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XGのワールドツアーが投げかける、日本だけ逆転するライブ撮影禁止のギャップ

日本人7人から構成されるガールズグループ「XG」が、初のワールドツアーを大阪からスタートするなど、様々な活動が話題になっています。

直近で大きな話題になったのは、メンバーのCOCONAさんが自らバリカンで髪を刈る新曲「WOKE UP」のMVティザー動画でしょう。

XGのワールドツアーの初日が開催された大阪城ホールの公演では、実際にバリカンで刈ったその坊主頭をファンの前で初めて披露しました。
オープニングの様子を見て頂くと、冒頭のCOCONAさんの歌唱パートでCOCONAさんがビジョンでアップになったため、会場の歓声が一段と大きくなったのが分かると思います。

また、今回のXGのワールドツアーの日本公演で非常に興味深いのは、上記の筆者の動画のように、ファンによるライブ中の写真・動画の撮影が明確にOKとされている点です。
公式サイトにも明確に「本公演は、ライブ中の写真・動画の撮影をしていただけます。」と書かれており、SNS投稿に関しても注意事項を守れば自由に行っていいことが明記されています。

その結果、SNS上にはたくさんのファンによるライブ動画がアップされる結果となっています。
COCONAさんのバリカンの動画に関しても、一部ではCGやウィッグを疑う声がありましたが、今回のファンによるライブの動画で事実であったことがメディアにも確認される、という流れになっているのが印象的です。
 

デビュー2年目で海外で最も再生された国内アーティスト3位に

XGをあまりご存じない方に簡単にグループの紹介をしておくと、2022年3月にエイベックスが立ち上げた「XGALX」というプロダクションからデビューし、既に2年目の昨年の段階でSpotifyによる「海外で最も再生された国内のアーティスト」の3位に入るという驚きの活躍を見せているグループです。

韓国をはじめ海外を活動の中心としているため、日本の報道番組などで海外で活躍するグループとして報道されることはあるものの、日本の音楽番組には出演していませんが、海外でのライブも何度も成功させ、すでに海外に多くのファンがいる日本人アーティストになっているというわけです。
 

未発表の新曲まで動画撮影が自由なXGのライブ

筆者も、今回初めてそのXGのライブに参加してみて驚いたのが、前述のようにライブの注意事項に明確に、ファンによるライブでの写真・動画の撮影が許可されており、さらにSNS投稿も許容されている点です。

実際に、筆者も自分で動画を撮影しYouTubeやXにアップしてみましたが、XGが権利を持っていない日本語楽曲2曲を除いては、未発表の新曲「WOKE UP」の動画まで、YouTubeのコンテンツIDの仕組みでブロックされることなく手軽にアップできてしまうのに衝撃を感じました。

会場の中でも多くのファンがスマホを手にして応援をしており、XやYouTubeを検索すると、そうしたXGのファンによる様々な角度からの動画を見ることができます。
 

日本でもライブでの一部動画撮影は許容される方向に

もちろん、日本においてもライブでのファンによる写真や動画の撮影は、徐々に許容するアーティストが増えている傾向にあります。
特に多いのはアンコールなどの特定の曲に限って、写真や動画の撮影を許容するパターンでしょう。

BMSGのSKY-HIさんが中心となって企画した「D.U.N.K.」では、様々な事務所のアーティストが参加しているにもかかわらず、オールキャストのサイファーパートにおいて、動画の撮影が許容されていたのがその例と言えます。

従来最もこうした撮影行為に厳しい事務所という印象があった旧ジャニーズ事務所も、Travis Japanが全国ツアーにおいてアンコール時の撮影をOKするなど、変化が始まっていることが確認できています。

ただ、日本ではまだ、ファンによる撮影はあくまで特別に許容するケースが多く、規約上は明確に禁止されていることが普通です。

直近ではNumber_iやIMP.が所属するTOBEがライブにおいて、序盤8曲で観客に撮影を許容するという神対応を行って大きな話題となりましたが、実はこのライブに関しても、チケットの注意事項においては「会場内でのカメラ・スマートフォン等による無許可の撮影・録音は固く禁止いたします。」と明記されているのがそれを物語っていると言えるでしょう。

TOBEはSNSガイドラインにおいては、「著作権侵害を主張いたしません」という非常に分かりやすく攻めた文言のガイドラインを公開したことで有名ですが、ライブにおける撮影については、まだ特別扱いという位置づけと言えるわけです。
 

海外と日本で広がるギャップ

ここでポイントになるのが、実はファンのスマホによる撮影は、海外の多くの国で既に普通になっているという事実です。
こうした日本と海外の違いについては、業界の中で以前から議論がおこっており、日本のアーティストが海外ツアーで撮影禁止を徹底しようとして混乱が起きたり、海外のファンが日本のライブで当然のように撮影をしてトラブルになったりということが発生しているのです。

