ミセスの「コロンブス」MV炎上で考えるべき、アーティストを担ぐ組織の責任
Mrs. GREEN APPLEの新曲「コロンブス」のMVに対する批判が炎上状態となり、その余波が様々な形で拡がっています。
今回の問題は、「コロンブス」のMVにおいて「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現」が含まれていたり、類人猿を使った表現が、差別的な表現に見えるという点が指摘されており、関係者の認識不足や無知が原因といえます。
ただ、一方でこうした認識不足や無知を原因とした炎上は、Mrs. GREEN APPLEのようなアーティストだけの問題ではなく、どんな企業や個人にもおこりうる問題でもあります。
特に今回の騒動で注意しなければならないのが、批判の矛先がアーティスト個人だけに向かう現在の社会構造です。
私たちは今回のような問題から何を学ぶべきなのか、考えてみたいと思います。
公開から半日で炎上し1日経たずにMV削除
まず、今回の問題について詳しくない方に簡単に出来事を時系列でご紹介すると下記のような流れになります。
■6月12日 21時 「コロンブス」のMVがYouTubeで公開
■6月12日 夜から翌朝にかけて批判的な投稿が増加
■6月13日 午前中に様々なメディアが批判を記事化して炎上状態に
■6月13日 14時40分頃 MVを公開停止にし、レーベルと事務所連名での謝罪文が公式サイトに掲載
参考:Mrs. GREEN APPLE 「コロンブス」ミュージックビデオ公開停止に関して
■6月13日 16時50分頃 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴さんによる経緯説明と謝罪文が公式サイトに掲載
参考:Mrs. GREEN APPLE 「コロンブス」ミュージックビデオについて
MVの公開から半日ほどで炎上状態になったにもかかわらず、その数時間後にMVの公開停止や謝罪文の掲載を判断したという意味では、非常に素早い対応だったと言えるでしょう。
実際に「コロンブス」を含む投稿の推移のグラフを見ると、経緯説明後の18時をピークに投稿数自体は減少傾向になっていることが分かります。
もし、初動の対応が遅くなったり、動画の公開停止や謝罪をせずに言い訳だけをするような対応をしていたら、この炎上がもっと激しくなるリスクがあったのは間違いありません。
実際に今回のMVをめぐる騒動については、BBCなどの海外メディアも記事で取り上げており、放置していれば海外からの批判もされていた可能性が高い問題だったと考えられます。
そういう意味では、今回のMVについては実際に海外の団体等から問題提起をされる前に削除できたという意味で、本格的な炎上騒動になる前に回避できたという見方もできます。
ただ、残念ながら今回の炎上騒動は、謝罪文公開後も関係者の対応に気になる展開がいくつも見受けられ、この謝罪で全てが終了とはなりませんでした。
コカ・コーラのために書き下ろした楽曲
まず、多くの業界関係者が疑問の声を投げかけているのが、今回の楽曲「コロンブス」がキャンペーンソングとなっていたコカ・コーラ社の対応です。
コカ・コーラ社は、今回の「コロンブス」が炎上し、Mrs. GREEN APPLE側が謝罪すると並行してメディアの取材に対して公式コメントを発表、YouTubeなどにアップされた広告素材を削除し、「(今回の)ミュージックビデオの内容に関しては、弊社は事前に把握をしておりません」と、炎上とは無関係であることを表明したのです。
ただ、既に複数の業界関係者が指摘していますが、今回の「コロンブス」はそもそもコカ・コーラ社とのキャンペーンのために書き下ろした楽曲で「炭酸の創造」「飲み干したい」「渇いたココロに注がれる」など、明らかにコカ・コーラを意識した歌詞がちりばめられています。
今回の楽曲を使ったテレビCMも、キャンペーンが既に始まっている関係でMVよりも前に公開されており、メンバーも楽曲に対する思いをメディアへのインタビューに答えています。
仮にコカ・コーラ社側が、今回のミュージックビデオの内容を事前に把握していなかったとしても、楽曲作りの過程では間違いなく様々な情報共有や意見交換がされていたはずですから、その際にコカ・コーラ社側から「コロンブス」というタイトルや歴史認識について警告やアドバイスができるタイミングがあったはずです。
そう考えると、全く自分達は無関係の被害者のような公式コメントには、違和感を感じる方が多いのは間違いありません。
そもそも、Mrs. GREEN APPLEとコカ・コーラ社とのタイアップは今回が初めてでは無く、昨年リリースされた「Magic」もCoke Studioキャンペーンソングでした。
昨年10月にはCoke STUDIO SUPERPOP JAPAN というライブイベントにも出演しているぐらいの両者の距離感を考えれば、今回の動画の問題は問題として指摘しつつも今後のサポートを表明するなり、自分達にも責任がある旨を表明する選択肢もあったはずです。
今回の問題をMrs. GREEN APPLEだけの責任にして、自らは「知らなかった」と無関係を装うコカ・コーラ社の姿勢に失望したファンは少なくないはずです。
なぜレーベルや事務所でチェックできなかったのか
また、そう考えると、同様に気になるのはレーベルと事務所側の対応です。今回の問題に対しては、動画の削除や謝罪文の掲載など、問題に対する対応のスピードは非常に早かったと言えます。
ただ、一方で経緯説明文が大森元貴さんの個人名で掲載され、レーベルや事務所の責任者のサポートが見えない点は残念な点と言えます。
そもそも、Mrs. GREEN APPLEが所属する事務所であるProject-MGAは、Mrs. GREEN APPLEの活動を世界中に展開するためにユニバーサルミュージック内に立ち上げたプロジェクトのようですので、実際としては通常の芸能事務所とは異なる組織構造のようです。
