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BE:FIRSTがコンセプトシングル「Masterplan」で総合1位獲得。小さな一石の波紋は業界に広がるか。
BE:FIRSTが4月24日にリリースしたシングル「Masterplan」が、ビルボードジャパンで総合首位を獲得して注目されています。
もちろん、BE:FIRSTがこれまでも前作の「Mainstream」も含めて5回総合首位を獲得していることを踏まえれば、今回も順当な6曲目の総合首位ということも言えるかもしれません。
ただ、今回の「Masterplan」は、「コンセプトシングル」と銘打たれた特別な挑戦を含んだ一曲だった、というのが最大の注目点です。
「CDビジネスに小さな一石を投じる」
今回の「Masterplan」リリースに先駆けた2月13日、BE:FIRSTが所属するBMSGを率いるSKY-HIさんが「BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言」として声明を発表したことが業界を中心に大きく注目されました。
BE:FIRSTの次のシングルは、コンセプトシングルです。
— SKY-HI (@SkyHidaka) February 13, 2024
関係各社、ファンの皆様、アーティスト本人、そして社会全体!全てにとって、少しでも良い未来を模索して行けたら…と思います。
よろしくお願いします! https://t.co/6JSxGdxdDl
この声明は「4期目に入ったBMSGは、BE:FIRSTのコンセプトシングルにおいて、かねてから課題を感じていた現代のCDビジネスに小さな一石を投じることを決意しました。」という書き出しから始まります。
そして、SKY-HIさんの現在の日本のCDビジネスに対する問題意識や、BE:FIRSTのシングルでCDの製造段階からプラスチックの使用を減らすことなどが詳細に明記されている文字通りの提言書でした。
さらに、4月15日にはBMSGの発表会を開催。
SKY-HIさんが、自ら新レーベルの設立などの説明とともに、あらためて「日本の音楽市場はファンの純粋な応援する気持ちを搾取している」と強い言葉で、現状の日本のCDビジネスに対する問題意識を表明されたのです。
このプレゼンテーションの中で、SKY-HIさんは、実はプラスチック問題だけがCDビジネスの問題では無く、ビジネス構造にも「日本の音楽業界には重大な欠陥がある」と明言されています。
そうした日本の音楽業界に一石を投じる役割を背負ったBE:FIRSTの「Masterplan」が、今回ビルボードジャパンの総合首位を獲得したことには、大きな意義があると言えるでしょう。
「Masterplan」でやらなかったこと
具体的に今回のBE:FIRSTの「Masterplan」が挑戦した試験的な取り組みは大きく2つあります。
まずは、CDのケースをプラスチックから紙ジャケットに変えたこと。
もう一つは、ランダムトレカと呼ばれるような、ファンに複数のCDを買ってもらうための特典の仕組みを選択せず、メンバー全員のトレカを同梱し、グッズを別途販売する形に変えたことです。
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前者は製造コストの増加を促すことで利益率の低下を招きますし、既存のプラスチックケースに慣れたファンの離反のリスクもあります。後者はファンによるCDの複数購入が減ることによってCDのセールスが減るリスクがあることになります。
特にCDセールスは、音楽のリリース初週のランキングに大きく影響すると言われており、BE:FIRSTやBMSGにとっても、リスクのある選択だったはずです。
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SKY-HIさんも、自信のInstagramに「これで結果を出して未来に繋げるのだ」と書かれていましたが、今回そのリスクを取っても総合首位を取れたことは、非常に重要だったと言えます。
ビルボードジャパンの総合チャートの意味
もちろん、細かくCDセールス単体で見ると話は少し変わってきます。
BE:FIRSTの「Masterplan」のCDセールスは115,963枚で2位。
1位はWEST.の「ハート」で26万枚以上を売り上げているのです。
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またBE:FIRSTの前作である「Mainstream」の初週のCDセールスは169,197枚だったようですので、今回は5万枚以上減少したことになります。
それでも、「Masterplan」が総合チャートの首位を獲得することができたのは、ダウンロード、ラジオ、動画再生という3つの指標で1位を取り、前述のCDセールスが2位でストリーミングも7位と、ビルボードの総合チャートの複数の指標で高ポイントをマークしたことが効いています。
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実は、ビルボードジャパンの総合チャートは、前週までCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」が13週連続で1位を取るという圧倒的な強さを見せていました。
その「Bling-Bang-Bang-Born」を動画再生数でも上回って、14連覇を阻止する形での総合1位獲得というのも、非常に意味のある1位だったと言えるでしょう。
特に今回の「Masterplan」のミュージックビデオは、映画のような非常にクオリティの高い動画になっており、BE:FIRSTの過去の動画の中でも最速で1000万回を突破したことも大きく貢献したようです。
音楽チャートに詳しいブログ「イマオト」によると、「BE:FIRST側はビルボードジャパンソングチャートをより重視し、同チャートでのいわば必勝パターンを身に着けた」面もあるようです。
ある意味、SKY-HIさんもBE:FIRSTも、その必勝の自信があるからこそ、CDセールスが下がるリスクを負ってでも、業界に一石を投じるコンセプトシングルという選択に踏み切ったと言えるのかもしれません。
投じられた一石の波紋は広がるか
ここで、今後注目されるのは、日本の音楽業界のBMSG以外のプレイヤーに、今回のBMSGやBE:FIRSTの挑戦に追随する流れが生まれるかどうかです。
先ず注目されるのは、世界のストリーミングシフトに対して背を向ける形でCDビジネス依存を継続してきた旧ジャニーズ事務所所属タレントが、新会社STARTO ENTERTAINMENTのもとで、ストリーミングシフトをするかどうかでしょう。
既に、新会社は昨年の立ち上げ時に音楽配信のDX化を掲げていますし、5月4日にはKing & Princeがサブスク解禁を宣言しており、こうした流れは他のグループにも波及する可能性は高いと言えます。
実際に、今週のWEST.の新曲も、CDセールスではBE:FIRSTに大差をつけての1位だったにもかかわらず、ビルボードジャパンの総合チャートでは6位に留まっていますが、ストリーミング解禁をしていればもっと上位に入る可能性があるわけです。
また、もう一方でランダムトレカに関しては、主にK-POP系のアーティストにおいて展開されている販促手法になります。
K-POPは、ランダムトレカなどのCDと特典を抱き合わせて販売する手法を確立した結果、この数年世界に逆行してCDセールスを伸ばしている面があります。
ただ、ランダムトレカに関しては、現在HYBEと論争状態にあるNewJeansのプロデューサーのミンヒジン氏が会見で苦言を呈するなど、韓国においても問題視され始めているようです。
いずれにしても、BE:FIRSTが「Masterplan」の歌詞で「最高傑作が最低条件だった」と歌っているように、今回の「Masterplan」は音楽業界に一石を投じるという難しい問題提起の最低条件を楽々とクリアしたように見えます。
他のアーティストや音楽レーベルが、彼らの問題提起をどう受け止め、彼らの投じた一石の波紋が日本の音楽業界にどう広がっていくのか、注目したいと思います。
この記事は2024年5月5日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。
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— 徳力 基彦(tokuriki) (@tokuriki) May 2, 2024
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