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真田広之主演「SHOGUN 将軍」のエミー賞最多25ノミネートが日本のテレビに与える衝撃

第76回エミー賞のノミネートが米国の7月17日に発表され、真田広之さん主演のドラマ「SHOGUN 将軍」が最多22部門25ノミネートという歴史的快挙を成し遂げたことが業界で注目されています。

現時点ではまだノミネートの発表であり、米国の9月16日に行われる授賞式までは2ヶ月近く時間があります。
ただ、普段日本のテレビドラマをメインでみている方からすると、米国におけるエミー賞の位置づけや、今回の「SHOGUN 将軍」の一連のノミネートがいかに快挙かという点が分かりにくいかもしれませんので、ポイントをご紹介したいと思います。
 

エミー賞はテレビ版アカデミー賞

まず、エミー賞をご存じのない方には、エミー賞は「テレビ版アカデミー賞」とイメージしていただくのが一番分かりやすいかと思います。
アカデミー賞は映画界における最高峰のアワードですが、エミー賞はテレビ番組における最高峰のアワードです。

第1回が開催されたのはなんと1949年で、昨年の2023年には75周年を迎えた歴史のあるアワードなのです。

ただ、当然ながら表彰対象はアメリカ合衆国で放送されたテレビドラマやバラエティ番組ですので、日本の映像作品にとってはある意味アカデミー賞よりもハードルの高い賞と言えます。
そういう意味で、今回の「SHOGUN 将軍」のノミネートには、最多25ノミネートという数以外にも、日本の映像業界にとって重要な3つの歴史的快挙が含まれています。

1:日本人俳優陣の受賞の可能性

まず一つ目の快挙として分かりやすいのは、今回のエミー賞において主演男優賞で真田広之さん、助演男優賞で浅野忠信さんと平岳大さんという日本でもお馴染みの役者の方々がノミネートされている点でしょう。
更に真田広之さんと、主演女優賞にノミネートされたアンナ・サワイさんは受賞の可能性が高いと多くの専門家から予想されています。

実は「SHOGUN 将軍」は1980年にも米国でドラマ化がされており、翌年エミー賞のミニシリーズ部門の作品賞を受賞しています。
ただ、この時には三船敏郎さん、島田陽子さん、目黒祐樹さんの3名がノミネートされたものの、受賞はなりませんでした。

今回日本人俳優の誰かがエミー賞を受賞すれば、史上初の日本人俳優の受賞という快挙となるわけです。 
 

2:日本語での演技の受賞の可能性

しかも、注目すべきはアンナ・サワイさん以外のノミネートされている俳優は、ほぼ日本語しか喋っていないという点です。
通常、エミー賞の主演男優賞や主演女優賞は演技が評価されるという属性上、英語での演技を行う役者が選ばれるのが普通です。

しかし「SHOGUN 将軍」は、日本に漂着したイギリス人航海士ジョン・ブラックソーンの視点から江戸時代の日本を描いたドラマであり、ジョン・ブラックソーン以外の欧米人は船員や数名の宣教師が脇役で出演しているのみ。

それ以外のほぼ全員は日本人ですから、ジョン・ブラックソーン以外とのほとんどの会話が日本語で展開されるドラマなのです。

気が早い話ですが、もし真田広之さんや浅野忠信さん、平岳大さんがエミー賞を受賞すれば、その俳優は英語の演技ではなく日本語の演技で受賞したということになります。
日本人の役者がエミー賞を初受賞するというだけでなく、日本語の演技で初受賞するという二重の快挙の可能性があるわけです。
 

3:日本人プロデューサー作品の受賞の可能性

更に、今回の「SHOGUN 将軍」において最も重要なのは、この作品が単なるハリウッドによる日本のドラマではなく、プロデューサーに真田広之さんと宮川絵里子さんという2人の日本人が名前を連ねている点です。

これまでエミー賞の作品賞に、日本人がプロデューサーとして名前を連ねる作品がノミネートされたことはありませんので、これは初の快挙となります。
しかも、9月には日本人プロデューサーが携わった作品が、初めてエミー賞の作品賞を受賞する可能性も秘めているわけです。

特に今回の「SHOGUN 将軍」は、11年前から構想されていた映像化のプロジェクトが、7年前に真田広之さんが参加したことで具体的に動き出したと言われているほど、真田広之さんの存在が大きい作品です。

真田広之さんは「日本の文化を正しく世界に紹介したい」という信念の元、日本の実力派俳優や時代劇の経験豊富な専門家を揃えることを自分が参加する際の条件として出したと言われており、真田広之さん以外の俳優は日本でキャスティングされたそうです。
真田広之さんのこの作品にかける思いの強さが伝わってくる逸話と言えるでしょう。
 

日本人の役者のドラマは世界では通用しない?

