「井上尚弥」がトレンド世界1位も獲得。スポーツ中継もネット配信が主役になるか。
井上尚弥選手がルイス・ネリ選手に勝利した試合は、34年ぶりの東京ドームでの世界タイトルマッチということもあり、4万人を超える観客を集め、大きな話題になりました。
その報酬も10億円の大台を超えていることが報道されていますし、文字通り規格外の試合だったと言えるでしょう。
そんな井上尚弥選手の試合が、リングの外でも様々な記録を残しているのをご存じでしょうか。
Amazonプライムビデオの同時視聴数記録を更新
まず、一つ象徴的な記録と言えるのが視聴数です。
今回の井上尚弥選手の試合の中継は、地上波のテレビではなく、Amazonプライムビデオの生配信によって実施されたため、残念ながらテレビのような視聴率や視聴人数は発表されていません。
ただ、Amazon側の発表によると、井上尚弥選手のKOシーンが、Amazonプライムビデオの国内での史上最大ピーク視聴数を記録したそうです。
過去のAmazonプライムビデオの最高記録が2023年の野球ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝の日本ー米国戦だったこともあり、一部メディアでは「WBC超え」と報道されています。
WBCは同時にテレビの地上波の放送もありましたので、単純比較はフェアではありませんが、いずれにしても歴史を塗りかえる大きな記録となったことは間違いないでしょう。
「井上尚弥」が世界のトレンド1位に
また試合当日は、「井上尚弥」がXの世界のトレンド1位を獲得。
それ以外にも「ボクシング」「inoue」など様々な関連キーワードが、Xのトレンド入りする結果になりました。
なにしろロバート山本さんが映り込んでいたことで、「ロバート山本」までトレンド入りしたそうですから、そのインパクトの大きさがうかがえます。
実際に、Xの投稿数の推移を見て頂ければ、その盛り上がりの大きさは一目瞭然。
実は、井上尚弥さんの名前がXのトレンドで世界1位になるのは今回が初めてではなく、2022年6月のドネア戦や、2023年12月のタパレス戦でもトレンド世界1位を取っています。
そうしてみると、ある意味「井上尚弥」の世界トレンド1位獲得は、恒例行事というか、通常運行ということもできそうです。
ゴールデンタイムの地上波に勝ってのトレンド1位
ここで注目したいのは、井上尚弥選手の試合中継がデジタル配信であるにもかかわらず、世界トレンド1位を毎回のように獲ってしまうことの凄さです。
特に、今回の試合はゴールデンウィークの最終日ということもあり、テレビの視聴率は高かったはずですが、そうしたテレビ番組を押しのけての1位獲得は快挙と言えます。
日本のXのトレンドは、基本的にはテレビの地上波放送が上位を独占することが多いと言われてきました。
なにしろ通常の地上波放送であれば、数百万人から多ければ数千万人が番組を視聴していることになります。
当然その話題をSNSに投稿する人数も、非常に大きくなるわけです。
ただ一方で、今回の井上尚弥選手の試合のように動画配信サービスでの中継であっても、すでに世界トレンド1位を取れてしまうほどの大勢の視聴者による同時視聴が可能になっている時代と言えます。
3月に「TOBE」の東京ドーム公演も、Amazonプライムビデオで世界独占配信された際に、長時間にわたってXの世界トレンド1位に入っていたのが一つの象徴と言えるでしょう。
こうした背景には、地上波の視聴者よりも、動画配信サービスの視聴者の方がSNSの利用率や投稿率が高いことも影響していると言えるでしょうし、サービス側がSNS活用に積極的な点もポイントと言えます。
今回の試合においては、Amazonプライムビデオ側も、ハイライト動画を試合中に頻繁に投稿するなど、SNS投稿を活性化していたことが、世界トレンド1位にもつながっていると考えられるわけです。
ネット配信で同時視聴数百万人が可能に
こうなると注目されるのは、今後のスポーツ中継の「常識」の変化です。
従来は、いつでも過去の番組も好きなときに視聴することができるのが動画配信サービスのメリットであり、スポーツ中継のようにリアルタイム視聴をするものは地上波の方が構造的にも向いていると言われてきました。
ネット配信は構造上、非常に多くの人がアクセスをすると動画の画質が悪くなったり、投資対効果が合わなかったりするというのが、一昔前のネットの「常識」だったわけです。
しかし、技術の進化とともに、ネット配信であっても同時に数百万人が視聴することは珍しい現象ではなくなりました。
そういう意味では、既にAmazonプライムビデオなどの配信サービスは、世界トレンド1位獲得を何度も再現できるほどの同時視聴人数に耐えられる環境がしっかり作られているということも言えるでしょう。
スポーツ中継の中心は着実にネットの動画配信に
さらに世界的に大きな変化となっているのが、スポーツコンテンツの放映権の高騰です。
日本でも、明確にその影響が話題になったのが、2022年にサッカーのカタールW杯の放映権料高騰に対応する形で、ネット配信サービスのABEMAを運営するサイバーエージェントが救世主となったケースです。
また、同じく2022年には、那須川天心選手と武尊選手の世紀の一戦において、地上波のテレビ局が放送を断念した結果、ABEMAが有料での配信を行ったところ、50万件以上の申込があり売上が27億円を超えるという出来事もありました。
あの二つの出来事から2年。
スポーツ放映の中心は着実に、地上波のテレビ局から動画配信サービスにシフトし始めており、米国においても大手テレビメディアがスポーツ配信で3者連合を組んで動画配信事業者に対抗しようとしていることがニュースになるほどです。
テレビCMなどの広告収入だけで、スポーツ配信を実施するモデル自体が難しくなり始めているといえるのかもしれません。
井上尚弥選手の選択次第で、勢力図に変化も
一方で、動画配信サービス同士のコンテンツの獲得合戦も激しくなっています。
実は、井上尚弥選手が所属している大橋ジムはNTTドコモが運営するLeminoとスポンサー契約を締結しており、最近の3試合はLeminoが独占配信を行っていました。
しかし、今回の試合に関しては、世界的にも注目度の高い試合ということもあり、Amazonプライムビデオでの生配信を選択する結果になったようです。
今回の記録更新を踏まえれば、当然Amazonプライムビデオは次回の井上尚弥選手の試合の中継に名乗りを上げるはずで、Lemino側との放映権獲得競争になるのは間違いないでしょう。
スポーツファンは当然自分が見たいコンテンツが見られるサービスに乗り換えることになると思いますから、井上尚弥選手のような人気選手がこうした動画配信サービス同士のシェア争いのキャスティングボートを一部握ることになっていくのかもしれません。
井上尚弥選手をめぐるリング外での戦いからも、目を離せない日々が続きそうです。