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ランダムトレカ廃止でも売上倍増。BE:FIRSTの挑戦に続く企業は現れるか

4月に「日本の音楽業界には重大な欠陥がある」という強い言葉で問題提起を行った、SKY-HIさんの音楽業界を持続不可能にしないための提言。

その最初の挑戦だったBE:FIRSTの「Masterplan」の結果が、SKY-HIさん自らが語る動画として公開されて、大きな注目を集めています。

詳細は是非動画をご覧いただければと思いますが、SKY-HIさんは「Masterplan」のシングルCDを紙ジャケットに変更したことで、10トン分のプラスチック削減に貢献し、それはスマホのフル充電1200万回分に相当することを説明。
シングル1枚でこの成果が出せるのであれば、音楽業界全体で取り組めば「国が本当に変わる」と強調されています。

この動画のタイトルである「Less Waste, More Music」というのは無駄を減らすことがより音楽業界の発展につながるという、SKY-HIさんの信念を体現している言葉と言えるでしょう。

しかも、さらに今回の挑戦でプラスチック問題対策以上に「成功」と言えるポイントとなるのが、「Masterplan」がいわゆる「ランダムトレカ」と言われるCD特典を廃止してCD販売数を減らした一方で、売上は倍増したという結果です。 
 

CD市場を膨らませる「ランダムトレカ」

「ランダムトレカ」とは、K-POP界を中心に人気を博している、アーティストの写真が掲載されているトレーディングカードを、CDにランダムで特典としてつける手法のことを言います。

ファンは自分が好きなアーティストのカードが出るまで複数のCDを買うことになり、1人あたりのCD購入数が激増する仕組みになっています。

この手法が普及したことにより、この20年近く減少し続けていた世界のCD市場規模がV字回復して増加に変わったほど、CD販売における重要な手段になっているのです。

(出典:SKY−HI 公式Instagram)

しかし、SKY-HIさんとBE:FIRSTは「Masterplan」でこの「ランダムトレカ」との決別を宣言。
全てのメンバーのトレーディングカードをCDの中に封入する判断を行ったわけです。
 

グッズ販売によって売上を倍増

ただ「ランダムトレカ」を無くせば、一人のファンが複数CDを購入する必要はなくなりますので、当然ながらCDセールスには悪影響がおきることになります。
実際、「Masterplan」のCDの販売枚数は、BE:FIRSTの前作である「Mainstream」から7万枚以上減少することになったようです。

しかし、「Masterplan」は独特の楽曲と映画のようなMVで、様々な分野で話題になるなど、CD販売以外の数値を着実に伸ばして、ビルボードジャパンの総合チャート1位を獲得することに成功しています。


さらに、今回SKY-HIさんの発表によると「Masterplan」では「ランダムトレカ」を無くした一方で、CD販売店等とグッズ販売の仕組みを構築した結果、CDとグッズを合算した作品全体の売上は、前作「Mainstream」の2倍近くに増加することに成功したというのです。

(出典:BE:FIRST公式ストア)

動画の中でもSKY-HIさんが明言していますが、このCD販売からグッズ販売への重心シフトは、明確にアーティストへのリターンを大きくできる仕組みになります。

CDビジネスは、アーティストへの還元率はレーベルや原盤製作者などの取り分が大きい関係で、1〜3%程度しかないと言われるのに対して、グッズはこの還元率を大きく引き上げることが可能だからです。

(出典:書籍「最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本」)

動画の中でも、渋谷TSUTAYAの方が、ランダムトレカの廃止はCD販売店の売り上げが下がるため正直厳しいという趣旨の発言をされていますが、グッズ販売がCD販売の補填になるのであれば、アーティストだけでなくCD販売店にとってもメリットがある仕組みと言えます。

今回のSKY-HIさんとBE:FIRSTによって実施された取り組みは、日本の音楽業界の変化のための一つの方向を明確に指し示してくれたと言えるでしょう。
  

STARTO所属アーティストのCD依存脱却なるか

今後注目されるのは、BMSG以外の事務所がこの取り組みを参考にし、追従するかどうかです。
最も注目されるのは、STARTO ENTERTAINMENTとHYBEの動向でしょう。

特にSTARTO ENTERTAINMENTの所属アーティストの多くは、旧ジャニーズ事務所時代に、CDビジネスの維持のために楽曲のストリーミング配信を避ける判断をされてきたと言われているため、その方針が変わるかどうかは大きな変化になります。

そういう意味では、直近でKing & Princeがシングル「halfmoon」リリースのタイミングでストリーミング配信の解禁を行い、二人が念願だったビルボードジャパンの総合チャート1位を獲得しているのは朗報と言えるでしょう。

こうした成功事例を見て、残りのグループも順次ストリーミング配信を解禁していくと予想されますが、そのスケジュールによって日本の音楽業界のデジタルシフトのスピードも変わってくるはずです。
 

HYBEはCD廃棄問題にどう対応するのか

また、もう一つ注目されるのは、BTSを筆頭にLE SSERAFIMやNewJeansなど日本でも人気のあるアーティストが多数所属する、K-POP事務所のHYBEの動向でしょう。
HYBEは日本でも「ランダムトレカ」を組み合わせたCD販売で大きな成功を収め、すでに日本市場で会社全体の3分の1の売上をあげていますが、その手法に対しては業界の内外からも批判が出はじめています。

特に4月30日に発売されたSEVENTEENのベストアルバムが、渋谷で大量に不法投棄されていた問題は、日本のメディアでも大きく報道されました。


同様の事態がHYBE所属の他のグループでも頻発するようであれば、社会的批判がHYBEに向きかねない状況と言えます。

特にBTSのメンバーはSDGsなどの社会貢献活動にも大きな関心を持って活動をしていることが知られています。

兵役を終えたBTSのメンバーが、こうした「ランダムトレカ」への批判のニュースにどう反応し、どういう発言をするかが大きな注目点と言えるでしょう。

 

音楽業界を持続不可能にしないための「体現」

今回BMSGがアップしたSKY-HIさんの動画には【提言から体現へ】というサブタイトルがつけられています。

BMSGが「BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言」というタイトルでリリースを出した2月の段階、そしてその取り組みをSKY-HIさんが発表会で説明した4月の段階では、まだこの「提言」を具体的な形として受け止められた方は少なかったかもしれません。

しかし、今回BE:FIRSTが「Masterplan」で実際に日本の音楽業界の問題に挑戦し、CD廃棄問題への取り組みと、ビルボード総合1位獲得や売上倍増が両立できる方法を文字通り「体現」してくれました。
変化への道は、SKY-HIさんとBE:FIRSTにより明確に切り開かれたと言えます。

冒頭の動画の最後に、SKY-HIさんはアーティストや応援してくれている人の幸せを作るために「積極的に声を上げて発信して欲しい」と締めくくられています。

日本の音楽業界を持続可能にし、さらなる成長につなげていくために、私たち全員が変化を求める声を上げるべきタイミングが来ているように感じます。

この記事は2024年6月13日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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