ただ、所属レーベルであるEMI Recordsやユニバーサルミュージックも、今回のミュージックビデオを共同で制作しているはずで、アーティスト個人のみを矢面に立たせる結果になってしまったのは問題があるように感じます。
特にMrs. GREEN APPLEが2020年に「フェーズ1完結」を宣言し、 事務所独立と活動休止をした後に、ユニバーサルミュージック入りした経緯を考えると、本来であれば世界的な音楽会社であるユニバーサルミュージックグループ入りしした価値がこういう時にこそ発揮できたはずです。
実は、今回の大森元貴さんの楽曲のコンセプトを、ChatGPTに「リスクを指摘して下さい」と書き込むと、コロンブスに関する議論や、類人猿を擬人化する際の人種的問題など6つのポイントについて事細かにアドバイスをしてくれました。
こうしたアドバイスをレーベルや事務所側がしてくれないのであれば、レーベルや事務所自体の存在意義が問われる出来事だったとも言えるように思います。
もちろん今回は、おそらくは大森元貴さん本人の希望もあって経緯説明の文章を個人名で掲載されたものとは想像されますが、本来であれば組織名や責任者名でより俯瞰的な経緯説明を行うことで、大森元貴さんへの批判の矛先を組織に向けることもできたはずです。
テレビでの出演も見合わせに
また、今回もう一つ残念なニュースと言えるのは、TBSの音楽番組である「CDTVライブ!ライブ!」でMrs. GREEN APPLEの出演が見合わせになってしまったことです。
出演見合わせの理由について詳細は説明されていませんが、タイミング的に「コロンブス」の炎上を受けての対応であることは明らかでしょう。
金曜日に放送されたテレビ朝日の「ミュージックステーション」が予定していた「コロンブス」の演奏をとりやめる一方で、6年ぶりの「青と夏」に変更したのとは対照的な対応とも言えます。
「コロンブス」のMVが公開された翌日の朝には、実はこぞって各局の情報番組で、「コロンブス」のMV公開が紹介されていました。
そして、どの番組でもそのMVの表現にリスクがあるという指摘はなかったようです。
つまり、テレビ局各局も、このMVの表現に何らかの問題があると気づけずに情報番組で紹介していたことになります。しかも、自分達がその映像を流した判断を反省したり、謝罪することもなかったようです。
それにもかかわらず、「CDTVライブ!ライブ!」で、Mrs. GREEN APPLEの出演が見合わせになってしまったのはどういう基準での判断によるものなのか、気になる方は少なくないはずです。
ひょっとしたら「コロンブス」で出演動画を収録済みで変更が難しかったのかもしれませんが、Mrs. GREEN APPLEが過去に何度も出演していることを考えれば、別の楽曲に切り替える等の選択肢はあったように感じます。
アーティストを組織は支えるべきではないのか
上記にあげた3者とも、炎上以前にMrs. GREEN APPLEの活動によって恩恵を受けていたはずの組織です。
それにもかかわらず、「コロンブス」のMVが炎上した途端に、その責任をアーティスト個人に押しつけたり、他人事のように無関係を装ったり、予定されていた出演を見合わせたりするというのは、実に残念な行為と言えるのではないでしょうか。
そもそも、今回の問題についても、楽曲の歌詞やMVの演出の背景を踏まえれば、Mrs. GREEN APPLE側に悪意があったわけではないことは明白です。
ジャケット写真やMVの後半にあったように、「コロンブスの卵」というキーワードから生まれたアイデアの表現を形にする過程で、一部の人からは批判の対象になるような表現を選択してしまったに過ぎません。
音楽の楽曲制作のような創作行為には、必ず何かしら表現の行き過ぎや批判を受けるリスクというものが存在します。
世界の誰からも批判を受けないように生活しようと思ったら、何も生み出さないのが一番という話になってしまいかねません。
アーティストは、そんな「無」から「有」を生み出し、人々に感動や共感を届けることができるからこそ、大きな影響力を持ち、関係する組織にも利益をもたらすことができるわけです。
普段、アーティストの活動から恩恵を受けている方々は、こういうアーティストが辛いときにこそ寄り添う姿勢が重要になってくるように思います。
アーティストの間違いを指摘し、支えるファンの重要性
なお、今回の騒動でもう一つ明確になったのは、アーティストが間違ったときに指摘し、失敗をした後にも見守って応援してくれるファンの重要性です。
特に今回のMV公開後に、熱心なファンの一部から表現の問題に対する指摘が複数されていたのは重要なポイントだと言えます。
ファンであれば許容できる表現であっても、意図が伝わらず海外などから差別的だと批判されるリスクがあるのであれば、長い目で見ればアーティストのためになりません。
無条件にアーティストのやること全てを肯定するのではなく、間違えたときに明確に指摘してくれるファンがいるからこそ、Mrs. GREEN APPLE側も批判に対して言い訳をして削除を先延ばしにするのではなく、今回のMVを早期に削除する判断ができた可能性は高いと考えられます。
人間誰しも間違いは犯すものです。
その間違いを早期に指摘してくれるファンがいること、そしてその間違いから学んで次に進むことを信じて応援し続けてくれるファンがいることは、これだけ炎上が起こりやすい時代においては、最も重要なことだと言えるかもしれません。
Mrs. GREEN APPLEがテレビ朝日の「ミュージックステーション」で、6年ぶりの「青と夏」を演奏した後、「歌が歌える環境に感謝です」 という言葉を残したのが非常に印象的でした。
なにしろMrs. GREEN APPLEは20代〜30代前半と若いメンバーです。
いまは自分達の間違いを恥じ、辛い思いをされていると思いますが、きっと今回の失敗から学んで、さらに素晴らしい楽曲を生み出してくれると思います。
ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。