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クラブハウスの新しい顔に選ばれたドゥルー・カタオカさんの行動から、私たちが学ぶべきこと

一時期の異様なブームも過ぎさり、すっかり落ち着いた感もある音声SNSのクラブハウスですが、最近アプリの「顔」が、ある日本にゆかりのある女性に変わったことをご存じでしょうか。

その方の名前は、ドゥルー・カタオカさん。

英語のWikipediaにページが作成されていることからも分かるように、世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーにも選ばれたことがあるなど、シリコンバレーを拠点にする著名なビジュアルアーティストの方です。

今回のアイコン変更で興味深いのは、これまでクラブハウスの「顔」にはどちらかというとクラブハウスと相性の良い音楽系のアーティストが選ばれる印象があったのに対し、今回のドゥルー・カタオカさんが選ばれたことには、最近のアメリカにおけるアジア人差別問題へのメッセージが込められているという点です。

そのため、米国のメディアでは「初のアジア系アメリカ人として、ドゥルー・カタオカさんがクラブハウスの顔になる」という主旨の記事が多数書かれています。


実は日本生まれの墨絵画家

今のところ日本のメディアにはあまり取り上げられていないようですが、カタオカさんは、苗字から分かるように、日本人政治学者の片岡鉄哉さんを父に持ち、生まれてから5歳まで東京に住んでいたという日系アメリカ人でもあります。

ドゥルー・カタオカさんのアートは、子どもの頃に習った墨絵を原点としており、著名なジャズ/ミュージシャンであるウィントン・マルサリスのカバーも描いた墨絵画家としても知られています。

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さらに、デジタルとアートの組み合わせや国際宇宙ステーションで行われた史上初の無重力空間美術展に挑戦されるなど、その活動の幅は多彩で、2016年にはCNBCにヒラリー・クリントンの大統領選挙のコラムを執筆されたり、作品を通して得た寄付金をチャリティー団体に寄付するなど、社会に対しても発信と行動を続けている方です。

アートとテクノロジーで社会をどう動かすか

そんなグローバルに活躍するドゥルー・カタオカさんですが、何度も日本にも来られており、私も少しだけお話ししたことがあります。

2010年には、お台場にある日本科学未来館で開催されたTEDxTokyoで、アートとテクノロジーの組み合わせをテーマにプレゼンテーションをされていました。

このプレゼンにも見られるように、ドゥルー・カタオカさんはアーティストではあるものの、SNSのような最先端のツールをいち早く試すのが好きな方だそうで、クラブハウスについてもリリース直後の昨年から長く利用をされていたようです。

ドゥルー・カタオカさんのクラブハウスのアカウントは、クラブハウスのアイコンにも選ばれたこともあり、すでに70万人以上のフォロワーがいますが、実はTwitterやInstagramのフォロワー数は現時点でも6000人前後と、決してもともとSNS上のインフルエンサー的な方だったわけではありません。

ただ、ドゥルー・カタオカさんが、普通のクラブハウスユーザーと明確に違ったのは、クラブハウスのルームを、アメリカで社会問題化しつつあったアジア人差別問題を考え、行動するために活用したことでした。

アメリカで急増したアジア人差別問題への素早い行動

今年の2月、アメリカで急増したアジア系に対するヘイトクライムに対抗する形で「#StopAsianHate」という抗議運動が拡大しはじめます。

ドゥルー・カタオカさんは、これに呼応する形で、自らのクラブハウスのクラブでこの問題を議論するルームを開設。
さらには、それを起点に、アジア系アメリカ人の団体に寄付を行う募金まで立ち上げて、クラブハウスを中心に、現時点で9万$以上の寄付を集めることに成功されているのです。

自分が持っていた影響力以上のインパクトを、クラブハウスというプラットフォームのポテンシャルを最大限活用することで生み出すことができた事例と言うことができるでしょう。

日本で、アメリカのアジア人差別問題が報道されるようになったのは、3月16日にアメリカ・ジョージア州アトランタで6人のアジア人女性を含む8名が射殺される事件が起こってからという印象が強い方も多いと思います。

この問題に言及し、日本でも話題になった大坂なおみ選手のツイートも3月28日。

ドゥルー・カタオカさんの募金活動が、このアジア人差別問題が世界中の注目を集める1ヶ月も前にはじまっている点から、ドゥルー・カタオカさんの行動が速く一連の抗議運動の盛り上がりにも貢献していることが想像できると思います。

私たちは新しいテクノロジーや影響力をどう使うべきか

日本でも、2月のクラブハウスブームの際に、多くの著名人やインフルエンサーがクラブハウスに殺到しましたが、どちらかというとYouTubeのような将来のビジネスにつながる可能性がある新しいSNSの波に乗り遅れまいとするエネルギーが中心で、自分のフォロワー数を増やすノウハウを共有したり、今後の課金の可能性を議論する部屋が多かった印象もあります。
その結果、そうした方々はクラブハウスが儲からないのを確認すると、あっという間にいなくなってしまいました。

一方、ドゥルー・カタオカさんは、クラブハウスの人気にかかわらず、アジア人差別問題について議員と議論するルームを立ち上げるなど、地道に活動を続けています。

私たちとドゥルー・カタオカさんでは、新しいツールに向き合う姿勢が、根本的に違うのかもしれません。

実は、ドゥルー・カタオカさんは、2016年に広島で開催された「国際平和のための世界経済人会議」にもヤンググローバルリーダーの一人として登壇し、「広島の体験を世界の人々に伝えるために、広島平和記念資料館での体験をソーシャルメディアで広めてもらうなど、もっとできることがあるのではないか」という主旨の問題提起をされていました。

当時、私もその現場でその発言を聞きながら、日本の外の視点で日本を見ることができるドゥルー・カタオカさんならではの発言なんだろうなと思ってしまったのを覚えています。

今回クラブハウスでのドゥルー・カタオカさんの行動や実践の話を聞いて、改めて考えさせられるのは、新しいテクノロジーやプラットフォームの力を活用し、いかに社会に良い影響をもたらすかという視点が、私たちには足りていないのかもしれないという点です。

私自身も、クラブハウスにながらく生息しつつも、日々雑談だけに終始してしまっていますが、ドゥルー・カタオカさんの成功体験に勇気をもらい、小さな行動を起こしていきたいなと感じる次第です。

この記事は2021年5月3日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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