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【新潟】越後妻有トリエンナーレ:風土と子どもの記憶を辿る
なぜ大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレはこれほど印象に残るのか。
新潟県十日町市と津南町、古くは越後妻有(えちごつまり)と呼ばれてきた地域に母・妹・第1殿下(長男9歳)と2泊3日で赴き、地域を車で細かく移動しながら大地の芸術祭を堪能した。
あざやかに脳裏に蘇るのは、秋晴れの空に赤黄に色づき始めた深い山々と稲刈り跡に雨が貯まり陽光を反射する棚田、豪雪地帯にあって連綿と積み上げてきた土地の記憶、そして過疎以前の子どもたちの屈託のない笑顔の想像、それらを様々なかたちで融合しようとするアート作品のアクセントである。
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目を引くアートの会場は多くが廃校だ。
小学校の建物は基本的に1棟だけ。積雪対応の高床式で、階段を上ったところにある1階と2階が教室、3階が体育館というコンパクトなつくり。教室は低学年、中学年、高学年の3つに限定され、他方で校長室は必ず存在する。屋根は雪下ろしを想定し、ほかの民家と同様にドーム型か切妻である。
第1殿下(長男)は到着したとき、「こういうのあんまり好きじゃないかも」と、来なければよかったという気持ちを暗に主張したが、体験アートを発見して以降、態度が一変した。俄然張り切ってその場の展示をすべて高速で見て回り「オレもうここ見たよ(ドヤ)。あっちに影絵がある」と悦に入って報告しながら、ひとたび一つの体験アートに集中すると目を輝かせて時間の概念を吹き飛ばしている。
体育館も会談も教室も独特な色合いと造形の木の実怪獣に埋め尽くされ、特に自転車を漕ぐと動くパーカッション怪獣が楽しい。思い出を食べてお腹に永遠に残しておくトペラトトが棲みつく旧・真田小学校。
ー「絵本と木の実の美術館」鉢&田島征三(絵本作家)
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くちゃらもこ にょにょにょにょにょげーー はぷっ!(トペラトト)
朝顔の種の形をした船や飛行船が点在し、発刊200回を超える明後日新聞が貼ってある。あしたのそのつぎの思いを描く、勢いと明るさをもった朝顔の種だらけの旧・莇平小学校。
※“すけべ”と読まずべからず、“あざみひら”と読む!でも子どもたち絶対「すけべしょう」って呼んでたはず(笑)。
―「明後日新聞社文化事業部」日比野克彦(段ボールアーティスト・東京藝大学長)
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死を想起させるボルタンスキーの独特の切迫感とシリアス性が望郷の想いで和らげられている印象。電球が灯されただけの真っ暗な体育館に充満する藁(わら)の匂いは、ボルタンスキーのパリの子ども時代の匂いの記憶なのか、それとも十日町の稲わらの薫りなのか、個人と場の記憶が溶け合っているように感じた。場の重みを閉じ込めて不在を表現した旧・東川小学校。
―「最後の教室」クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン(インスタレーションアーティスト)
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母が長居し、置いてあるすべての雑誌を読みたいと言い残す。アートレスを提唱し制作プロセスすべてを作品にする川俣正の活動資料・記録の集積地である旧・清水小学校。
―「妻有アーカイブセンター」川俣正(造形作家・元フランス国立高等美術学校教授)
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遊びのおもちゃ箱をひっくり返したみたいな五感体験美術館。食・生活・遊び・踊りを通じて子どもたち一人ひとりの得意なことを掘り起こしていく旧・奴奈川小学校。
※“ぬながわ”と読む!
―「奴奈川キャンパス」山岸綾、鞍掛純一(日大芸術学部美術科教授)+日大芸術学部彫刻コース有志、松本秋則・倫子、関口光太郎、瀬山葉子、他
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脇では子どもたちも思い思いの作品を創り始める
実際に大学などで教えているアーティストも多く、幼さ若さが持つ可能性への視座が日常の接点の堆積から養われている気配がある。
明治時代の学制公布により相次いで建てられた小学校は、潤沢に地場の木材が使われ、階段の手すり一つとってもシンプルながら面取りの角度に工夫が込めらていたりと、大工たちが丹精を込めて仕上げたことを伺わせる。周辺に住むお年寄りまですべての住民が卒業した思い出深い廃校群。空耳で子どもたちの笑い声やけんかや歌がずっと聴こえている錯覚に陥る。
そんな背景はつゆ知らず、純粋に”今”の面白さを見出して嬉々としている小学3年生の我が第1殿下が、この芸術祭における私の感性の増幅装置であったように思う。
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この地域の学校へのまなざしの現代建築への昇華は、MVRDVが設計した「まつだい農舞台」の中にも見られた。
積雪を考慮して高床式だが、四方に伸びた脚を弓のような構造にして張力にし、柱を使わない。その脚の中腹からは、イリヤ&エミリア・カバコフの「棚田」が臨めるという構造の内部には、河口龍夫の「関係 - 黒板の教室」があった。
教室のどこでもが黒板として墨緑色に塗られ、壁にも床にも地球儀にもチョークで描き込みができる。机ひとつひとつの上板や引き出しを開けるとすべてアートが入っている。この部屋に入ったとき、「ああ、やっぱりね」と感じた。この地は、学校が切り離せないのだ。
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大地の芸術祭の作品は、廃校がなければ、古民家がなければ、山がなければ、棚田がなければ、大雪の季節がなければ、何世代にも渡って暮らしを積み重ねてきた地元衆がいなければ、成立しない作品ばかりだ。
限界集落に近づいている切なさと哀愁、しかしここで生き続けてきた誇りを感じながら、自然への畏敬とたゆまない暮らしの円熟味、永遠に消えない子どもたちの不在の存在感が心に刷り込まれていった。
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