッグを預けなかったの。まだ私を信用していないのね」
と冷静にウマギリに言われて仰天する。ある意味、よく察している。そしてそれを我慢せずはっきり口にする。
そうか、バッグを預けるのは信頼の証と思っていたのか。だからナガサドゥグルジにも自分からバッグを預けたのだな。
窮地に陥った私は、
「トイレでトイレットペーパーを使いたかったから」
と持参しているトイレットペーパーをバッグから出して見せた。用を済ませると伝統的に水で洗い流すのでトイレットペーパーは置いていないところが多く、実際にそれを使ったので、苦しいが全くの嘘ではない。
ウマギリは「そうだったのね」と言ったが、私に後味の悪い思いは残った。私にそう思わせるほどの真剣さと魅力が、ウマギリにはある。
そしてウマギリは、バッグからオレンジ色の巾着袋を出して、右手をその中に入れ巾着袋の紐を手首にぐるぐると巻いて固定し、歩き始めた。後から知ったが、中には菩提樹の実が沢山入っており、数珠の代わりのようなもので、それを触りながらマントラを唱えて神を感じるのだそうだ。もしかしたらウマギリは、菩提樹の実を触って心を落ち着けようとしていたのかもしれない。
そしてビッグマザーのテントに戻ると、そこには、とあるお客様が来ていた(続く)。
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