五輪選手への悪質な誹謗中傷を止めるために私たちには何ができるのか
パリ五輪での日本選手のメダル獲得のニュースが連日大きく報道されていますが、一方で誹謗中傷に関する残念なニュースも連日大きく取り上げられています。
オリンピック選手に対する誹謗中傷の問題は、2021年の東京五輪の際にも大きく注目され、日本においては2022年に誹謗中傷の厳罰化がされる流れにもなりましたが、残念ながらパリ五輪においても状況は変わらず、日本選手団が緊急声明を出す展開になってしまっています。
こうした状況に対して、私たちは何かできることがないのか、今一度考えてみたいと思います。
毎日のように報道される誹謗中傷問題
この数日報道されたオリンピック関連の誹謗中傷に関する主なニュースを並べてみると、下記のようになります。
■7月29日 競歩の柳井選手が誹謗中傷の被害についてSNSに告白
参考:競歩・柳井綾音、誹謗中傷被害訴え「厳しい言葉に傷ついた」団体専念のため20キロ辞退
■7月29日 阿部詩選手のインスタに批判の書き込みが殺到
参考:阿部詩のインスタ 心無い書き込み殺到でウズベキスタン人謝罪「私は恥ずかしい」「嘲笑するな」
■7月30日 永山竜樹選手が相手選手への誹謗中傷を控えるよう投稿
参考:永山竜樹「相手選手への誹謗中傷は控えて」 握手拒否は謝罪「申し訳ない」不可解判定巡り両者がSNSで胸中吐露
■7月31日 バスケの日本ーフランス戦の審判に誹謗中傷が殺到
参考:日本ーフランス戦の審判への誹謗中傷が続出 日本語による〝書き込み〟も
■8月1日 出口クリスタ選手が誹謗中傷に対して苦言を投稿
参考:出口クリスタ、SNSでの誹謗中傷コメントに苦言 “言葉の矢”放っても「得する人は誰一人いない」
文字通り毎日のように、何かしらオリンピック関連の誹謗中傷のニュースが報道される異常事態といえます。
東京五輪の時にも、卓球の水谷選手や体操の村上選手などが誹謗中傷について言及して問題提起がされましたが、実はその際には組織委員会は声明を出さず、「各競技団体から適切なアクションがあると考えている」と言及するにとどめました。
そういう意味では、今回パリ五輪において、日本オリンピック委員会が大会期間中に声明を出したということが、いかに関係者の危機意識が高い状態になっているかを表していると思います。
特に日本人が海外の選手や審判に誹謗中傷をしているというのは、ある意味では国際問題になりかねない恥ずかしい行為でもあります。
それでは、私たちはそうした悪化する誹謗中傷に対して、どのように対応するべきなのでしょうか。
■誹謗中傷投稿を見たら「通報」する
まず、私たちが短期的にできることは、明らかな誹謗中傷投稿を見たら「通報」をするということです。
基本的にSNSなどのプラットフォームは、全部の投稿を自分たちでチェックできないために、ユーザーの力を借りる仕組みになっています。
明らかな誹謗中傷投稿に対して、一度に多くのユーザーが「通報」をすれば通常はプラットフォーム側が投稿を削除したり、その投稿をしているユーザーのアカウントを凍結したりという対応につながる確率が高まります。
参考:X上の攻撃的な行為を報告する方法
なお、誹謗中傷投稿に対して反論コメントをしたくなる方も少なくないと思いますが、誹謗中傷をするような人に反論をするとかえって相手はエスカレートしてしまい、その投稿元の選手がさらに傷つく結果になりかねません。
また、誹謗中傷投稿を批判してくれる人にさらすために、リポストなどをする方もいますが、それは当然その投稿をさらに拡散する行為になりますので、絶対に避けるべきです。
我々一般人が、誹謗中傷投稿に対して直接するべきことは、基本的に「通報」の一択であると考えてください。
■選手への応援メッセージで誹謗中傷を目立たなくする
もちろん、「通報」以外にも、誹謗中傷から選手を守るために私たちができることはまだあります。
それは選手に直接「応援」の投稿をするということです。
誹謗中傷が殺到しているときには、世界中が敵になってしまったと思い込んでしまいがちです。
是非そうではないことを選手にコメントで伝えてあげましょう。
最近、誹謗中傷の対象になってしまった星野源さんも、ラジオでファンの方々の応援のコメントに救われたことを明言されていたように、応援のコメントにはある程度誹謗中傷のコメントを中和する効果があります。
また、ほかの方の応援コメントに「いいね」をつけることも有効です。
誹謗中傷の数よりも、応援の数の方が多ければ、誹謗中傷の投稿も目立たなくなりますし、応援投稿にたくさんの「いいね」がつけば、プラットフォームによっては応援投稿の方が上位に表示されて誹謗中傷の投稿が目立たなくなる効果もあります。
また誹謗中傷のようなネガティブな投稿ではなく、永山選手の上記の投稿のようなポジティブな投稿や誹謗中傷を減らすための投稿を拡散することに貢献することも、重要だと思います。
■悪質な誹謗中傷に対しては法的措置を
