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日本では「オウンドメディア」の定義を狭く考えている人が、多すぎるのではないだろうか #オウンドメディアカンファレンス

オウンドメディアカンファレンス開催まで残り10日となりました。

「オウンドメディア」という単語自体は、マーケティングやPRの世界でよく使うようになったと思いますが、実は人によってイメージがかなり違う単語だったりするので、ここで整理しておきたいと思います。

※ちなみに、2023年もオウンドメディアカンファレンス開催します。


トリプルメディアとオウンドメディア

日本において「オウンドメディア」という単語が、広く業界で認識されるようになったきっかけは、2010年のWeb広告研究会宣言だと記憶しています。

トリプルメディア自体の提案は、前の年の2009年の秋のイベントでWeb広告研究会の渡辺さんがされていたと思いますが、このWeb広告研究会宣言に取り入れられたことによって、多くの日本企業がトリプルメディアの図を元に自分達の取り組みを議論するようになりました。

そのプレゼンの時の最初のスライドがこれです。
(Web広告研究会と渡辺さんにご協力いただき当時のスライドを頂きました)

2009年〜2010年と言えば、まだツイッターが日本で流行るのかどうかも不明だった時代で、ソーシャルメディアと言えばブログやmixiの印象が強かった頃です。

Web広告研究会宣言には各メディアは下記のように定義されています。

【トリプルメディア】
・ペイドメディア(Paid Media)
“買う”メディアのこと。企業が広告費を払って広告を掲載する従来型のメディアを指す。
・オウンドメディア(Owned Media)
“所有”するメディアのこと。自社コーポレイトサイトやブランドサイトなど、企業が直接所有するメディアを指す。
・アーンドメディア(Earned Media)
“得る”メディアのこと。信用や評判を得るメディア、SNSやブログ、twitter等といったソーシャルサイト等を指す。

オウンドメディアとは、文字通り企業が「所有」しているメディアなので、自社コーポレイトサイトやブランドサイトも当然含まれるもの。

Web広告研究会宣言では、従来の「Webマーケティングにおいて重要視されてきたのは、広告を通して一般層に訴求する「ペイドメディア」と、クチコミ情報等によってファン層を形成する「アーンドメディア」であった。」が、今後は、「自社顧客層と直接つながり信頼関係を築き上げるための「オウンドメディア」も含めたトリプルメディアの複合展開」が重要になるとうたわれていたわけです。

しかし、日本における「オウンドメディア」という言葉は、その頃の定義を離れて様々な誤解を生んでいくことになります。


誤解1:オウンドメディア≒企業のニュースサイト?

最も象徴的な誤解は「オウンドメディア」を、企業が運営するニュースサイトと狭く定義する人が増えてしまったことでしょう。

2012年頃からいわゆる「オウンドメディアブーム」がはじまって、1度沈静化したと思えば、また盛り上がり、また2018年頃に大手企業のオウンドメディア閉鎖とともにブームの終了と言われ、と「オウンドメディア」を手法と捉えたブームが日本ではなんどか繰り返されているのですが、そこでイメージされている「オウンドメディア」は「企業が運営するニュースサイト的なサイト」というイメージだと思います。

特に初期のオウンドメディアブームは、低コストで記事を量産すれば検索経由でたくさんアクセスが稼げるから、広告費を安く済ませることができるという大きな誤解の元に盛り上がってしまい、WELQ騒動が象徴するような質の悪いオウンドメディアが大量に量産される結果を生んでしまいました。

ニュースサイト的なサイトだからして、UUやPVは多いに越したことはなく、できるだけ大勢の人にみてもらって、広告の代わりをするのである、という誤解こそがオウンドメディアブームの最大の罪なのかなと感じていたりします。

前述したように、本来オウンドメディアはトリプルメディアの中の一つの要素なのであって、企業が所有しているメディア全てを指します。
何も全ての企業がニュースサイトを運営する必要はありませんし、ニュースサイトを運営して広告よりも効果の高いメディアに育てることができる企業は一握りなのは当然なのです。

逆に言えば、別個で「オウンドメディア」を開設しなくても、企業サイト自体にオウンドメディア的要素を組み合わせて目的を達成できるならそれでも良いわけです。

誤解2:トリプルメディアは別々の部門?

一方で、意外に地味で大事な違いになるのが、トリプルメディアの三つの要素の「重なり」の有無です。

トリプルメディアと検索してGoogleで出てくる画像を見ると、最近の画像の多くは、ペイドメディア、アーンドメディア、オウンドメディアのそれぞれの円が独立した円として描かれています。

しかし、Web広告研究会宣言でトリプルメディアを提唱した渡辺さんは、ことあるごとに、「三つの円が重なっているのが大事なんだ」と繰り返されていたのです。

三つの円を独立した円として描いてしまうと、ついつい人間は「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」を、それぞれ別の部門や組織が担当する独立の要素と考えてしまいます。

ただ、本来トリプルメディアは企業が自社の目的を達成するために、三種類のメディアを組み合わせることができるような時代になったということを表現するための考え方。

宣伝部だろうが広報部だろうがマーケティング部だろうが、本来は三つの要素を組み合わせて考えることができるはずで、バラバラの要素と考えることが大きな間違いと言えるのです。

「うちはオウンドメディアの部門なので、広告宣伝費はありません」という発言を良く聞きますが、日本で最も有名なオウンドメディアであるトヨタイムズが、テレビCMを組み合わせていたことを見て頂ければ、その発言が根本的に間違っていることが分かるはずです。


誤解3:ソーシャルメディアはアーンドメディア?

