Snow Manドームツアーも即日大量転売。悪質な高額転売撲滅は可能なのか。
いわゆる「転売ヤー」の存在によって、様々な商品やサービスの買い占めや高額転売が問題になることが増えていますが、その中でも最近特に注目されているのが、アーティストのライブチケットの転売問題でしょう。
直近では、Snow Manの5大ドームツアー「RAYS」のチケット当選者が20日に発表された途端に、大量のチケットがリセールサイトに転売され、なんと50万円で出品されるケースもあったようです。
こうした不正なチケットの高額転売を取り締まるため、2019年に定額を上回る価格での転売を禁止した「チケット不正転売禁止法」が施行されており、2021年にも警視庁や音楽業界が協定締結を結ぶなど取り締まりを強化していますが、なかなか悪質なチケットの不正転売撲滅には至っていないようです。
ただ、実は芸能事務所や興行主の様々な取り組みにより、そんな状況が少し変わる兆しが見えてきています。
ここで、チケット転売対策の構造問題と、不正転売対策の未来について考えてみたいと思います。
世界的に高騰するライブのチケット料金
日本のライブのチケット料金は、前述のSnow Manが会員チケットを9700円に設定しているように、1〜2万円を中心として設定されることが多いようですが、そもそも、ライブのチケットは世界的に高騰する傾向が続いています。
象徴的なのは、最近再結成が発表されて話題になったオアシスのツアーチケットが、当初1枚100ドルで販売されていたのに「ダイナミックプライシング」のシステムの影響で10万円以上(約700ドル)に高騰してしまったケースでしょう。
それ以外にも、Forbesによると、2024年上半期に最もチケットが高価だったアーティストのトップ10は、トップのアデルの約24万円から10位のラナ・デル・レイの約5万9000円と、平均価格とは思えない金額が並んでいるのが印象的です。
つまり、有名アーティストのライブにはそれだけ高価なチケット料金を払うニーズがあるということであり、ここに比較的安く販売される日本のアーティストが標的になりやすい背景があります。
つまり、日本のアーティストのライブのチケットは、定価と転売金額の差額が大きくなりやすく、「転売ヤー」から見ると利益が大きい魅力的な市場になってしまっているのです。
チケット転売サイトの悪質転売対策の強化は必須
ただ、ここに来て「転売ヤー」対策に有効と考えられる取り組みを各芸能事務所が打ち出し始めています。
その一つとして注目されるのが、STARTO ENTERTAINMENTが9月5日に発表したチケット転売サイトに対する発信情報開示請求です。
これはSTARTO社がチケット流通センターにおいて契約タレントの出演イベントの転売が約1万件確認されたことから実施したもので、まずは不正な転売だと思われる出品299件について開示請求を行ったそうです。
上記の弁護士ドットコムの記事で指摘されているように、現在一部のチケット転売サイトは、悪質なチケット転売業者がいることを分かりながら転売を放置しているのではないかと指摘されても仕方がないような構造にあるようです。
STARTO社の開示請求のような取り組みにより、チケット転売サイトにおいて不正業者を摘発する仕組みが充実すれば、組織的な転売に歯止めをかけることができる可能性があるわけです。
転売防止と本人確認の徹底が対策の両輪
また、地道ではありますが確実に効果がある取り組みと言えるのが、ライブにおける本人確認の徹底でしょう。
こちらも、直近で象徴的なのは、滝沢秀明氏が代表を務めるTOBEが、9月20日にライブチケットの転売防止のための本人確認を導入すると発表した点でしょう。
これまでTOBEはライブにおける本人確認をあまり実施していなかったようで、結果的に「転売ヤー」からターゲットにされてしまい、ファンがチケットを入手しにくい構造になってしまい、一部のファンからも本人確認導入が強く要望されていたようです。
滝沢さんも「本当はお客様の情報提示を求めたりしたくないのが本音ですが、純粋に応援して下さる方々を守る為に厳格化する事に決めました。」と、これまで本人確認をしなかった背景に言及しつつ、難しい判断であったことを吐露されています。
実際、本人確認を厳密に行うと、個人情報の取扱のリスクや手間も増えますし、入場に時間がかかることになり、ファンにも負担が大きい面があるのは事実です。
本人確認を行うシステムの進化も追い風に
ただ、こうした本人確認の実施は、技術の進化により、より確実なシステムや手法が増えてきています。
例えば、この週末に開催されたBMSG FESでは、チケット購入後に本人の写真等を登録するローソンチケットのシステムを導入しており、入場時にディスプレイ付き入管システムで、QRコードと自分の顔を照合することで入場する仕組みになっていました。
それにより、12万人の動員を大きな混乱なく実施することができたようです。
こうしたデジタルのシステムを導入することで、後から不正転売者を確認することも容易になりますし、少なくとも転売チケットを購入しても入場できない可能性が高いという認識を広めることはできます。
最近は、厳しいアーティストのライブでは、チケット申込時に同伴者の個人情報の入力まで求めるケースも増えているようです。
こうした取り組みは、ファン側にとってはチケット購入後に予定が入ってしまった場合の選択肢が減る要因にもなる面はありますが、「転売ヤー」を排除するためには重要な選択肢になってくると考えられます。
転売対策をしても興行主の収入は変わらない
これまで日本のアーティストの転売対策が後回しになりがちだった理由の一つには、転売対策のコストと、収益へのインパクトの関係が薄い点も影響していたようです。
ライブの興行主側からすると、最初にチケットを販売してそれが全て売り切れてしまえば収入が確定します。
転売対策のために、受付での本人確認を徹底すれば、受付を対応するスタッフの人件費も増えることになりますし、本人確認のためのシステムの費用もかかることになります。
またリセールのシステムを導入すると、そのシステムを利用する手数料もかかることになります。
収益の面だけを見れば、転売対策は興行主側からは短期的にはあまりメリットがない取り組みとも言えてしまうのです。
また、旧ジャニーズ事務所のファンの中には、ファンの間でのチケット転売の仕組みがあるそうで、そうしたファンのニーズや文化に対する対策の難しさもあるかもしれません。
不正転売を撲滅することが長期的にアーティストのために
ただ、当然ながら、本来であれば安くチケットを購入できたはずのファンが、「転売ヤー」の存在によって不当に高額な料金を支払う構造になり、ファン離れにもつながりかねません。
長い目で見れば、不正転売が構造的に残ってしまうことは、ファンやアーティストに不利益なのは明白です。
ライブチケットの料金高騰が大きな問題になっている米国に対して、日本が比較的低価格な料金でアーティストのライブチケットを入手できる状態が続いているのは、多くのファンにとっては間違いなく良い状態と言えます。
こうした状態を、悪質な「転売ヤー」による高額転売が壊してしまわないように、業界全体が連携して不正転売対策を行うことが大事な時代になっていると言えそうです。
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