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ミセスもLDHもEBiDANも。徐々にファンへの許容度を高める日本の「推し活」の現在地

今月に入って、日本のアーティストや芸能事務所がファン向けにSNSガイドラインなどの変更を行うケースが増えています。

直近で話題になったのは、5月9日に、ミセスの相性でお馴染みのMrs. GREEN APPLEが、「オリジナル音源」動画利用、及び写真・映像等の使用に関する注意事項を改定したことでしょう。

これは、Mrs. GREEN APPLEのYouTubeやCDのオリジナル音源や、公式サイトやYouTubeなどにアップしている写真・映像等を、ファンが動画内で表示することを許容するという内容の改定で、ファンを中心に歓迎の声があがっているようです。

なにしろMrs. GREEN APPLEと言えば、「ケセラセラ」で昨年のレコード大賞に輝いた日本を代表するアーティストでもありますので、その影響は間違いなく大きいと言えるでしょう。

LDHやEBiDANもファンの「推し活」許容にシフト

これに類似した動きとしては、5月1日に、EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSなどの人気グループが所属するLDHがSNS活用ガイドラインを改定し、アーティストやタレントがSNS上にアップした画像や動画をファンがSNS等に使用することを許容することを発表したことが話題になったばかりです。

さらに、5月7日には超特急やM!LKなどが所属する若手アーティスト集団EBiDANが、ファンによる応援広告の受付を開始することを発表しています。

こちらは、SNS投稿等を許容するものではなく、応援広告のみの受付の発表ではありますが、EBiDANといえば、日本の大手芸能事務所であるスターダストプロモーションの男性アーティスト部門です。

こうした歴史のある芸能事務所にも、ファンのいわゆる「推し活」のガイドラインの許容度を高める動きがはじまっていると言えるわけです。
 

BTSとARMYの躍進が契機に

従来の日本のアーティストをめぐる権利の考え方は、アーティストや事務所が最大限に保持しているものであり、基本的にファンはアーティストの音源や写真を流用してはいけないというのが「常識」でした。

特に旧ジャニーズ事務所時代に、アーティストの写真をメディアですら自由に使えず、Amazonで販売されている雑誌の表紙ですら黒塗りされていることが多かったことが象徴的な逸話と言えるでしょう。

こうした日本の「常識」に対する大きな一石となったのが、BTSの躍進とその躍進を支えるBTSのファンである「ARMY」の存在です。
BTSは、ファンであるARMYが、自分達の写真をSNSに投稿することを許容するのはもちろん、公式動画を加工したり、ライブでの動画撮影なども許容し、そのARMYの力によって世界中にファンを広げたことで有名です。

実はファンの「推し活」のエネルギーが、アーティストの活躍を広げる上で非常に重要なことは世界的にも明確な事実になっています。
こうした「推し活」を重視したアプローチが、K-POPを中心に世界中に広がっていく過程で、従来型の全ての権利を厳しく守る日本型の「常識」とのギャップが広がっていったわけです。
 

BMSGが業界の「常識」に一石を投じる

そうした日本の従来の「常識」に対して、明確に一石を投じたのが、BE:FIRSTが所属するBMSGを設立したSKY-HIさんでしょう。

BMSGはBE:FIRSTがプレデビュー曲をリリースした翌月の2021年9月の段階で、BE:FIRSTを応援する目的であればアーティストの写真やグループのロゴ等をSNSに投稿することを明確に許容するガイドラインを制定したのです。

さらにSKY-HIさんは、そのガイドラインを補足する形で自らのSNSで「不当なお金稼ぎや、誹謗中傷、悪意のある捏造みたいなものを見ない限りは基本全スルーします」と、ファンへの著作権侵害の主張をしない趣旨の投稿をされています。

こうした日本では先駆的な選択をしたBMSG側の姿勢により、BE:FIRSTのファンであるBESTYも、BTSのARMY同様に非常に活発なSNSでの「推し活」を展開しました。

そうしたファンのエネルギーが、ビルボードジャパンの総合チャート1位を6曲も獲得し、ドームツアーに約40万人を動員する、現在のBE:FIRSTの人気の礎になっていることは間違いありません。
 

TOBEが変化の流れを加速

さらに、この流れを加速する要因の一つとなったのが、滝沢秀明さんが設立しNumber_iやIMP.が所属する事務所として知られるTOBEによるSNSガイドラインの策定でしょう。
参考:TOBEのSNSガイドライン

このSNSガイドラインはBMSGのガイドライン策定から2年後となる2023年9月に発表されたもので、TOBE公式やアーティストがSNS等にアップした画像や動画を、ファンがSNSに投稿することに対し、著作権侵害を主張しないと明確にうたうものでした。

このガイドラインにより、TOBEのファンも非常に積極的なSNSでの「推し活」を展開し、Number_iの楽曲リリースやTOBEの東京ドーム公演のタイミングなど、様々なタイミングでSNSのトレンド1位を当然のように獲得するという現象が起こっています。

5月1日に公開されたLDHのSNSガイドラインは、明らかにTOBEのSNSガイドラインを参考にしており、それだけTOBEのSNSガイドラインと、それを基にしたファンの活動の影響力が、他の事務所にとっても刺激になっていたことが分かります。
 

日本の「推し活」の常識が変わるか

ここに来て、Mrs. Green Appleも、LDHも、EBiDANも、と次々にSNSガイドラインの改定や、応援広告の実施など、ファンによる素材の活用を許容するアーティストや事務所が増えてきたことは、明らかに日本の「推し活」の重心が、従来の日本の「常識」から、K-POP流にシフトしつつある象徴と言えます。

筆者が調査した限り、実はK-POPの「推し活」においては、日本のように明確にガイドラインが存在するわけではなく、あくまで事務所が容認し、ファンがその容認を前提に、素材の活用や写真や動画の撮影を行っているケースが多いようです。

(出典:筆者作成)

ただ、日本は従来の「常識」を基に活動しているファンが多いことを考えると、BMSGやTOBEのように明確にSNSガイドラインを策定したり、応援広告の許可を行うことが重要になっていると言えるでしょう。
 

STARTOの変化で「常識」が変わるかも

また、今後最も注目されるのは、日本の従来の「常識」であった、旧ジャニーズ事務所の所属アーティストが移籍したSTARTO ENTERTAINMENTが、どのようなガイドラインを発表するかです。

現在のところ、STARTO ENTERTAINMENTは特にSNSガイドラインを発表していませんが、昨年のジュニアのライブにおいては一部写真や動画の撮影がOKされており、今年に入ってTravis Japanもアンコールを撮影OKにするなど、変化の兆しは見られます。

また、King & Princeが5月23日には、いよいよ新曲の発表と連動して楽曲のサブスクサービスへの配信を発表するなど、会社設立時からの公約であるDX化も着々と進めていることが見えています。

サブスクサービスへのプロモーションのためには、当然STARTO側も従来の「常識」を軸にしたアプローチではなく、ファンの「推し活」への許容度を高めたガイドラインが必要になるはずです。

永らく日本の音楽業界は、世界に取り残された文字通りのガラパゴス状態だと言われてきましたが、いよいよそんな状態も終わりを迎えるのかもしれません。
日本のアーティストの活動が、BTSとARMYのように、ファンの「推し活」のエネルギーによって世界に広がる未来を楽しみにしたいと思います。

この記事は2024年5月17日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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