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なぜ「NewJeans」は「NJZ」に?注目のグローバルブランドとの契約の行方
この記事は2025年2月11日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。
韓国のガールズグループである「NewJeans」が、グループ名を「NJZ」にすると発表し、世界中から注目されています。
「NewJeans」と所属事務所「ADOR」との間で、昨年から契約を巡る法的紛争がおこっていることは日本でも報じられてきましたが、ここに来てメンバーは「NewJeans」として活動することを一旦断念し、新グループ「NJZ」としての活動を優先する方向に明確に舵を切ったようです。
ただ、一方で「ADOR」側はこの発表を受け、メディアに対して「NewJeansメンバーたちとADORとの専属契約は法的に有効であり、解除されたという主張は一方的なものです」と、引き続き「NJZ」ではなく「NewJeans」として報道するように呼びかけるなど、両者の間の主張は平行線を辿っているようです。
象徴的なのは、「NewJeans」の公式YouTubeや公式Instagramは、まるで両者の騒動がないかのように、「NewJeans」のメンバーの笑顔の動画や写真の投稿が、直近の2月6日まで続いている点でしょう。
これらは恐らくは過去に撮りためた動画や写真を「ADOR」側がアップしているものと想像されますが、ファンからすると非常に分かりにくい状況なのは間違いありません。
こうした状況をみて、日本の中では、なぜメンバーが「ADOR」との契約解除交渉をきちんと終わらせてから活動を再開するという選択をしないのか、疑問に思う方も少なくないようです。
ここに、今回の問題のポイントがありますので、ご紹介したいと思います。
韓国では通常最大7年の「標準専属契約書」を交わす
アイドルやアーティストが所属事務所を退所して、新しいグループとして活動するということは、最近日本でも普通になってきたように、本来どんな世界でも普通に選択できる行為のはずです。
普通の日本人の感覚からすれば、「NewJeans」のメンバーが「ADOR」との関係を終わらせて、新しいグループ名で再スタートを切るのであれば、それはメンバーの自由だと感じる方も少なくないと思います。
ただ、ここでポイントになるのが「NewJeans」と「ADOR」の関係に関しては、「退所」という言葉ではなく「契約解除」という言葉が使われている点です。
実は韓国では、通常芸能人は、芸能事務所と最大7年にわたる「標準専属契約書」を交わすことが一般的になっています。
これは過去の韓国の芸能界において、芸能事務所が、所属する芸能人に奴隷契約のような条件の悪い長期専属契約を交わしたり、不公正な収益配分で過密スケジュールを強要する事例が多発したため、2009年に韓国の公正取引委員会が指導をはじめたことが背景にあるそうです。
元々は芸能事務所に対して力の弱い立場にある、芸能人側を守る為に生まれた仕組みですが、そのため韓国の芸能人は、日本の芸能人のように好きなタイミングで事務所を退所することが難しい構造にあるとも言えます。
具体的にポイントになるのが契約に違反した際の違約金です。
この契約が有効な状態で「NewJeans」のメンバーが勝手に契約を解除すると、多額の違約金が発生し、その金額は最低でも300億円、高ければ700億円を超えるとも言われています。
今回「NewJeans」のメンバー側は、「ADOR」の自分達への対応が契約解除をするに相当する不誠実なものだと訴え、この違約金が発生する事態にならないと主張しているようですが、当然「ADOR」側はそれを否定しており、この問題は法廷闘争に持ち込まれているわけです。
韓国で声を載せてくれるメディアが少ない
今回の新グループ名「NJZ」の発表にあたって、メンバーが報道ステーションに出演したときに、「韓国で私たちの声を載せてくれるメディアが本当に少ない」と言及している点が、非常に重要です。
そもそも、韓国の芸能界においては、今回「NewJeans」が簡単に違約金無しの契約解除を手にしてしまうと、現在確立している「標準専属契約書」を前提にした契約関係の根本が揺らいでしまうことになります。
もしそうなってしまったら、同様の契約解除事案が多発する可能性は否定できません。
事務所側が多額の投資をして成功させたグループが、成功した後に簡単に契約解除して独立するようになってしまったら、芸能事務所の根本が崩れてしまうことになります。
また、日本においても、過去に元「SMAP」のメンバーが、旧ジャニーズ事務所を退所し、「新しい地図」として再スタートを切った際にも、ほとんどの日本の大手メディアは公正取引委員会が問題にするまで彼らを起用しようとしませんでしたが、韓国の芸能界においても、同様の忖度や様子見が発生しても不思議ではないわけです。
さらに、今回の「NewJeans」の問題では、メンバーの契約解除などの行動が、すでに「ADOR」を退任したミン・ヒジン氏の筋書き通りになっていて、タンパリングと呼ばれる不正行為ではないかという疑惑報道もあり、韓国のファンの間でも議論が分かれているようです。
特に最近ではこうした報道から、ミン・ヒジン氏に批判的な意見が増えつつあり、現在のメンバーの行動もミン・ヒジン氏が裏にいて指示しているという文脈で批判的な意見が増えている面もあるようです。
いずれにしても、韓国における「NewJeans」のメンバーの状況は、日本から見えるよりも、厳しい状態になっているというのは正直なところのようです。
裁判の結果にかかわらず、活動の継続は必須