また、今回日本オリンピック委員会は「侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討いたします。」と声明で宣言されていますが、今後の悪質な誹謗中傷投稿に対しては、警察への通報や法的措置を検討と警告するだけでなく、実際に通報や法的措置を行使するべきタイミングに入っていると考えられます。
日本でも、誹謗中傷についての厳罰化が2022年に行われましたが、まだまだ多くのユーザーがその事実を知らずに、自分たちはたいした罰を受けないと思い込んで誹謗中傷行為を続けているのが現状です。
特に東京五輪からパリ五輪にかけて状況が悪化していることを考えると、誹謗中傷行為への問題提起だけをして、実際の投稿者を放置することは問題の改善に全くつながらないことが証明されてしまっています。
実は、国際大学の山口真一准教授の調査によると、炎上や誹謗中傷に加担する人は実際には40万人に1人と非常に少人数であることが分かっています。
逆に言えばその少数の誹謗中傷者に法的措置をとることで、今後のその誹謗中傷者の未来の誹謗中傷を止めることができれば、さらなる犠牲者が出ることを減らせる可能性が高いとも言えます。
スポーツ選手個人が誹謗中傷に対して法的措置をとることは、個人の印象を悪くする可能性もありますので、難しいのが現状でしょう。
ただ、そうやって誹謗中傷をされたスポーツ選手が泣き寝入りをして法的措置をとらなかった結果、誹謗中傷をしている個人が味を占めて他の選手への誹謗中傷行為を続けてしまっている可能性があるわけです。
実は、東京オリンピックの時に爲末さんが、JOCが被害を受けた選手をサポートする仕組みを作ることを提言されていましたが、選手の代わりにJOCが法的措置をとる仕組みを作ることで、スポーツ選手に対する誹謗中傷行為を行っている人たちに明確な強いメッセージとなるはずです。
事ここに至っては、誹謗中傷を行っている人間に、誹謗中傷が犯罪であることを一人一人直接警告していくしか状況改善の道はないとも言えます。
日本オリンピック委員会が、現在のオリンピック選手はもちろんのこと、未来の選手を誹謗中傷から守るためには、日本オリンピック委員会は選手への誹謗中傷に対して断固たる姿勢をとるということを、実際に行動で示すべきフェーズに入っていると言えるでしょう。
■誹謗中傷は言葉の「暴力」であるという共通認識を
また、今後メディアや社会全体が取り組まなければいけないのは、誹謗中傷が人を死に至らせることがある非常に危険な「暴力」行為であるということを社会の共通認識とすることでしょう。
特に「誹謗中傷」という単語が一般人には少し特殊な単語である関係で、実際に多くのユーザーが自分が投稿しているものは、「誹謗中傷」ではないと思い込んでいるという現状があります。
特に炎上時には、多くのユーザーがある種の「正義感」から激しい批判投稿を相手にぶつけることが多くあります。
しかし、仮に正義感から発せられた言葉であっても、受け取る側が激しい言葉を大量にぶつけられるとその言葉は凶器になりますし、正義感であろうがなかろうが、度を越した言葉の「暴力」は違法行為であるという共通認識を作っていく必要があります。
また、まだまだ日本ではネット上であれば何を言っても大丈夫だと思い込んでいる人が多いようですが、ネット上であっても、相手に面と向かって言えない発言や、自分が言われて傷つく発言を投稿してはいけないし、それは犯罪になり得る「暴力」行為であるということを共通認識とするべく、教育やメディアの報道などすべてのルートで啓発していく必要があると言えます。
また、自分の仲のいい人が誹謗中傷の可能性がある投稿をしていたら、やんわりと法的リスクがある行為であることを伝えてあげるべきでしょう。
SNSを現実社会と同じような安全な空間にするために
オリンピック選手を誹謗中傷から守るためには、オリンピック選手のSNS利用をやめさせればいいという極端な意見もあるようです。
ただ一方で、SNSがあるからこそオリンピック選手にファンが直接応援の声を届けることができ、選手もファンに感謝の気持ちを伝えることができるという面もあります。
SNSが社会に普及し始めて、実はまだ20年ぐらいしかたっていません。
ある意味、現在のSNSは言葉の「暴力」を行使することが社会的に十分に規制されていない原始時代や戦国時代のような過渡期の状態であるとも言えます。
SNS空間を無法地帯のまま放置せず、現実社会のように他人に暴力行為を行えば罰を受けるという常識を、社会的に認知させていくべきタイミングに入っているとも言えるでしょう
今、誹謗中傷の矛先が向いているのはオリンピック選手かもしれませんが、SNSが無法地帯のままであれば、その矛先が明日向くのは私たち自身になる可能性もあります。
今回の誹謗中傷の問題は、決してオリンピック選手だけの問題ではないのです。
今回の日本選手団の緊急声明がターニングポイントとなり、4年後は今回のパリ五輪のように連日誹謗中傷のニュースが報道されることのないオリンピックを迎えられることを祈りたいと思います。
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