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「機動戦士ガンダム ジークアクス」が証明した、ファンを信じる「ネタバレなし」の凄さ

映画「機動戦士ガンダム ジークアクス -Beginning」が、公開されるとともに大きな話題になっています。

この映画は、もともと昨年の段階で「TVシリーズの放送に先駆け一部話数を劇場上映用に再構築した」ものであると予告されていました。

タイトルにも、明確に「劇場先行版」と銘打たれていたため、コアなガンダムファン以外は映画館に見に行かなくても、TVでの放映まで待っていれば良いと考えていた方も少なくなかったようです。

しかし、映画が1月17日に公開されると、絶賛のクチコミが次々にSNSに投稿され、「ネタバレする前に見た方が良い」という強い空気に転換。

「ジークアクス」がXのトレンド1位になるなど、一気にその日を代表する大きな話題となったのです。

友人達の投稿のあまりの圧の強さに、筆者もあわてて当日にチケットを取って「ジークアクス」を観に行き、心の底から初日に観て良かったと痛感したほどでした。

金曜日の夜も「ジークアクス」がトレンド1位に

なにしろ公開日は、通常であればTV番組関連のキーワードがトレンド上位を占める夜間まで、ジークアクスはずっとXのトレンド1位に張り付く結果になっていました。
短期間に投稿が集中しやすいTV番組関連のキーワードを、劇場で上映される映画が上回ることは非常に珍しい現象と言えます。

(出典:Yahoo!リアルタイム検索 「ジークアクス」言及数推移)

実際に、Yahoo! リアルタイム検索で「ジークアクス」の投稿数推移を見てみると、17日に63,000件を超えるピークをつけつつ、すぐに下がることなく、この数日数万件台の投稿が続いていることが分かると思います。

そうした、SNS投稿などのクチコミ爆発の影響もあり、週末の興行収入は5.9億円超えと、2021年に公開された映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の初週の興行収入の記録を上回る結果になったようです。
これはTVアニメの劇場先行版としては、間違いなく快挙と言えます。

なぜ、「ジークアクス」がここまで大きな話題になったのかは、是非映画館で皆さんの目で確認して頂ければと思いますが、今回の快挙において是非注目していただきたいのは、株式会社カラー制作の映画が、「ジークアクス」に限らず、クチコミでの話題化に成功し続けている点です。
 

ハリウッド映画では予告編でネタバレするのが普通?

劇場で公開する映画というのは初週の観客動員数が非常に重要なため、映画のプロモーション上公開日に話題がピークになるように公開前に多様な情報を出していくのが一般的でした。

特にハリウッド映画で象徴的なのは予告編の映像に、クライマックスのシーンまで入れて、TV番組や広告枠で流すことが多い点です。

クライマックスのシーンを予告編に入れてしまうと、当然見る人が見ればネタバレのリスクがあるわけですが、逆にそのシーンの存在を知らずに映画を見に来る人が減ってしまうリスクの方を大きく捉えていると言えるわけです。
 

クチコミの爆発で第二週が初週を上回った「シン・ゴジラ」

一方で、株式会社カラーは庵野監督を筆頭に、あえて事前にはあまりネタバレをせずに、公開後のファンのクチコミに任せて成功を積み上げてきているのが印象的な会社です。

特に最も象徴的なのは「シン・ゴジラ」の大ヒットでしょう。
「シン・ゴジラ」では映画公開前に、ほとんど重要なシーンを公開していません。

特に庵野監督自らが手掛けた予告編では、ゴジラの登場シーンも極力抑えられているのが良く分かります。

その結果「シン・ゴジラ」は、映画公開前は庵野監督ファンやコアなゴジラファン以外にはあまり話題になっていなかったものの、映画公開後にクチコミで話題が爆発、初週よりも二週目の方が興行収入が大きいという映画の歴史上非常に珍しい現象を引き起こしました。

こうした予告でネタバレを避ける株式会社カラーの姿勢には、ファンにも浸透しており、公開初日に映画を観に行くようなコアなファンほど、真剣にネタバレを避けようとする印象があります。
逆に映画「シン・エヴァンゲリオン」では、公開から2週間したタイミングで、公式アカウントがファンにネタバレをお願いして話題になった歴史もあるほどです。

こうしたアプローチは、庵野監督や株式会社カラーの方々が、本当に面白い作品を作れば、ファンがクチコミで拡げてくれることを信じているからこそできる選択と言えます。
 

「ジークアクス」も、ファンが嫌がるネタバレを徹底して回避

今回の「ジークアクス」においても、これだけ視聴した人が衝撃を受ける作品なのですから、一般的な制作会社や映画会社であれば、映画公開前にそうした情報の一部をチョイ出ししたくなるはずです。

しかし、株式会社カラーは、それをあえて行わず、ファンのクチコミを信じて一切ネタバレを事前にせずに映画公開日を迎えているからこそ、多くのファンも、ネタバレしないように映画の衝撃を友人に伝えようと努力すると言えます。

昨日になってようやく4本目となる公式動画の最新版が公開されましたが、その投稿にも激しく「ネタバレ注意」と記載しているのが印象的です。

ただ、「ジークアクス」では、クチコミを全面的に禁止しているわけではありません、

Xでは「#ジークアクス感想戦」のハッシュタグで投稿も呼びかけていますし、YouTubeにはネタバレ無制限フリーチャットと名付けた動画をアップし、YouTubeのコメント欄を感想や考察の投稿場所として開放しているのです。

公式が、こうした硬軟織り交ぜた丁寧な対応をしているからこそ、多くのファンがネタバレを避けながらも友人に映画のお勧めを行うという、独特の空気感が醸成されていると言えるかもしれません。
 

「ネタバレなし」で映画を鑑賞できるという贅沢

2023年には、映画「君たちはどう生きるか」が事前の宣伝を一切何もせず、映画公開後もパンフレットも販売しないという徹底した情報統制を行って話題になったことが記憶に新しい方も多いはずです。

もちろん、あの選択ができたのは、映画が公開されれば必ず映画館に足を運んでくれるファンがいるジブリならではの選択であることは間違いありません。

ただ、その際に、ジブリの鈴木さんが現在の映画業界の事前宣伝は「過剰サービス」ではないかという問題提起をされていたのが非常に印象的です。

これだけ検索すれば簡単に情報が得られてしまうSNS時代だからこそ、「ネタバレなし」の素の状態で映画を楽しむことができるのは非常に贅沢な体験と言えます。

初日に映画を観に来てくれるファンのクチコミを信じて、あえて公式からはネタバレをせず、映画を見てくれたファンが自然と話題にしたくなるような作品にするべく映画自体に全力を投球する、という株式会社カラーの姿勢こそが、現在の時代のヒットの方程式と言えるのかもしれません。

ガンダムには興味あるけれど、映画「機動戦士ガンダム ジークアクス -Beginning」はまだ見ていないという方は、是非ネタバレに当たってしまう前に、映画館に足を運ばれることをおすすめします。

この記事は2025年1月21日(火)Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。

今日13時からの雑談部屋「ミライカフェ」で、このあたりの話の雑談も皆さんとできればと思っています。
タイミングが合う方は是非ご参加下さい。


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徳力基彦(tokuriki)
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