【シンガポール】超合理都市は人を幸せにするか
7年前にシンガポールに住み、その後子連れでインドネシアに住み、家族で再びシンガポールに戻ってきた愛子と会う。今は日本を行き来しながら広報と社外取締役の仕事をしており、シンガポールに住む面白い人を紹介してくれるという。
ベンチャーキャピタルを経営する蛯原さん。アジアのスタートアップ動向にお詳しい。
そしてコンサルティングと不動産を経営するキコさん。うどんにお詳しい(笑)。
3人には、いかにシンガポールが住みやすく快適かの実感が共通していた。
街が移動しやすく綺麗で整然としており、成長の勢いもある。
収入におけるシンガポールの節税効果は大きい。家賃の高さは玉にキズだが、税金の低さを考えると辻褄は合わせやすい。
教育費は高いが、住み込みのメイドさんやナニーが当たり前で、日本より子どもが育てやすい。
アクセスの良さも秀逸で、日本との往復も容易だし、アジアじゅうの投資先にすぐ飛べる。
マリーナ・ベイ界隈やオーチャードロード、セントーサ島のテーマパークをはじめとするアクティビティに事欠かかない。金融街のホーカーズ(屋台街)であるラオパサは、金曜夕方になると三々五々ビジネスマンが集まり出し、会社を超えた飲み会になるなどのローカルな楽しさもあるという。
また、8年ぶりに同じ名前の和嘉子(またの名をNashwa)にも会う。以前、トルコで一緒にベリーダンスを踊って宿代を稼いでいた仲であり、彼女が日本に住んでいたときに私が居候をさせてもらっていたこともあった。
歴史あるボタニカルガーデン、最近熱狂的なファンを生んでいる進出大成功例のドン・キホーテ・スーパー、カラフルな出窓が目立つクラーク・キーと川のボート巡り、ラッフルズホテルでのシンガポール・スリング、伊勢丹に三越・ハイブランドが集まるオーチャードロードとあちこち案内してくれ、今日は日曜だからメイドさんも建設工さんたちもみんなお休みで寛いでいるとのことで、それぞれ友人たちで集まってのんびりしている長閑な姿が見られた。
Nashwaが溌溂として元気で私まで嬉しくなる。おしゃれな自宅にもお邪魔して、インド系アメリカ人の素敵なパートナーにもお会いする。
二人は完全なるノマドライフで世界のどこでも仕事ができるが、シンガポールが住みやすく気に入っていて根を下ろしている。まさに世界中から選ばれる国。
行動規範を中心に細かい罰金が多く“明るい北朝鮮”とも呼ばれるシンガポールだが、その清潔さや楽しみ方は慣れてしまえば気にならないらしい。恐らく、ルールの背景に存在する思想が的を射ているのだ。
日本には同調圧力と無言の村八分の不文律があるが、リー・クワン・ユーが中国・マレー・ヒンドゥーという異なるバックボーンから複合的に成り立つ国でゼロから暮らしにおける常識を作り上げるには違う手を考えねばならなかっただろう。それには罰金という鞭が手っ取り早かったと想像する。
この細かな罰則の基準で一番私の注意を引くのは、「清潔」への並々ならぬ執念。
メーカーにおける『5S』を思い出す。
・整理:必要と不要を区別する
・整頓:必要なものをすぐ取り出せる
・清掃:いつでもきれいな状態にして点検する
・清潔:きれいな状態を維持する
・しつけ:4つのSを習慣にする
この国は5Sをまさに体現しているかのようだ。
活気はあれど、つい数十年前まで荒れた貧民窟だったと言われるシンガポール。
もちろん、雑多で勢い溢れる混沌としたエネルギーだって経済成長に寄与はする。一方で、健康を維持し、安全を確保し、安心して暮らすことも同時に追求し、格差や貧困との決別を図ろうとすると清潔さは重視するべき基準なのだろう。
文化的生活は清潔のもとに育まれるが、逆に清潔感は人に“尊重されている”という気持ちを思い起こさせ、文化的な発想を生む。
超合理都市を支える思想には清潔への飽くなき希求があり、それは明確に幸福感に繋がっているように思う。