異次元ヒットで世界14位。YOASOBIの「アイドル」は、日本の音楽業界の新しい扉を開くか
YOASOBIの新曲「アイドル」が、文字通り異次元のスタートダッシュに成功しているようです。
この「アイドル」は、テレビアニメ「推しの子」の主題歌としてアニメ放映日の4月12日に公開されたもので、ビルボードジャパンの総合ソングチャートでも初登場で総合首位を獲得。
その後2週目もビルボードジャパンによると「異次元の加点」で、2位に2倍以上の大差をつけて2週連続の総合首位となりました。
さらに、今週のストリーミング再生数でも、週前半3日間で1000万再生超えを達成し、ダントツの首位を走り続けている模様。
週前半3日間の集計で再生数が1000万回を超えるのは、BTSの「Butter」以来、史上2曲目となる快挙だそうで、公開後の勢いが衰えるどころか加速していることを伺わせます。
グローバルチャートで14位
さらに、今回のYOASOBIの「アイドル」の凄さは、ビルボードのジャパンチャートだけでなく、海外のチャートにも既に多数ランクインしている点です。
例えばSpotifyでは台湾で2位、韓国で9位、シンガポールで11位など、各国のチャートにランクインしています。
Netflixのランキングでも、「推しの子」が台湾やマレーシアなどでトップ10に入っていたようですから、アニメとの相乗効果もあったようです。
その結果、ビルボードのグローバルチャート「Global200」では14位を獲得。
米国を除いたGlobal Excl.U.S.のチャートでは、なんと5位にランクインする快挙を成し遂げているようです。
世界のチャートでの上位ランクインと言えば、昨年藤井風さんの「死ぬのがいいわ」が、グローバル・バイラル・チャートで最高4位になったことが記憶に新しい方も少なくないと思います。
ただ、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」は、2020年5月に発表された楽曲が、TikTokなどでのブレイクを通じて2年後の2022年に大ヒットするという、ある意味特殊な出来事でした。
それに対し、今回の「アイドル」は、明らかに最初から世界を見据えて展開して成功している点が、日本の音楽業界にとって大きな一歩になる可能性を秘めているのです。
アニメと連動した緻密なプロモーション展開
今回のテレビアニメ「推しの子」と、主題歌である「アイドル」は、公開前から公開後までの展開が、実に綿密に組み立てられています。
ザッと主な日程を並べると下記の通りです。
■2月19日 YOASOBIが「推しの子」の楽曲を担当することが発表
■3月17日 「推しの子」の第1話が映画館で先行上映開始
■4月5日 「アイドル」4月12日配信リリースの予告CMがYouTubeに公開
■4月12日0時 YOASOBIの「アイドル」配信開始
■4月12日23時 「推しの子」第1話放映
■4月24日 YOASOBIがTikTok LIVEを実施
特に今回の「アイドル」ならではの活動として取り上げたいのが、3月17日からの先行上映と、4月24日のTikTok Liveです。
第1話を映画として先行上映
元々、テレビアニメ「推しの子」は、週刊ヤングジャンプで連載されている原作マンガが「次にくるマンガ大賞 2021」で1位を獲得するなど、さまざまなマンガ大賞で受賞をしている人気作品。
ある意味、テレビアニメとしての成功も保証されている作品だったと言えるでしょう。
ただ、テレビアニメ放映に際し、KADOKAWAと集英社を中心とする製作委員会は、単純にテレビアニメ枠で放映を開始するのではなく、第1話を90分の拡大スペシャルとして制作。
なんとテレビ放映に先駆けて、3月17日から映画館にて先行上映すると発表したのです。
そのため、実はテレビアニメ放映日の4月12日より前に、映画館で先行上映を視聴したファンはYOASOBIの「アイドル」をフルで耳にすることになります。
その結果、YOASOBIの「アイドル」の楽曲についての評判が、楽曲配信前からツイッターなどに多数投稿される結果となっているのです。
音楽のチャート事情に詳しいブログ「イマオト」によると、「アイドル」は4月12日配信開始にもかかわらずSpotifyの4月11日のチャートの80位にランクインするという珍しい現象が発生したそうです。
