松本人志さんとアメトーークCLUBの実験から考える、これからの新しい「テレビ」の形
松本人志さんの視聴率報道をめぐるツイートが、業界を中心に大きな注目を集めています。
その発端は松本さんがツイッター上で「いつまで世帯視聴率を記事にするんやろう?」とネット記事に苦言を呈したこと。
我々視聴者からすると、世帯視聴率と個人視聴率やコア視聴率の違いは分かりにくいですが、テレビ番組の作り方自体が、視聴率という指標一つの軸を変えることで変化しているという時代のタイミングを象徴する議論だと言えると思います。
そんな視聴率の議論はおいておいて、個人的に興味があるのは松本さんがテレビでおこなっている新しい実験です。
「まっちゃんねる」が挑戦する実験
視聴率をめぐる議論が覚めやらぬ中、昨日土曜プレミアムで「まっちゃんねる」第2弾が放送されました。
ツイッターでもトレンド1位に入っておおいに盛り上がっていましたので、ご覧になった方も多いのではないかと思います。
まっちゃんねるには「松本人志が仕掛ける実験番組」というサブタイトルが入っていますが、その取り組みはまさに実験的。
なにしろ、まっちゃんねるで放送されていた「女子メンタル」や「イケメンタル」は、2016年からAmazonプライムビデオで放映されている「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」のフォーマット。
今回、土曜プレミアムで放送された番組が、FODやTVerで見逃し配信をされるだけでなく、Amazonプライムビデオで未公開シーンを含めた完全版が視聴できるという立て付けになっているのです。
「ドキュメンタル」は、2016年にAmazonプライムビデオで放送がはじまった際には、予算面やコンプライアンスの面から、地上波テレビでは絶対に観ることができないコンテンツとして、業界でも多いに話題になっていました。
それが、女性タレント版やイケメン芸能人版という形ではあるものの、地上波で放送されるというのは、文字通り壮大な実験と言えるでしょう。
「アメトーーク!」も新しい実験を開始
さらに、時を同じくして先週発表されたもう一つの新しい実験的取り組みが、テレビ朝日の人気バラエティ番組「アメトーーク!」が6月24日から開始すると発表した公式ファンクラブ「アメトーークCLUB」です。
この「アメトーークCLUB」では2003年の「アメトーーク!」スタート時代からの過去の名作が常時30本視聴できるだけでなく、ファンクラブ専用のオリジナルコンテンツも用意。
さらには今後、非売品グッズや観覧招待などの特典もあると言うことで、早速ファンの間では話題になっているようです。
特に注目すべきは、今回の「アメトーークCLUB」が番組単独で月額770円という独自の課金サービスとして開始する点でしょう。
あくまで現在のところ、最新の「アメトーーク!」の見逃し配信はサービス対象には含まれていないようですが、DVDを購入するような「アメトーーク!」ファンの間では、早速「これなら安い」と契約を検討するツイートが多数見られます。
番組中のプロデューサーの発言を見る限り、雨上がり決死隊の宮迫さんを地上波ではまだ流せないことが、今回の決断の要因の一つになっているようですが、このファンクラブにどれぐらい人が集まるかは、今後のバラエティ番組の作り方に大きな影響を与えそうです。
視聴率だけで評価される世界からシフトがはじまる
こうした「まっちゃんねる」や「アメトーークCLUB」の実験的取り組みから見えてくるのは、もはやテレビ番組を単純な放送時の視聴率だけで評価する時代ではなくなってきているという変化でしょう。
今でもメディアの報道においては、地上波のテレビ番組の評価指標はどうしても視聴率が中心になっているのですが、実は視聴率というのは放送時間帯や、前の番組や裏番組の影響を受けやすく、番組の本当の人気度を示していないとも言われています。
テレビ局からすると、視聴率がメイン収入であるテレビCMの価格や人気に影響してくるので、引き続き重要なのは間違いありません。
ただ、実はテレビ局自身も、テレビCMの収入に依存した一本足打法から徐々にビジネスモデルをシフトし始めています。
象徴的なのは日本テレビでしょう。
NiziUを生んだNizi Projectにおいても、日本テレビが地上波の番組と、Huluで並行してオーディションを配信していたのが、記憶に新しい方も多いはず。
最近は様々な日本テレビの番組が、Huluへの誘導を図っているのを見ることができますが、これはHuluの日本での事業が日本テレビに承継されたため。
Huluは日本テレビの動画配信サービスとして、広告収入とは違う収入を日本テレビグループにもたらすことができるようになっているのです。
こうした取り組みは、テレビ朝日のAbemaTV連携や、テレビ東京のBODなど、当然他局も様々な形で取り組んでおり、徐々に存在感を増し始めているのです。
「認知」と「人気」の違いに注目
従来のテレビは「マスメディア」の代表として、広くあまねく大勢の人に見てもらうことが重視されており、世帯視聴率という指標が分かりやすい人気の指標として使われていました。
ただ、世帯視聴率と個人視聴率の議論に見られるように、テレビ局のテレビCMも、すでに単純な世帯視聴率ではなく、どういう視聴者が見ているのかという個人視聴率で選ばれる時代に突入しています。
今後はさらに視聴率だけでなく、その番組がテレビ局や番組製作者にどういう形で収益をもたらすか、が注目されることになりそうです。
同じ視聴率10%の番組でも、その番組が地上波の放送で一度きりしか見られない番組と、動画配信サービスやDVDで有料でも後から見てもらえる番組では、当然収益へのインパクトは大きく変わってきます。
また、最近では、YouTubeの活用に力を入れるテレビ局も増えているようです。
番組単位での月額課金にトライする「アメトーークCLUB」が成功するかどうかは分かりませんが、芸能人による月額有料のファンクラブという意味では、キングコングの西野さんが「西野亮廣エンタメ研究所」というオンラインサロンを月額980円で提供して、一時期7万人以上の会員を集めていたことを考えると、同様の規模感のファンクラブを人気テレビ番組が確立できる余地は十分あるでしょう。
そうなると、仮に視聴率が低くても、番組の収益率が非常に高い番組というのも成立する余地はあるわけです。
キングコングの西野さんがよく、大勢の人に知られているだけの「認知タレント」と、本当にお金を払ってでも応援したいと思われる「人気タレント」は違うという話をされていますが、今後はテレビ番組も同様に「認知」と「人気」の違いが注目されるようになるかもしれません。
実際に、すでに、劇場版「鬼滅の刃」が大ヒットした「鬼滅の刃」に見られるように、アニメ製作会社からすると、地上波のアニメ放送というのは、大勢の人に作品を知ってもらうための宣伝的意味合いの方が大きくなってきているようです。
今回の「まっちゃんねる」のドキュメンタルの実験のように、動画配信サービス側で人気が出たコンテンツを、地上波にアレンジして放送し、動画配信サービス側に誘導するという地上波と動画配信サービスの相乗効果を狙うパターンもこれから増えるかもしれません。
いずれにしても、松本人志さんの視聴率への問題提起は、現在の「テレビ」が有料の動画配信サービスやYouTubeとの連動により、従来の視聴率だけで単純比較することに意味がなくなっている時代に突入していることの象徴と言うことができそうです。
いよいよ日本の「テレビ」も、大きな変化を遂げようとしているのかもしれません。
この記事は2021年6月20日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。
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