代表的な事例と言えるのは、2年前に水原希子さんがTWICEの日本でのライブで撮影した写真をInstagramにアップして大きな批判をあびたケースがあげられます。

こうした傾向は2年経っても変わっておらず、例えば来月開催される予定のNewJeansの東京ドームライブは、公式サイトにおいて「場内でのカメラ・携帯電話などによる写真撮影、映像の撮影、音声の録音、ライブ・ストリーミング(音声・映像による生中継)等の行為は、アーティスト権利保護のため、一切禁止されています。」と、ファンによるスマホでの撮影が普通の韓国とは真逆の厳しい禁止事項が記載されているのです。

また、一方で日本のアーティストも、海外のフェスなどに参加する際には、海外の常識に合わせて動画撮影が可能になっているケースが増えています。
こちらの代表的な事例と言えるのは、インドネシアにおけるYOASOBIのライブでスマホで撮影しながら号泣していた女性の動画が話題になったことでしょう。

この女性がしっかり泣きながらスマホを掲げているように、このライブでは海外の他のライブ同様に動画の撮影が許容されていたようで、そうしたファンによるさまざまな動画がYOASOBIのファンを更に広げる要因の一つとなったという分析もされているのです。


国内でも徐々に生まれる変化

ただ、YOASOBIも国内のライブにおいては写真撮影はOKを出しているものの、動画撮影については禁止しているようですし、海外では撮影を許容していても国内では撮影を明確に禁止しているアーティストがほとんどで、海外と国内のファンで撮影の可否が変わるというある意味での不公平が生じ始めているのです。

こうした状況については、サマーソニックを主催するコンサートプロモーターの清水直樹さんもメディアの取材に対して「近い将来、日本も世界と同様にスマホ撮影OKがスタンダードにならざるを得ないのではないでしょうか」と発言されているのが印象的です。

日本でも、茨城で開催されている「LuckyFes」が海外大型フェスの影響を受けて、2023年から明確に来場者によるステージ撮影とSNS投稿を原則OKにするなど、海外の基準に合わせようという動きも始まりつつあります。

実は、LuckyFesに出演したアーティストのアンケートにおいては、半数以上がファンによる「撮影は自由にして、SNS発信もOKとしたい」と返答があったとのことですから、実は従来型の撮影禁止にこだわっているのは、アーティストではなくチケットの売れ行きを心配するライブの興行主なのかもしれません。
 

XGの撮影をOKするガイドラインが投げかけるもの

今回、筆者自身が、拙いながらも自分でXGのパフォーマンスを撮影してYouTubeにアップしてみて驚いたのは、動画を投稿してすぐに、多くの海外のXGのファンから感謝のコメントが英語で届いたことです。

おそらく彼らは日本でXGのライブが開催されているのを知っていて、ファンによる動画がアップされるのを、いまかいまかと検索しながら待っていたということでしょう。

日本では始まったばかりのライブの動画をアップするのは「ネタバレ」として嫌うファンも少なくない面はありますが、一方でどうしてもライブに参加できない理由があるファンや、チケットを入手できなかったファンにとっては、質の悪いファンカメラであっても喜んでもらえるのだというのは非常に印象的な現象でした。

こうしたアーティストや事務所側のファンのSNS投稿に対する寛容な姿勢が、XGのファンであるALPHAZのSNSでの投稿行為をより活発化し、それが更に海外のファンを増やすエネルギーになっているからこそ、デビュー2年目でYOASOBIや藤井風に続く3番目に海外で聴かれる国内アーティストになっているんだというのを肌で感じることができました。

XGが本気で世界を対象にしているアーティストだからこそ、日本のファンにも世界のファンと同様に胸を張ってSNS投稿をしてもらいたいからこそ、わざわざガイドラインに「本公演は、ライブ中の写真・動画の撮影をしていただけます。」と記載しているのだと思います。
 

他の日本のアーティストや事務所も追随するか

そういう意味で、今回のXGのワールドツアーの成功を受けて、他のアーティストや事務所が、このガイドラインをどう受け止め、似たようなファンによる撮影やSNS投稿を許容するガイドラインを選択するかが注目点と言えます。

リスクを取らずに権利を守る視点でいえば、現在のように基本的にはファンによる撮影は禁止としておいて、アンコールなど一部だけOKとする方が法務的には安全なのは間違いありません。
ただ、それによって日本のファンと海外のファンの間で少なからぬ混乱やトラブルが起こってしまっているのも間違いなく事実です。

本気で世界を対象にして音楽活動を行うのであれば。
ファンとともに本気で世界中に自分達の音楽を広げようと考えているのであれば。

世界を目指す日本のアーティストや事務所にとって、XGが示してくれている答えはシンプルなのではないかと思います。

この記事は2024年5月20日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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