音声版ツイッターといわれる「クラブハウス(Clubhouse)」の何がそこまで革新的なのか
この数日、新しもの好きな人たちの間で、「Clubhouse」というアプリが話題になっています。
音声チャットツールや、音声版ツイッターなど、人によって様々な呼び方がされていますが、既に様々な音声配信サービスが存在する中、なぜ「Clubhouse」がこんなに話題になっているのか良く分からないという方も多いかと思います。
特に、まだ日本で利用できるようになったのがここ最近な上に、一人2名しか招待できない招待制。
さらには公式ウェブサイトにほとんど情報がない上に、まだiOS版しかなくAndroidスマホの人は利用できないなど、様々なハードルがあるため、興味はあるけど利用できない人もいる関係で、謎が深まっている面もあるようです。
個人的な印象としては、「Clubhouse」が実装している機能が、コロナ禍によって三密を回避しなければいけない私たちにとって、リアルに近い「密」な感覚を与えてくれる点が、画期的だったように思います。
基本的には、アメリカのイベントでよく開催されている「アンカンファレンス」と呼ばれるようなイベント参加者がボトムアップで企画する会議を実施するのに最適化されたサービスという印象です。
実際のサービスについての概要は上記の記事をご覧いただくとして、こちらでは私が感じたClubhouseを革新的にしているポイントをご紹介しておきたいと思います。
■自分がフォローしている人の音声チャットを気軽に聞くことができる
■スピーカーと聴衆が自由自在に入れ替わることができる
■基本的には顔出し実名制を前提としている
一つずつご説明します。
■自分が興味がある人やテーマの音声チャットを気軽に聞くことができる
まず、Clubhouseが音声版ツイッターと呼ばれる理由がこれです。
Clubhouseでは、ツイッターと同様に自分の知り合いや興味のある人を「フォロー」することで、フォローした人が音声チャットを開始すると、それが通知されて参加することができる仕組みがあります。
また、実施されている音声チャットルームに何人が参加しているかも見えますし、話している人やタイトルから、自分が興味を持てそうなところに気軽に入って出ることができるようになっています。
自分が作った番組はこんな感じで予告も可能です。
ただ、こうした文字ではなく音声を軸にフォローしあうという仕組みや、人気のある音声配信を可視化する仕組み自体は、日本でもVoicyやstand.fmなど多くの音声系サービスでも提供されている仕組みであり、別に珍しい形ではありません。
Clubhouseが革新的なのは、残りの二つの特徴との組み合わせにあります。
■スピーカーと聴衆が自由自在に入れ替わることができる
個人的にClubhouseを使ってみて最も驚いたのは、開催されている音声チャットルームに「聴衆」として入ってみると、スピーカーとして話している人に声をかけられて自分も急遽「スピーカー」になることがあるという点です。
通常の音声系サービスやYouTubeのような動画サービスは、「スピーカー」としての配信者と、聞くだけ、見るだけの「聴衆」の立場が明確に切り分けられているのが通常です。
視聴者ができることと言えば、コメントやリアクションボタン程度というのが普通でしょう。
しかし、Clubhouseでは、音声チャットルームを立ち上げたモデレーターが自由にスピーカーを増やしたり減らしたりできるのです。
これにより、通常の音声系サービスが番組や一人語りの「配信」という形式になるのに対し、Clubhouseでは、よりリアルの世界における「座談会」や「雑談」のような雰囲気を醸し出すことに成功しています。
リアルの世界のカンファレンスで、なんの話をしてるのかな?と一つの部屋を覗いてみたら、壇上のスピーカーと目が合って「お、せっかくだから、壇上に上がって話して下さいよ」と言われるような感覚です。
この感覚は、ZoomウェビナーやZoomミーティングで、話す人以外はビデオや音声をオフにして聞いていて、話しかけられたときにオンにする感覚にも近いかもしれません。
■基本的には顔出し実名制を前提としている
前述のスピーカー入れ替わり機能に加えて、Clubhouseをより、リアルの座談会やカンファレンスに近い感覚にしているのが、Clubhouseが基本実名制をとっているという点です。
音声版ツイッターと聞くと、匿名前提のサービスに聞こえるかもしれませんが、従来の音声系サービスや動画サービスが実名にあまりこだわっていなかったのに対して、ClubhouseはFacebookと同じように実名が求められます。
Clubhouseでは基本的に音声チャットルームに入ると、自分のアイコンとファーストネームがルームの参加者一覧に表示される仕組みになっており、これにより全ての人がフラットに自分の顔写真と名前を開示して部屋に参加する構造になっているわけです。
これはまさに実際のカンファレンスで、名札をぶら下げて、いろんなスピーカーの部屋をウロウロする感覚に近いでしょう。
日本だとネット上は匿名で顔出しをせず利用されている方も多いですので、この点は戸惑う方も多いようですが。
この仕組みがあることによってClubhouseでは、単に顔の見えない5名が聞いているという状態ではなく、顔の見える田中さんと鈴木さんと佐藤さんが聞いているという状態を創り出し、実際のリアルの会話や雑談に近い感覚を創り出しているわけです。
リアルの座談会に近い、参加者や人だかりの「可視化」
一つ一つの機能や特徴は、既存の音声系サービスやZoomでも実現されていることではあります。
ただ、この三つの機能の組み合わせと、それに特化した音声処理技術によりClubhouseは、
・人だかりのあるところに近づいてみる
・人だかりの中に知り合いがいるかどうかを見て、恐る恐る参加してみる
・話が面白かったら、自分も話したくなったときに手を挙げる
・スピーカーが聴衆から手を挙げた人や面識のある人を壇上に上げる
というリアルのイベントやカンファレンスに近い体験を作り上げることに成功しているわけです。
こうした参加者やひとだかりの可視化とフラット化は、あまりこれまでのインフルエンサーの情報発信型サービスに見られなかった発想のように思います。
一方、現在のClubhouseでは、他の音声系サービスと単純に機能を比較すると、音声のアーカイブ機能もなければ、聴衆のリアクション機能もありません。画面を共有したり、URLをシェアすることもできなければ、そもそも文字のチャット機能もありません。
そういった細かい機能面での不足を指摘する声はそこら中から聞こえてきますし、実際に今後Clubhouseがメインストリームのサービスになれるのか分かりません。
大手に模倣されたり買収されて、一時的なムーブメントになる可能性はもちろんあります。
実際、すでにツイッターが、Spacesという類似の機能を実装することを明らかにしていますし、FacebookやYouTubeが似たような機能追加を模索する可能性は高いと言えるでしょう。
ただ、Clubhouseが、インターネット上で、リアルに近いフラットなイベントの人だかりや、人々の興味の可視化をする仕組みの構築に成功したことは、間違いないと感じます。
ある意味、Clubhouseのこの参加者可視化とフラット化の仕組みは、ツイッターが確立した片方向のフォローとタイムラインの仕組み、またインスタグラムのストーリーズが模倣したSnapchatの仕組みと同じように、これからのオンラインサービスの新しい扉を開いたのかもしれません。
この記事は、2020年1月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。