また、誤解2と同様に縦割りの誤解として多いのが、ツイッターやInstagramなどの「SNSのアカウントはオウンドメディアではない」と考えている企業が多いケースです。

確かに、Web広告研究会宣言の最初の図では、アーンドメディアの所に「ソーシャルメディア」と明記されています。

ただ、これはあくまで2009年に作成されたチャート。
企業がツイッターアカウントを開設すること自体が珍しくてニュースに取り上げられていた時代です。

当時は、あくまでツイッターやブログのようなソーシャルメディアというのは個人が使うものであって、企業が使うものではなかったのです。
現在のように企業がソーシャルメディアを活用するのが当然の時代においては、トリプルメディアは下記のように理解する方が正しいでしょう。

この中で、企業のツイッターアカウントやInstagramのアカウントは、ユーザーがリツイートなどで評判にしやすいという意味で、もっともアーンドメディアに近いオウンドメディアと言えますから、赤色と青色の重なっているところと考えることもできます。

ただ、まだまだ多くの日本企業においてオウンドメディア担当とSNS担当は別の部署なので、意外に連携が取りにくいというケースが少なくないようです。

今後YouTubeやTikTokのような動画のSNSを活用したオウンドメディアが増えることも考えれば、当然SNS担当とオウンドメディア担当を全く別と考えるのはナンセンス。

SNSもオウンドメディアの選択肢の一つと考えて頂く方がよいかと思います。


誤解4:オウンドメディアはデジタルだけの話?

※足立さんにFacebookで指摘されたので追記。

デジタル界隈の人に最も多い誤解が「オウンドメディア」はデジタルのウェブサイトとかウェブメディアのことだと思っているケースです。

最初にトリプルメディアを提案したのがWeb広告研究会だった関係で、確かに最初の定義ではウェブサイトが強調されているんですが、オウンドメディアとはあくまで所有しているメディアのこと。

リアルの世界においては、商品のパッケージやお店の看板やポスターもオウンドメディアです。
これを私が痛感したのがマクドナルドをV字回復させた足立さんの取り組み。

マクドナルドでは、商品パッケージをグローバルのルールをあえて破る形で日本独自のパッケージで展開。
写真映えするパッケージがSNS投稿を呼び、口コミで話題が拡がる結果になるわけです。

「オウンドメディア」としてのリアルの商品を変えることで、アーンドメディアを増やした事例と言えます。

実際、インスタの登場以降、最も重要なのは写真や動画に撮れるリアルの商品や店舗になりました。
いくら綺麗なウェブサイトやブランドサイトを作ったところで、それを写真や動画に撮って拡げてくれるユーザーはほとんどいないのです。


オウンドメディアが最も重要なはず

前述の足立さんのインタビューにもありますが、個人的には、トリプルメディアの中で実は最も重要なのがオウンドメディアだと思っています。

なので、私が使うトリプルメディアの絵では、10年前から常にオウンドメディアを一番上にしてきました。

誤解4で書いたように広く考えれば、リアルの世界においては、商品のパッケージやお店の看板やポスターもオウンドメディアです。
デジタルの世界においても、広告で露出する企業のツイートやInstagramの投稿、YouTubeにアップした広告動画そのものはオウンドメディアと考えることも出来るでしょう。

オウンドメディアがうまく顧客やユーザーの琴線に触れれば、オウンドメディアが起点として口コミが刺激されアーンドメディアで拡がります。

広告展開するオウンドメディアの素材が良いものであれば、ペイドメディアでの露出の効果も大きくなるわけです。

ツイッターやInstagramで、商品のキャッチコピーや写真を投稿してみて、それに対するリアクションを見てみて、そのキャッチコピーを長文の記事にしたり動画にしたり広告素材にしたり、というのも立派なオウンドメディア活用の入り口と言えるはずです。

そういう意味では、多くの企業はオウンドメディア既にとっくに使っているとも言えるでしょう。

オウンドメディアをやるかやらないか、ではなく、オウンドメディアをもっと今の時代に合わせてどう組み合わせ、どう拡張していけば自社にとって意味があるのか、を考える時代に入っているはずです。


10月27日のオウンドメディアカンファレンスも是非

ということで、10月27日のオウンドメディアカンファレンスでは、さらに未来のオウンドメディアはどのように変わっていくのかという議論を、Facebookの中村さん、シックスアパートの壽さん、そしてnoteの深津さんに参加頂き議論する予定です。

お申込いただいた方はアーカイブでも視聴できるようになる予定ですので、広い意味でのオウンドメディアに興味がある方は是非ご参加頂ければ幸いです。


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徳力基彦(tokuriki)
ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。