平野紫耀さんのデジハリCMに学ぶ、SNS時代のテレビCMの可能性
Number_iの平野紫耀さんが出演する「デジハリ」ことデジタルハリウッド大学のテレビCMが大きな話題になっています。
このCMは、デジタルハリウッド大学が「みんなを生きるな。自分を生きよう。」というキャッチコピーの元に毎年制作しているものです。
今年は2月10日の段階で平野紫耀さんの起用発表とともに、30秒バージョンのウェブCMがYouTubeに公開されファンの間で注目されていました。
そのCMの60秒バージョンが、2月16日のミュージックステーション内で放送された結果、Mステの番組ハッシュタグと並んで「#デジタルハリウッド大学」「#平野紫耀」「#みんなを生きるな自分を生きよう」など関連のハッシュタグが次々にXのトレンドのトップ5入りする現象を引き起こしたようです。
実際にYahoo!リアルタイム検索で「デジタルハリウッド大学」の言及数を調べると、2月10日の平野紫耀さんCM起用の話題をはるかに上回る規模で、テレビCM放送時に大きく話題になっていることが良く分かります。
1回だけのテレビCM放送で、これだけの話題を生み出すというのは、間違いなく非常に珍しいケースだと言えます。
「みんなを生きるな。自分を生きよう。」は恒例企画
このデジタルハリウッド大学の「みんなを生きるな。自分を生きよう。」というCMは、毎年テーマ通りの新しい挑戦をしているアーティストを起用して展開がされているものです。
2021年が欅坂46を脱退してソロ活動をはじめた平手友梨奈さん、2022年がBE:FIRSTを成功させたSKY-HIさん、2023年がLE SSERAFIMとして再デビューをした宮脇咲良さんだったと聞けば、このキャンペーンが一貫性を持って、「自分を生きよう」としているアーティストを起用していると多くの方は感じるのではないかと思います。
そうした中でも、デジタルハリウッド大学にとって、今年の平野紫耀さんのCMが桁違いの成功となったのは間違いないでしょう。
その背景には平野紫耀さんの人気の大きさや、CM内での平野紫耀さんの発言への反響の大きさが影響したのは間違いありません。
また、平野紫耀さんが所属するNumber_iが、1月に「GOAT」という楽曲をリリースしてYouTubeを中心に大きな話題になっているものの、まだ日本の音楽番組への出演をされていない中でのミュージックステーションにおけるテレビCM放送という文脈があることも大きかったと考えられます。
今回のテレビCM放送を受けて、次回のミュージックステーションへのNumber_iの出演への期待がファンの間でも高まっているようです。
事前に放送日を宣伝するテレビCM
一方、今回の反響で改めて考えたいのが、日本におけるテレビCMの可能性です。
前述のグラフで明確に出ているように、デジタルハリウッド大学における平野紫耀さん起用の話題の大きさは、明らかに発表時よりも、テレビCM放送時の方が大きくなっています。
これは、デジタルハリウッド大学側が、平野紫耀さんの起用を発表したタイミングで、2月16日に一夜限りのスペシャルCMを放送することを発表し、それをファンが拡散する形で、リアルタイムでの視聴を誘導したことも大きく貢献していると考えられます。
通常のテレビCMと言えば、放送時間を予告するものではなく、他の番組の放送の合間にその番組の視聴者にみてもらうことを目的に、様々な番組に展開するのが普通です。
しかし、デジタルハリウッド大学のCMは、デジタルハリウッド大学側が放送時間を告知して、平野紫耀さんやNumber_iのファンにもみてもらおうと誘導するという逆の形になっています。
ある意味デジタルハリウッド大学のCMは、単なる番組視聴者に対する「宣伝」ではなく、ファンにとっての「60秒の作品」のような位置づけになっているとも言えるわけです。
エステーが展開した西川貴教さんとミゲルのライブCM
当然、こうしたアプローチは今回のCMが初めてというわけではありません。
有名なものでは、2011年7月にエステーが展開した西川貴教さんとミゲルさんが出演する「消臭力」のテレビCMがあげられます。
動画を再生すると、一見60秒のライブのダイジェスト動画のようですが、実はこれもテレビCMとして放送された映像です。
