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【インド】ねぇモディ首相にメールしてよ
インドにおける死の哀しみにおいて、聖都バラナシで火葬をする、もしくはガンジス川に灰を流せることは救いにも似た喜び。
ハリスチャンドラにある小さい火葬場で、夜、燃やされる遺体を見ていた。バラナシは生と死が出会う特別な場所。他の街で人体が燃やされているのを見たら気分が悪くなるかもしれないが、ここではローカルのバラナシ人が一人ひとりしっかりと死が意味する神聖さを認識しているからか、ある種の希少な厳粛さがある。
遺体が、ガンジス川に浸された後であろう、丁重に布にくるまれて運ばれてきた様子を眺めていた。遠目で見ても、すでに魂は抜けた後なのだろうなという存在の軽さが感じられた。
薪をくべ、儀式を行い、火葬場のそばで絶やさずに灯し続けているシヴァ神の火を分けてもらって燃やし始める。その炎が大きいほど、生前の陰徳を表すという。ただ、女性には哀しみのショックが大き過ぎるとされるので遺族の中の男性のみが立ち会う。
みな、遺体が燃え切るまで3時間ほど、その周囲でじっと見守っている。これは故人に想いを馳せる特別で十分な時間のように思われた。
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3時間ほどかけて燃やし切った後、喪主がガンジス川の水で儀式を行い、燃え残る硬い骨(男性は大腿骨・女性は骨盤)を回収した後、灰を川に撒く。
とはいえ、バラナシの火葬場も大きく変わりつつある。スマホの普及で撮影禁止がだいぶ緩やかになり、遺族が遺体とセルフィーをすることも増えている(わたしも今回初めて写真を撮影した)。
火葬場のそばでは、薪代を払えない貧しい人のために、火力が強いガスを使った近代的な葬儀場が工事中だった。
(マニカルニカー・ガートの火葬場では、死を待つ人の家でボランティアをしていると詐称するインド人が一通り説明をした後に貧しい人への薪代の寄付を要求してくる。真っ赤な嘘なので要注意。)
モディ首相はヒンドゥー教第一主義。本気で聖都を変えたいのだろう、この6年でバラナシの至るところが驚くほど変わっていた。それは資本主義に依拠して観光産業で経済を回し、衛生観念を取り入れて福祉向上も達成することを狙いとしていると察せられた。
メインロード両脇とマニカルニカー・ガートの南隣は建物が取り壊され、すべすべと滑らかでのっぺりとした一帯に変容。一応、グレーがかったサーモン色に統一されているので、日本でいう景観条例に近いものでルールは策定してあるのだろう。
建物の端にはレース模様のような透かし装飾もちょこちょこ入れてあり、統一された中にリズム感を醸し出そうとする努力も感じられる。
それでも、がっかり感は否めない。きれい過ぎる。
細くくねくねとした先行きの見えない角を曲がったら、予想を軽々と裏切る汚さや奇妙さやハイテンションやド派手さがやってくるのがここバラナシだったのだ。
新しい都市計画は理性的で真っ当だけれど、展開は読めてしまう。
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バラナシの皆さんが新型コロナで大変に苦労して、その間に行政が一生懸命都市開発を推し進め、観光収入が上がるように努力を積み重ねた結果だというのも分かっている。カーストのどこに位置しているかにもよるが、外部環境が変わって収入が急増したバラナシ人もいるだろう。
見据えているのは日本のようにインバウンドではない。あれよあれよともう人口15億人に手が届きそうなインドでは、国内の莫大な富裕層そして中流層をどう回遊させるかに注力している。相手にするのは同じインド人旅行者で、比較すると外国人旅行者は金を持っていないとすら思われている。
最奥部に辿り着くまでがアドベンチャーだったゴールデンテンプル(黄金寺院)が、広々とした見晴らし最高の商業施設のようになっていてわたしは勝手に心底がっかりしていた。しかし、インド人好みではあるだろう。バラナシのディズニーランドなのよ、とバラナシ歴8年のアキコさんは言う。
ガートのガンジス川沿いの変化はもっと顕著だ。沐浴場は「溺れないように」囲いで覆われ、囲いの上に「安心して着替えられるよう」着替えボックス設置、「年配者も沐浴できるよう」エスカレーター建設、「川の衛生状態を保つため」洗濯禁止。沐浴している人よりもボートの数の方が多いのではないだろうか。早起きして朝日を見るために乗っていた手漕ぎボートも、「モーターがないと危険だから」近く禁止されるという。
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ここは太古から積み重ねられたタイムスリップしたアングラ感があり、この世とあの世が出会う摩訶不思議な場所であり、それゆえバックパッカー憧れの地だった。
このままどんどん現代によって上書きされていって、他と違いがなくなっていってしまう。
日本の明治維新の文明開化もこうだったのだろう。「危ないから」と廃刀令が敷かれ、着物は「不便で時代遅れだ」とされて洋装が流行し、廃仏毀釈が起きて信仰が変化した。
一抹の寂寥感はあるけれど、部外者が偉そうなことは言えない。わたしたちこそ手を緩めることなく日本の暮らしを漂白し続けているのだから。
時代は後戻りできない。便利は魔物。進んでいくしかない。
そのバラナシでまだ変わらないものもある。街に棲みつき闊歩している牛も犬も、毎日朝晩バラモンがガンジス川に捧げるアールティーの儀式も、毎朝の笑いヨガも、路上にあれこれと広げて社会の隙間で逞しく生きる人々も、お金のある人が寄付する無料サフランライスも。
洗濯がダメでも家で洗濯してきて運び、観光地の脇にところ狭しと干しているし、場所がなければ立って広げて陽に当てている。
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何人かのバラナシ人と話すと、収入が増えて喜ぶ一方、昔の方が良かったし好きだったと苦笑する。
「これくらいにしておいてってモディ首相にメールしてくれよ」
と言ってくる。
難しいだろうが、バラナシに住む愉快で生命力に富んだローカルの皆の心までは大きく変わり過ぎないよう、無力ながら願った。
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