もうひとつのラブストーリー(24)「父親に会わせる」
「ちえ」を二度、実家に連れて行ったのですが父親には会わせていませんでした。
父親が会いたがらなかったからです。
そこで、今度は無理矢理にでも会わそうと考えました。
「ちえ」に「今日また、実家に行く?今度は無理矢理にでも父親に会わそうと思うから」と言うと。
「うん、お父さんに会いたい。無理矢理って事が少し気になるけど⋯」
「大丈夫だよ。父親が居る部屋に連れてくだけだから」
そして三度目の実家へ。
相変わらず母親とおばあちゃんは大歓迎してくれました。
「Mには、もったいないほど可愛い子だね」と母親とおばあちゃんが口をそろえて言ってくれました。
さて、問題は、ここからです。
今までのように、私の部屋で、おでんとお菓子を食べて様子を見ました。
「本当に、お父さんに会えるの?私、なんだか緊張してきちゃった⋯」
「お父さん、私の事気に入ってくれるかなあ⋯」
「気に入るも気に入らないもないよ。とにかく会わす」
「前みたいに、会うか会わないか聞くと、きっと会わないって言うだろうから、今日は、なんにも言わずに父親の部屋に行く」
「えっ、それで大丈夫なの?お父さんの機嫌悪くなったらどうしょう⋯」
「大丈夫もなにもないよ。俺が将来結婚する相手だって紹介するから」
そして、いよいよ父親の部屋へ。
いきなり父親の部屋の扉を開けると、父親は、ぽっんと座っていました。
「俺が、今付き合ってる彼女、近い将来に結婚するつもりだから」と言うと。
「ちえ」が「〇〇と申します。T君とは高校の同級生です。よろしくお願いします」と挨拶をしてくれました。
ド緊張してるのが、こちらまで伝わってきました。
父親は、なにも言いませんでしたが、微かに笑ったような感じがしました。
父親は、ポリオの後遺症で四肢マヒで顔面にもマヒがあるため、表情が上手く読み取れません。
言語障害もあります。
特に緊張している時は、そうです。
父親の様子から、緊張しているのが見て取れました。
なにも言わなかったのですが、紙に「Mをお願いします」と書いて見せてくれました。
本当に久しぶりに父親とコミユニケーションがとれました。
四肢マヒなので、字も上手く書けません。
知らない人が、いきなり見たら、何を書いてあるのか分からないと思います。
「ちえ」も一度見ただけでは分からなかったようです。
私が「「Mのことお願いします」って書いてあるんだよ」と言うと。
ホッとしたのか、目が涙目になっていました。
二階の私の部屋に戻ると「ちえ」が「今日は、来て本当に良かった」
「お父さんが、私のこと認めてくれたんだよね」
「私、もう少しで泣きそうだった⋯」
「うん、プライドが高くて、恥ずかしがり屋だから、ああいう表現が精一杯だったと思うよ」
「俺も、まさか、紙に書いて見せてくれるとは思ってもいなかったからね」
「この紙は大事に取っとくよ」
「ねえ、「トクちゃん」。その紙、私にくれない?」
「だって、お父さんは、私にMのことお願いしますって言ってくれたんだよね?」
「だから、私が大事に持っておきたいんだ」
「うん、分かった。そうして。でも多分、結婚式には出ないと思うよ」
「「ちえ」も見て分かったと思うけど、ああいう体だからコンプレックスがあるんだよね。だから、人前には出たからないんだよね」
「たとえ、息子の結婚式でもね。でも、それで結婚を反対してるとか、そういうワケじゃないからね」
「うん、寂しい気もするけど、仕方ないか⋯」
「もし「ちえ」が泣いていたら、この部屋で泣いた二人目になってたな」
「もう!せっかく人がホッとしてるのに、そんなこと思い出させないでよね」
「アハハハ、ゴメン。じゃあ、アパートに帰ろうか?お土産たくさんもらってね」
「「ちえ」が食べたいものあったら言って。俺がもらってくるから」
「私は、お菓子ならなんでもOKだよ。おせんべいでも好きだしチョコも好きだしね」
「分かった、全部もらってくよ」
「あー。なんだか俺も、少しだけどスッキリしたなぁ」
「私もだよ」
と「ちえ」を父親に会わすこと成功したお話しでした。
つづく