これは、東日本大震災後に展開されたミゲルさんの「消臭力」のテレビCMに西川貴教さんが反応したことで生まれた企画で、西川貴教さんのライブにサプライズでミゲルさんが登場して収録されたものです。
テレビCMの放送自体も、当時エステー宣伝部長だった鹿毛さんや、西川貴教さんがツイッターを中心に事前に宣伝するという取り組みが展開されました。
企業側やCMの出演アーティスト、そしてファンが一緒になってテレビCM放送を事前に話題にすることで、テレビCM放送時やその後の話題が最大化されるというのは、SNS時代ならではの現象と言えるでしょう。
商品やサービスの説明をせずに売上に貢献するのか
一方で、デジタルハリウッド大学の平野紫耀さんのCMにしても、エステーのCMにしても、どちらの広告も驚くほどに商品やサービスの宣伝をしておらず、テレビCMとしての役割を本当に果たしているのか疑問に感じる人もいるかもしれません。
ただ、実は消臭力「夢の共演」篇は、CM好感度で作品別の総合1位を獲得し、この年の「消臭力」は「売り上げに貢献したCMブランド展開」に選ばれてもいるのです。
デジタル技術の普及をきっかけに、ネットの広告はサイトの誘導やアプリのダウンロードなどの成果を生み出すための誘導枠と位置づけられ、どんどんとユーザーから嫌われる存在になってしまっています。
その流れに影響され、最近ではネットの動画CMだけでなく、テレビCMも説明調のものや、明確にアプリのダウンロードに誘導する成果重視の広告が増えるようになっているのを嘆く関係者の声を良く聞きます。
ただ、実は企業が自分達の企業文化や姿勢を表現する「作品」をアーティストと共に創り、テレビCMという放送枠で放送することで、大きな話題になったり企業を好きになってもらい、最終的に売上をあげられることが明確な時代にもなっているのです。
アーティストの影響力の向上による根本的な変化
最近では、平野紫耀さんのように、SNSで数百万人のファンがいることが可視化されているアーティストであれば、必ずしもテレビCM展開をしなくても売上に好影響があることが様々なシーンで証明されはじめています。
象徴的な事例としては、平野紫耀さんがアンバサダーに就任することが発表され、コスメの売上が約540倍になったと報道されたイヴ・サンローランの事例があげられます。
同様の現象は、Snow Manの目黒蓮さんがFENDIアンバサダーに就任を発表した際にも発生したようです。
もはや影響力のあるアーティストは、その存在とSNSを通じたファンの拡散力が大きくメディアとして機能するため、広告展開をしなくても口コミで売上に影響しうるわけです。
「宣伝」ではなく「作品」としてのテレビCM
そう考えると、実は、SNS時代に企業が人気のあるアーティストをブランドの顔として起用するのであれば、自社の製品を説明したり売り込んだりする「宣伝」としてのCMを作成するのではなく、アーティストと一緒に「作品」としてのCMを作成し、それをテレビCM枠で放送することでアーティストにもファンにも喜んでもらうという選択肢が増えてきていることが明確になります。
最近では、ロッテとAdoが共同で「ショコラカタブラ」という楽曲のMVを作成したのも、企業とアーティストが共同で「作品」を作った一つの事例と言えるかもしれません。
エステーと西川貴教さんのテレビCMも、ある意味ではライブのダイジェスト映像という「60秒の作品」だったと言えると思いますし、デジタルハリウッド大学と平野紫耀さんのテレビCMも、ある意味では新しい挑戦をする人へのメッセージとしての「60秒の作品」と言えると思います。
実は、今のように効果測定が細かくできなかった時代のテレビCMの方が、我々視聴者にとって「作品」として楽しめるテレビCMが多かったと指摘する業界関係者も多くいます。
デジタルハリウッド大学と平野紫耀さんのテレビCMのような取り組みの成功事例が増え、それを参考にした企業とアーティストの「作品」としてのテレビCMが増えれば、テレビCMの放送枠が、ふたたび視聴者にとっても楽しい時間になる可能性は十分あるはずです。
なお、この辺の話題については、来週月曜日2月26日(月)13時の雑談部屋「ミライカフェ」で皆さんと雑談できればと思っています。
タイミング合う方は是非どうぞ。
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