これは、Spotifyの日付の区切りが午前0時ではなく、午前2時前後になっているとみられる関係だそうで、「アイドル」公開直後の1〜2時間の視聴数が非常に多かったために前日の80位にランクインするという結果になったようです。
おそらくは、映画館での先行上映で「アイドル」を聞いて、楽曲の本配信を待ち望んでいたファンが多くいたことが影響していると考えられるわけです。
間髪入れずにTikTok Liveを実施
さらに、今後重要になってくると考えられるのは「アイドル」の公開後、YOASOBIが4月24日に実施したTikTok Liveでしょう。
ライブの詳細は、YOASOBIの公式noteにレポートが掲載されていますが、同時視聴12万人超え、累計配信視聴も63万人となり、日本人アーティストによるライブパフォーマンスのTikTok LIVEでの最高記録となったそうです。
その大きく注目されたライブの最後に、YOASOBIは「アイドル」の歌唱を披露し、大きな話題となっているのです。
TikTokで早期に「アイドル」を認知してもらう意義
徒然研究室の分析によると、「アイドル」の演奏時間に大きなツイートのスパイクが起こっていることが良く分かります。
実はYOASOBIは、YouTubeでも過去に音楽配信ライブを行っており、今回も同様にYouTubeで実施するという選択肢もあったはずです。
ただ、いまや音楽の海外展開において、TikTokが重要なプラットフォームであるのは間違いありません。
今回の「アイドル」は、ダンスや切り抜き動画など、明らかにTikTokとの相性が良い楽曲となっていますし、あえて今回はTikTokをパートナーに選択したということでしょう。
その効果は間違いなく出ており、「アイドル」を使ったTikTokの動画投稿数は既に世界で6万本を超えています。
2019年にリリースされたYOASOBIの代表曲「夜に駆ける」を使ったTikTok動画が現時点で14万本、2021年リリースの「怪物」が5万8千本であることと比較すれば、まだ配信開始から1か月経っていない「アイドル」の動画の投稿数の多さが伝わるかと思います。
当然、今後TikTok上の動画の数はますます増えていくはずで、それによって海外でさらに認知があがる可能性があります。
グローバルチャートでの14位は十分に快挙と言えますが、実はYOASOBIの「アイドル」はまだこれからグローバルチャートでさらに上位に入っていく可能性が十分あるわけです。
Ayaseさんが明言していた「勝ちにいく」姿勢
音楽ジャーナリストの柴さんによると、実はYOASOBIのAyaseさんが、年明けに「新年早々New Jeansの新譜にやられたなこれ。良すぎて悔しくなった。今年は明確に明瞭に、勝ちにいく。」とツイートされていたことが、今回の伏線である可能性が高いようです。
「アイドル」の楽曲は、原作の「推しの子」の芸能界における表と裏のある世界感が見事に反映されており、原作ファンを裏切らない完璧な楽曲になっています。
ただ音楽のトーンは、明らかに去年までのYOASOBIの印象を裏切るつくりになっており、その変化に驚く方も少なくないはずです。
ある意味、今回の「アイドル」は、Ayaseさんが現状のYOASOBIの成功に満足せず、世界で「勝ちにいく」という姿勢が明確に表れている作品ということが言えるのかもしれません。
Ayaseさんの頭の中には、日本の音楽業界が海外で成功するための方程式が徐々に形作られているのでしょう。
YOASOBIは日本の音楽の勝ちパターンを見つけたのか
徒然研究室の分析によると、今回の「アイドル」の大ヒット後も、海外の視聴比率は5割近くを維持しており、世界中で「アイドル」が聞かれていることが良く分かります。
もともとYOASOBIは日本でもトップクラスに海外のファンが多いアーティストですが、今回の「アイドル」はそのファンの数をまた一段上のステージに押し上げる可能性が高いように感じます。
なにしろ「推しの子」はシリーズ放映がはじまったばかり、アニメのファンが海外でも口コミで拡がれば、さらに「アイドル」のファンやYOASOBIのファンが増える可能性があります。
今回、YOASOBIが日本の音楽が世界でヒットするための扉の1つを開けてくれたのは間違いないと言えるでしょう。
まずは、「アイドル」がどこまでその記録を伸ばしてくれるのか、楽しみにウォッチしたいと思います。