そうなってくると「NewJeans」のメンバーには、選択肢はあまり残されていません。
今後のシナリオは、大きく分けて3つあります。
■1:「ADOR」との訴訟に勝訴して、違約金を支払わずに契約解除する
これが「NewJeans」のメンバーにとっては現時点でのベストシナリオですが、法的闘争の開始は3月ですし、1年近く長期化することが容易に想像されます。
その間、完全に活動を停止してしまうと、自分達の大事な時間が失われることになりますし、何といってもファンに忘れられてしまうリスクもあります。
■2:「ADOR」と何らかの合意に至り、「NewJeans」として活動を継続するか、契約解除して独立する。
本来はファンからすると、このシナリオが一番望ましいものだったと思いますが、現時点での両者の信頼関係や世論の空気感を見る限り、両者が法的介入無しに何らかの合意に至ることは難しいのが現状と言えるでしょう。
■3:「ADOR」との訴訟に敗訴する
これは当然、メンバーにとっては最悪のシナリオになります。
このシナリオになった場合、「NewJeans」のメンバーとしては、「ADOR」との契約に戻って活動を続けるか、違約金を支払うかという選択を迫られることになりますが、当然戻る選択肢はないはずです。
そう考えると、実はメンバーが「NJZ」として活動を開始することを急いだ背景には、訴訟に敗訴して違約金を支払う状況になった際に、可能な限り資金を確保しておくという判断があった可能性も十分考えられるわけです。
いずれにしても、メンバーからすると、訴訟の結果が出るまで芸能活動を全て停止するというのは、非常にリスクが高い選択ということが分かると思います。
ある意味では、メンバーからすると活動を継続しなければいけない状況に追い込まれているわけです。
ファンやメディアはメンバーの決断をどう評価するか
今後注目されるのは、今回の「NewJeans」のメンバーの「NJZ」としての活動開始という判断を、関係者がどう評価するかという点です。
「NJZ」の発表後、メンバーは日本の報道ステーションや、アメリカのCNNやCNBCなど海外メディアへの露出を強化しているようです。
おそらくは、海外のメディアやファンを早期に味方につけることで、現在の韓国における状況の打開策にしようとしていると考えられます。
韓国のメディアが取り上げてくれなくても、海外のメディアが好意的に大きく報道してくれれば、韓国内の世論が変わる可能性もあるわけです。
実際、Instagramのアカウントのフォロワー数をみると、元々の「NewJeans」公式アカウントのフォロワー数が1267万人であるのに対して、「NJZ」公式アカウントも既に495万人と4割近いファンが既についてきているように見えます。
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また、今回の新グループ名の発表も、アメリカで非常に人気のある「COMPLEX」というメディアと共同で、香港での「COMPLEXCON」への「NJZ」のイベント出演を発表する形で実施されています。
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「COMPLEX」はYouTubeのチャンネル登録者数が664万人、Instagramのフォロワー数が1107万人という人気メディアですから、少なくとも「NJZ」は、強力な米国のメディアを1社は明確に味方につけることができていると言えるのかもしれません。
グローバルブランドはどの立場を取るのか
さらに、今後最も注目されるのは、メンバーが契約している様々なグローバルブランドが、今回の発表に対してどういう行動に出るかという点です。
特に「NewJeans」のメンバーは、GUCCIやDIOR、CHANELなど、様々なグローバルファッションブランドのブランドアンバサダーに就任しています。
現在のところ、そうしたブランドはおそらく「NewJeans」のメンバーと契約した際に、「ADOR」経由での契約をしていると想像されます。
今回の「NJZ」としての活動宣言を受けて、はたしてブランドがこのまま「NewJeans」のメンバーとの契約を継続するという形を取るのか、「NJZ」のメンバーと新たに契約を結ぶのか、それとも契約を解除するのかは大きな分岐点になる可能性があります。
日本でも、旧ジャニーズ事務所の性加害問題や、最近のフジテレビの騒動において、広告主は世論の映し鏡として、騒動の関係者に大きなインパクトをもたらしました。
「NewJeans」を巡る騒動においても、グローバルブランドの決断が流れを変える可能性があるわけです。
現在のところは、どのブランドも今回の騒動に対しては声明を出しておらず、息を潜めて成り行きを見守っているように見えますが、フジテレビ騒動の際のトヨタ自動車のように、どこか1社が今回の騒動に対して姿勢を明確にすると、それが他のブランドにも影響する可能性は高いと言えるでしょう。
一方で、各ブランドは、「NewJeans」のメンバーだけでなく、「ADOR」の親会社である「HYBE」の他のグループの所属メンバーともアンバサダー契約をしているケースが多いこともあり、非常に難しい判断を迫られているはずです。
いずれにしても、今回の「NewJeans」を巡る騒動の行く末が、今後の韓国の芸能界に非常に大きな影響を与えることは間違いありません。
まずは、3月に発表されるとみられる「NJZ」としての新曲へのファンの反応に注目したいと思います。
この記事は2025年2月11日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。
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