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アニメ映画の過去最高記録を更新中「インサイド・ヘッド2」の大ヒットの秘訣

ピクサーの最新映画「インサイド・ヘッド2」が世界中で大ヒットとなっており、次々に新しい記録を打ち立てています。

日本では8月公開でしたので最近の映画という印象が強いと思いますが、実は海外では6月に公開され、7月の時点で「アナと雪の女王2」の興行収入を抜いて、世界でのアニメ映画の過去最高の興行収入を叩き出していました。

その勢いは9月に入っても衰えず、なんと9月8日の時点で世界興行収入は16億7513万ドル(約2393億円)を突破。
実写版「ライオン・キング」や「ジュラシック・ワールド」の興行収入記録を超えて、世界の映画の歴代興行収入ランキングで8位まで到達してしまったのです。
参考:『インサイド・ヘッド2』2024年洋画作品初の興行収入46億円を突破!世界興収2393億円で歴代8位に!!

日本での興行収入も46億円を記録して、2024年の洋画作品の最高記録を達成していますので、文字通り世界中で大ヒットしている作品になったと言えると思います。
この大ヒットの誕生には、どういう秘訣があるのでしょうか。

2015年に誕生したシリーズ

現時点での世界歴代映画興行収入において、「インサイド・ヘッド2」の上位にいるのは、「アバター」とその続編、「アベンジャーズ エンドゲーム」とその前編、そして「タイタニック」と「スターウォーズ フォースの覚醒」に「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」と、誰もが知っている大作映画ばかりです。

「インサイド・ヘッド」もシリーズものではありますが、今回の大ヒットで最も興味深いのは、このシリーズの誕生が2015年と比較的最近である点です。

昨今のハリウッドにおいては「トップガン マーヴェリック」や「ビートルジュース ビートルジュース」など、1980年代に製作された作品のリブート作品が注目されることが多いことを踏まえると、「インサイド・ヘッド2」の大ヒットは珍しい現象と言えるでしょう。
 

「シンパイ」の存在が重要だった

筆者は、8月にアメリカで開催されたディズニーグループのファンイベントD23に招待いただき、ディズニーグループの傘下にある7つのスタジオのうちの4人のトップが登壇したメディア向け説明会に参加させていただきました。
そこでも、今回の「インサイド・ヘッド2」のヒットの秘訣を聞く質問が出ており、その回答が印象的だったのでご紹介したいと思います。

(出典:ウォルト・ディズニー・カンパニー)

ピクサー・アニメーション・スタジオのピート・ドクター氏は「インサイド・ヘッド2」の大ヒットのポイントとして、未知数に感じている部分があるとしながらも、まず1作目の「インサイド・ヘッド」が8億ドルを超えるヒットになり多くのファンがいたことがベースにあったことをあげます。

また、もう一つの要素として大きかったのは、今回の2で初めて登場した「シンパイ(Anxiety)」というキャラクターが観客一人ひとりに訴えるものの新鮮さがあったと振り返っています。

「残念なことですが、世界には間違いなく心配ごとにあふれ、それにうまく向き合えたのではないでしょうか」と笑いながら話される一方で、「映画のなかで目指したのは、見えない感情を説明して理解すること、そしてエンターテイメントとして笑いながら楽しく話しあえるきっかけを提供すること」と強調されているのが印象的でした。

実際に、日本で実施された舞台あいさつでも、実際に映画を観た人の多くが、これは自分の物語だと思ったということが話題になっていました。

日本では「シンパイ」役の吹き替えを多部未華子さんが担当したことが話題の中心になっていましたが、「心配」という感情は間違いなく多くの世代において、共感されるものであり、その共通のテーマを観客同士が世代を超えて話し合うきっかけとなったからこその「インサイド・ヘッド2」の大ヒットということが言えそうです。
 

スタジオのトップが毎週のように意見交換

さらにメディア向け説明会で非常に印象的だったのは、ディズニーグループ傘下のスタジオのトップが毎週のように月曜の朝10時に集まって、興行収入の成績や各作品の状況や課題について、気軽に話し合っているという言及があった点です。

ディズニーグループにはピクサーだけでなく、マーベルやルーカスフィルムに20世紀スタジオなど、巨大なスタジオが7つもあります。

(出典:筆者撮影)

例えばマーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ氏は、ディズニーグループ入りする前は、自分達だけが映画の失敗を繰り返していて、ピクサーは金の卵が頭から次々に飛び出すパーフェクトな場だと思っていたが、ディズニーグループ入りした後、実はピクサーも同じ悩みを抱えていること知って、自分達だけじゃないのだと安心したといいます。

またルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディ氏やディズニー・アニメーションのジェニファー・リー氏は、ピクサーで実施されている「ブレイントラスト」という率直な意見交換をする会議メソッドが、自分達にとっても非常に重要だったことを明言していました。

一方、ピクサーのピート・ドクター氏も、別のセッションで、ピクサーはCGアニメというテクノロジーが注目されがちだったが、ディズニーと一緒に仕事をする上で、人々に共感され心を動かすストーリーこそが最も重要だと学んだと、ディズニーグループ入りのメリットを言及しているのも印象的でした。
 

夏映画ではディズニーグループが完全勝利?

今年の夏の北米映画市場は、「インサイド・ヘッド2」だけでなく「デッドプール&ウルヴァリン」や「エイリアン:ロムルス」などのヒットもあり、ディズニーグループ全体での5月3日から9月2日の夏の興行収入が、昨年に比べて2倍以上となる15億3000万ドルを叩き出すなど、一人勝ちの結果になっています。

マーベルによる「デッドプール&ウルヴァリン」はR指定映画の興行収入歴代1位を更新していますし、20世紀FOXによる「エイリアン:ロムルス」もシリーズ2位の興行収入を叩き出している模様。
こうしたグループ全体での成功は、ディズニーグループの7つのスタジオのトップが情報を共有しながら作品に向き合っている成果と言えるのかもしれません。

ディズニーのような巨大なグループのトップ同士が、これだけ頻繁に柔軟な情報交換をしてお互いのノウハウを共有しているという状況を考えると、日本の映画会社やテレビ局も、少なくとも海外展開に関しては、もっと積極的にノウハウを共有していくべきなのかもしれないと感じる一幕でした。

今年は年末に「モアナと伝説の海2」の公開も控えていますが、こちらも予告編の再生回数が、公開後24時間で1億7800万を超え、「アナと雪の女王2」や「インサイド・ヘッド2」の記録も塗りかえる、ディズニー・アニメーション史上最多記録を樹立して話題となっています。

この反響だけ踏まえると、「モアナと伝説の海2」も前作を超えたヒットになる可能性が高いと言えますし、ディズニーグループの中で映画のシリーズをヒットさせるノウハウがある程度確立し、共有されていると見るべきなのかもしれません。

いずれにしても、今年は引き続きディズニーグループの映画から目を離せない年になりそうです。

この記事は2024年9月12日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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徳力基彦(tokuriki)
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