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【インド】人肉喰らいアゴリサドゥ

マハ・クンブメーラに圧倒され魂を揺さぶられ、また寝不足で連日激しく歩き回って全身の異常な脱力感を覚えるくらい疲労困憊になりながら、聖都バラナシに戻って来た。

マハ・クンブメーラでは様々なサドゥに会えたが、最恐の暗黒サドゥと呼ばれるアゴリサドゥには会えなかった。
よく似たサドゥや骨を下げてサドゥに見える装束の人もいるが、だいたいがフリだけのビジネスアゴリなのだ。

 似ているけれど違う…。

全裸でハードコアな修行をすることが多いナガサドゥは、イスラム教などの脅威からヒンドゥー教を守るため戦うので最右翼の存在とされているが、アゴリサドゥは言うなれば異端。自分はもう死んでいる、と火葬を表す炎色の衣を纏(まと)う他のサドゥとは一線を画し、死そのものを司る漆黒の衣を纏う。そして身体に人骨をぶら下げ、人肉を喰らう修行を自らに課すことで一切の生の執着を断ち、黄泉の世界と繋がるという。

バラナシに戻ってからアゴリサドゥの寺院に赴いた。
門の前には骸骨を重ねたモニュメントが置かれ、少し可笑しみを感じてしまうくらい一目でアゴリサドゥだと察せられる。

門の柱を屋根には骸骨のモニュメント。

靴を脱いで敷地内に入ると、本殿は至って特徴のない四角い建物で、異様な雰囲気は全く無かった。買っておいた花といくつかの米のポン菓子を供えて、決められた通りに参拝をする。
少し変わっているのは、本殿に向かって左側に大きなプールのようなコンクリート製の池があることだ。女性が沐浴をすると子宝を授かる水だそうで、たくさんの来訪者があるという。

よく分からない。一方では死肉を食べて死を司り、他方では命を生み出す水を祀るアゴリサドゥ。
輪廻転生を促進させる役目なのだろうか。

夜、ガンジス川沿いのハリシュチャンドラで火葬を眺めていた際、死肉を求めてやって来るというアゴリサドゥを探してみたが見つけられなかった。炎色の衣のサドゥが遺体を焼いている火元の近くに立っていたが、現金にもただ暖をとっているだけだった。

しかし、別行動していた戦士ヨーコはアゴリサドゥを発見し、撮影とインタビューに成功したという。

黒装束ではあるが、想像していたエキセントリックさとは異なるとても落ち着いた人柄で、穏やかな目をしていたそうだ。写真を見て、私がガンジス川で見かけたひっそりと歩いていたサドゥもアゴリだったのだなと分かった(この記事のトップ写真。衣の合間からちらっと小さな骨が見えただけだった)。
想像以上にひっそりと暮らしているようだ。

首からは下げていたのは解脱したグルジ(師匠)の腕の骨で、弟子たちで分けた遺骨の一つらしい。そして、弟子みんなでグルジの死肉を少しだけ口にしたそうだ。
行為としては摩訶不思議ではあるが、解脱に至った特別な肉体を自分の中に取り込み骨を身につけることで、自身の解脱に向けた意識が深まっていくという意味があるようだ。

首から師匠の遺骨を下げている。
ヨーコ、アキコさん、通訳さんちゃんと。

解脱したアゴリサドゥのグルジの話を聞いたヨーコは、クンブメーラで目撃した解脱したナガサドゥの写真を取り出して見せてみた。その瞬間、アゴリサドゥの表情が変わり、真剣な顔で写真に向かって手を合わせたそうだ。

師匠の死肉を摂取するほど常に死を感じる修行を行っているアゴリサドゥには、写真を見ただけでそれが何を意味しているのかを察することが出来たのだろう。
アゴリサドゥの存在は、サドゥの底知れなさを改めて実感させた。

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徳田和嘉子 | 冒険家🌏️世界で本当の豊かさを探して
この度初めてサポートして頂いて、めちゃくちゃ嬉しくてやる気が倍増しました。サポートしてくださる方のお心意気に感謝です。