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とにかく明るい安村、英国で大爆笑に学ぶ、日本の「お笑い」海外進出の可能性
この記事は2023年4月24日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。
お笑い芸人の「とにかく明るい安村」さんが、世界的にも有名な英国のオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出演し、大反響だったようです。
オーディションの様子の一部はツイッターにも多数動画でアップされていますので、ご覧になった方も多いと思いますが、ぜひフルの動画でご覧になってください。
安村さん本人も、「人生で一番うけたよ!」とツイートされていたように、日本でもお馴染みの「安心してください、はいてますよ。」の英語版の演技に対する会場の盛り上がりは凄まじく、最後に観客がスタンディングオベーションするくだりは感動的なほど。
冒頭の挨拶でドン引きしていた女性審査員が、最初の演技の後からは、まるで安村さんの演技を昔から知っていたかのように、「パーンツ!」と叫ぶ姿には、安村さんのネタの力を強く感じさせられます。
英国では「Tonikaku」というニックネームで出場したようで、海外では冒頭の「Toni」が愛称として定着しそうです。
今回の安村さんの大成功で改めて感じるのが、日本の「お笑い」の海外における可能性です。
「ゴット・タレント」に評価されはじめる日本の才能
オーディション番組「ゴット・タレント」は、海外では非常に人気のある番組で、さまざまな国で同じフォーマットで番組が展開されています。
今年から、日本版である「ジャパンズ・ゴット・タレント」が開始されたことをご存知の方も多いでしょう。
昨年はTravis Japanを初め、多くの日本のグループが米国版の「アメリカズ・ゴット・タレント」に多数出演し話題になっていましたし、英国の「ブリテンズ・ゴット・タレント」でも、昨年日本人マジシャンの岩崎圭一さんがゴールデンブザーを獲得したことも話題になりました。
そういう意味では、「ゴット・タレント」において日本人が評価されるケースが増えているのは当然の流れと見ることもできるかもしれません。
ただ、やはり今回の安村さんの成功で注目したいのは、日本の「お笑い」であるという点です。
裸芸には厳しいゴット・タレント
動画を見ていただければ分かると思いますが、今回の安村さんの大反響は、単純に裸芸だったから受けたという話ではありません。
メディアの記事だけ見ると、海外で珍しい裸芸だからウケた、と誤解される方がいるかもしれませんが、当然ながら「ゴット・タレント」は単純に脱ぐことで笑いを取れば通過できるような簡単なオーディション番組ではありません。
芸人の出演事例で言うと、2019年にゆりやんレトリィバァさんが米国のオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に出演して大きな反響を得たことがありましたが、実はゆりやんさんは予選を通過することはできませんでした。
また、芸人のウエスPさんは、10カ国以上のゴット・タレント出場経験を持ち、フランス版でゴールデンブザーを獲得し、決勝進出を果たしたことで有名です。
ただ、そんなウエスPさんも、「ブリテンズ・ゴット・タレント」では、審査は通過したものの、演技途中に審査員のサイモン氏にNGを示すブザーを鳴らされてしまいましたし、「アメリカズ・ゴット・タレント」では、三人の審査員にブザーを鳴らされ、演技途中で終了する羽目になってしまった経験があります。
当然、お笑いの文化は国によって違うわけです。
英国を研究し尽くした「安心してください、はいてますよ」
今回の安村さんの演技で注目していただきたいのは、安村さんが自らの英語で堂々と説明をし、観客を味方につけていくプロセスです。
演技の冒頭で行われる自己紹介で、英語で「私はパンツを履いていますが、全裸のポーズを取ることができます」と挨拶した瞬間、審査員の多くがドン引きしています。
しかし、安村さんが「全裸のサッカー選手」のポーズを披露した途端に、会場の雰囲気は一気に味方に。
そして「騎手」「ジェームズボンド」とイギリスに馴染みのある演目を次々に披露。
UNBELIEVABLE!
— BGT (@BGT) April 22, 2023
Tonikaku had us laughing from start to finish with his HILARIOUS naked poses! But don't worry, he's wearing 🩲: https://t.co/jdRwgZoUmw#BGT #BritainsGotTalent @yasudebu pic.twitter.com/7hNe5uSfkv
そして最後に世界的に有名なイギリスの女性アイドルグループである「スパイスガールズ」の「ワナビー」の歌と共に次々に全裸のポーズを決めると、会場のボルテージが最高潮に達します。
イギリスでの番組だからこそ、イギリス人に馴染みのあるキャラクターや歌を使い、会場全体を味方にすることに成功した、安村さんの見事な戦略だったと言えるでしょう。
日本の「お笑い」は、まだ世界で知られていない
ここで、皆さんにぜひ思い出していただきたいのは、この安村さんの「安心してください、はいてますよ」は、日本では「古い」ネタだということです。
なにしろ、「安心してください、はいてますよ」が日本で大ブレイクしたのは、安村さんが「R-1ぐらんぷり」で決勝戦に進出した2015年の出来事。
その年の盛り上がりは凄まじく、「安心してください、はいてますよ」は2015年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれています。
ただ、流行語の多くがそうであるように、年が変わると注目度は低下。
「古い」ネタになってしまうわけです。
Googleトレンドで「安心してください」の検索数推移を見ると、その凄さがよくわかります。
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ただ、今回の動画を見れば分かるように、海外の人たちはそんなことは1ミリも知りません。「安心してください、はいてますよ」の面白さは万国共通でした。
今回、海外の審査員が全員声を揃えて、日本で8年前に大流行した芸を「こんな面白いもの初めて見た」と絶賛しているわけです。
日本では「古い」と一発屋扱いされてしまうネタが、実は海外で再評価される可能性があると言えるでしょう。
挑戦し続けているからこその成功
当然、「お笑い」において最大の課題は言語の壁です。
安村さんの今回の芸は、言葉があまりなくても分かりやすいネタであったことが、成功の一要因なのは間違いありません。
ただ、実は、安村さんは2015年の段階で、すでに四カ国語全裸というYouTube動画に挑戦されています。
この動画を見ると、今回の「ブリテンズ・ゴット・タレント」での演目のベースが、実は8年前にほぼ完成していたことが分かります。
この動画自体は100万再生は超えていますが、当時海外で安村さんのネタが話題になったという話は聞かないので、おそらくは日本での再生が中心だったということでしょう。
安村さんの長年のこういう海外挑戦への試行錯誤があるからこそ、今回の成功につながっているとも考えられるわけです。
日本のバラエティ番組も世界から注目
最近では、Netflixが「トークサバイバー」や「名アシスト有吉」などの日本のお笑い番組制作をサポートしていますし、Amazonプライムで配信されている「ドキュメンタル」はそのフォーマットが受けて海外にも展開。
さらには、海外でもファンが多いと言われている「風雲!たけし城」がAmazonプライムで配信開始されるなど、日本のバラエティ番組にも世界からの注目が集まっているように感じています。
安村さんのように、個人でも海外への挑戦を行う芸人の方が増えてくれば、日本の「お笑い」も、アニメや漫画のように言語の壁を超えて、注目される未来が来るというのはあり得ない話ではない気がします。
この記事は2023年4月24日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。
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