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映画「鬼滅の刃」の海外での大ヒットで考える、日本アニメの新しいヒットの方程式

この記事は2021年4月30日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編の快進撃が、海外でも止まりません。

映画が昨年10月に日本で公開されてから、もう半年が経過しましたが、いまでも多数の映画館で公開が継続されその興行収入は400億円まであと一歩のところまで到達。

さらに、先週4月23日にはアメリカでも公開。
初週末の興行成績が約22億円と、米国内で公開された外国語映画のオープニングの興行成績の歴代1位を塗り替える好成績をおさめています。

同じタイミングで公開された映画「モータルコンバット」に惜しくもオープニング興行収入では敗れて2位となりましたが、「モータルコンバット」が約3000館で公開されているのに対して、「鬼滅の刃」は1600館での上映での結果。
さらにアメリカでの上映はR指定だったことを考えると、間違いなく大成功と言えるでしょう。

これにより、「鬼滅の刃」の海外における総興行収入は81億円で、累計来場者数は878万人を超えたとのこと。

全世界的にコロナ禍で映画館の観客動員数が落ち込む中で、この数値は間違いなく大ヒットと言えます。

アニメの続編としての大ヒット

特に劇場版「鬼滅の刃」の海外での大ヒットで注目したいのは、この映画が本編の続編としての位置づけであるという点です。

「君の名は。」や「千と千尋の神隠し」は、基本的に映画単体で見る前提の映画です。
ところが、劇場版「鬼滅の刃」は、アニメのストーリーを見ていることが前提になっている映画です。

私の知り合いの海外在住の方に聞いた限りでは、海外でも特に登場人物やあらすじなどの解説がないまま、日本同様に映画が開始するようですから、初見の人にはハードルが高い映画と言うこともできます。

当然ながら、海外では日本のようにアニメの「鬼滅の刃」がテレビの地上波で無料放送されているわけではありませんから、誰もが気軽にアニメのストーリーを見られる環境にはありません。

それにもかかわらず、劇場版「鬼滅の刃」がここまでの世界的大ヒットをおさめているのには、やはりネット動画配信サービスの普及が影響しているようです。

「鬼滅の刃」はNetflixの各国のトップ10に

特に影響が大きいのは、おそらくNetflixでしょう。

実はNetflixでは3年前まではあまりアニメに力を入れてなかったそうですが、ここ数年で利用者が急増。
全世界で1億世帯以上が視聴し、視聴率も前年比1.5倍になるほどの急成長をしているそうです。

その結果、日本だけでなく世界的に人気ランキングのトップ10にアニメ作品がランクインすることが急増しているようです。

なにしろNetflixの会員数は世界で2億以上。
日本の地上デジタル放送の視聴可能世帯数は約5,000万世帯と言われていますから、単純に考えてその4倍の市場がNetflixだけで存在することになります。

実際に、Netflixのランキングを確認できるサービスで「鬼滅の刃」(海外では「Demon Slayer」)のランキングの推移を確認してみると、今週も多くの国で「鬼滅の刃」がNetflixのランキングのトップ10入りをしていることが分かります。

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海外でも日本同様に、Netflixなどの動画配信サービスでアニメを手軽に視聴できるようになったため、アニメを見てファンになったひとたちがコロナ禍でも映画館に足を運び、今回の大ヒットにつながっていると言えるでしょう。

アメリカにおける「Demon Slayer」の検索数のグラフを見ても、映画公開のはるか前である2019年頃から検索数が盛り上がっていることが分かります。

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「鬼滅の刃」を最優秀作品賞に選んだクランチロール

また、日本アニメの拡がりを考える上で忘れてはいけないのが、今年ソニー・ピクチャーズが買収して話題になった「クランチロール」です。

日本国内ではサービスを提供していないため、あまり国内では認知度が高くありませんが、日本のアニメを海外でも見られるサービスとして、海外のアニメファンが多く集うサービスです。

その有料会員数は300万人と、Netflixに比べると決して多くはありませんが、コアなアニメファンが集まっているのが特徴。

特に、このクランチロールが主催しているCrunchyrollアワードは、年々その注目度を増しており、この2020年のアワードで最優秀作品賞に選ばれたのが「鬼滅の刃」でした。

従来の日本のテレビアニメは、日本で人気が確立したものの一部が、海外のテレビ局の目にとまって翻訳されて放送される、という展開が一般的だったため、多くのアニメ作品を海外のアニメファンは視聴することができませんでした。

それがクランチロールの登場やNetflixのアニメの取扱い拡大により、日本公開とほぼ同じタイミングで海外のファンも日本の最新アニメを楽しむことができるようになってきています。

つまり、これからは日本よりも先に海外でヒットするアニメが出てくる可能性も高くなっているということです。

日本よりも海外で有名なサンリオキャラクター

実は、日本よりも先に海外でヒットするというパターンは、すでにいくつも事例が出てきています。
例えば、昨年のサンリオキャラクター大賞では、「アグレッシブ烈子」というキャラクターが、日本では45位にもかかわらず、アメリカで3位にランクインしたことが日本でも話題になっていました。

これは、この「アグレッシブ烈子」がNetflixオリジナルシリーズとしてアニメ化されていることが影響しています。

こういうケースは、サンリオの歴史のなかでもまだまだ珍しいケースのようですが、Netflixの影響力の高さが良く分かる事例です。

クランチロールのようなアニメ配信サービスにより、コアなアニメファンから、日本のアニメ作品の評判が広まり、それがNetflixのような多くの人が視聴できる動画配信サービスにより、さらに多くの人が気軽に視聴できる環境が整ったということは、日本アニメ業界にとっても非常に大きい環境変化と言えると思います。

日本のアニメファンが世界で増える好循環に

「鬼滅の刃」が、ここまでの世界的大ヒットになっているのは、もちろん日本国内での大きな話題化が影響しているのは間違いありません。
ただ、「鬼滅の刃」が増やしてくれた日本アニメファンが、そのまま他の日本のアニメを見るようになってくれる可能性が高いことも間違いないでしょう。

実際に、Netflixの世界のランキングを見てまわると、以前から海外でも人気があるといわれる「進撃の巨人」をはじめ、今年のCrunchyrollアワードの最優秀作品賞を受賞した「呪術廻戦」や、Crunchyrollアワード受賞の常連だった「僕のヒーローアカデミア」など、様々なアニメが様々な国でトップ10入りをしていることが分かります。

日本アニメのヒット作が増えれば増えるほど、日本アニメを見て育った世界の若者達が、さらに日本のアニメのファンになってくれる可能性が拡がるはず。
当然、これは日本のアニメクリエイターやアニメ作品にとっても様々な好影響があるはずです。

まずは「鬼滅の刃」の、世界でのさらなる快進撃を期待したいと思います。

この記事は2021年4月30日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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