これまでの日本の映像業界では、日本人の役者による日本語のドラマや映画は世界では通用しないというのが、ある意味暗黙の常識だったと思います。
そのため、日本でヒットした作品を海外に展開する際には、ハリウッドの俳優陣で作り直すというのが成功の方程式となってきたわけです。

昨年、アカデミー賞の舞台において「ゴジラ−1.0」が視覚効果賞を受賞したことも、関係者の誰も作品公開時には想像できなかった快挙でしたが、当然まだアカデミー賞で日本語の映画作品が、作品賞や男優賞、女優賞を受賞するシーンを想像するのは難しい方も少なくないでしょう。

しかし、今回の「SHOGUN 将軍」はエミー賞の舞台において、その快挙を成し遂げようとしているわけです。

もちろん、今回の「SHOGUN 将軍」がこれだけの高いクオリティで配信されることができたのは、ウォルト・ディズニー傘下のFXネットワークが特に昔から質にこだわってドラマ作りをしてきた会社であり、アメリカのスーパーボウルでテレビCMを流すぐらい本腰を入れて投資を行ったからと言えます。

ただ、少なくとも日本人プロデューサーである真田広之さんのもと、日本人の役者と日本の時代劇の専門家が、本気でハリウッドのスタッフとともに作品作りを行えば、エミー賞の作品賞獲得が本命視されるほどの作品を生み出せることが、今回明確に証明されたわけです。
 

日本の全ての役者、全ての作品に同じ可能性がある

すでに、昨年の映画「ゴジラ−1.0」が日本語作品としてアメリカでヒットしたように、日本の役者による日本語の映像作品は海外でヒットを始めています。

特にNetflixでは「今際の国のアリス」を筆頭に、「幽☆遊☆白書」や「忍びの家」が世界中で視聴されるヒットになりましたし、今年4月に配信された映画「シティーハンター」は、3ヶ月で約1650万人に視聴され、Netflixオリジナルの非英語圏の映画作品として今年最大級のヒットの1つになったそうです。

また、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下の配信サービスHBO MaxとWOWOWが共同製作した「TOKYO VICE」も、日本のヤクザ社会を舞台にしたドラマとしてアメリカで注目されているそうです。

もはや、日本の役者による日本語の映像作品は、決して世界では珍しいものではなく、普通にヒット作品になる可能性があるものなのです。
 

日本のテレビは世界に通用する作品作りができるか

当然、この変化によって最も今後の動向が注目されるのは、既存の日本向けドラマを作り続けているテレビ局でしょう。
世界での成功事例としてあげられる日本の役者による日本語の映像作品は、現在のところそのほとんどがNetflixやウォルト・ディズニーなどの外資系資本の配信サービスのドラマです。

これまで日本のテレビ局が放送するテレビドラマは、日本人向けに製作され、海外からは視聴することが難しい環境が長く続いていたため、世界のファンに受け入れられるかどうかの挑戦すらしてこなかったと言えるかもしれません。

ただ最近ではテレビ局のドラマも、海外向けに配信サービスでの配信に踏み切るところが出てきており、最初から海外向けを意識して製作されるものが増えてきて、大ヒットにはなっていなくとも海外で視聴される作品も徐々に増えてきているタイミングと言えます。
 

真田広之さんと「SHOGUN 将軍」の快挙の衝撃

そんな中、真田広之さんと「SHOGUN 将軍」のチームが成し遂げた快挙は、間違いなく多くの日本のテレビドラマの関係者に、大きな衝撃を与えているはずです。
何しろ「SHOGUN 将軍」は、ある意味日本のテレビドラマでは古いとされがちな「時代劇」です。

その「時代劇」も、本気で投資を行い、世界に向けた映像化に取り組めば、これだけ世界中のファンが熱狂する作品になることを、真田広之さんとFXネットワークが証明してくれたと言えます。

実際に「SHOGUN 将軍」を視聴すると、いわゆるお金があるから撮影できるといわれがちな大規模な合戦シーンよりも、「切腹」という海外からは理解しにくい日本の武士の流儀こそが、この作品の大きなテーマであり見せ場であることが分かります。

実は日本人が普通や古いと思ってしまうテーマでも、「日本の文化を正しく世界に紹介したい」という真田広之さんの信念と関係者の努力により、世界にとって新鮮で刺激的な映像作品を生み出すことができているわけです。

今回の「SHOGUN 将軍」の快挙は、間違いなく更に多くの日本の俳優陣や映像関係者に良い刺激を与え、日本の映像作品の可能性を広げるきっかけになるはずです。

まだ視聴していないという方は、9月のエミー賞の授賞式までに是非ご覧になることをお勧めしたいと思います。

この記事は2024年7月21日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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