元上司の自殺
私は二人の先輩と一人の元上司を自殺で亡くしています。いずれも首吊りによる自殺でした・・・。
どの方の時もショックでしたが、この元上司(Sさん)の自殺の時には、また違った思いがありました。
それは、Sさんは私が、うつ病を発症した時の上司だったからです。
私が先輩職員からパワハラを受けていたことを相談した時に「分かっている。すべて分かっている。何も言うな。Oのお前に対する態度は、俺も異常だと思っている。だが、今、あいつにへそを曲げられたら俺が困るんだ。すまんが我慢してくれ、頼む。」と言った上司です。
一応断っておきますが私は、Sさんに対してはなんの恨みも持っていません。恨みどころか、迷惑をかけて申し訳なかったとの思いが強くあります。
さて、このSさんが、私が、うつ病で何回目かの入院をしている時に同じ病棟に入院して来ました。
ある日、昼食を取りにロビーに行くとSさんから声をかけられました。「おい!俺だけど誰だか分かるか?」と。多少、やつれてはいましたが直ぐに分かりました。
そこで、少し話しをしました。Sさんは「俺も、うつ病になってみて初めてお前の苦しさが良く分かったよ・・・。悪かったなぁ」と言ってくれました。
何故、うつ病になってしまったのかSさんに尋ねると、やはり仕事が原因でした。その時の市の長年の懸案事項に清掃工場の建設がありました。(私もSさんも市の職員でした)
建設予定地が決まってからも地元の協力が得られず、激しい抵抗運動が続いていました。市の担当者と地元の代表との話し合いはずっと平行線を辿っていました。
地元の言い分としては、清掃工場の建設は絶対反対の立場は崩さず、例えどんな好条件でも、どんなに高く土地を買ってもらっても、この地区に清掃工場の建設は許さない。
といった頑ななものでした。そんな時に、Sさんは、清掃工場建設の担当係長に異動したのです。
Sさんが、この仕事を任されたのには理由がありました。実は、この清掃工場建設反対派の代表者がSさんの高校時代から同じサッカー部で活躍した友人同士だったのです。
なかなか進まない清掃工場建設の業を煮やした人事課が、Sさんと反対派の代表が友人であることに目をつけたのです。Sさんの話なら反対派の代表も聞くのでは。そう思ったようです。
しかし、この目論見は見事に外れてしまいました・・・。Sさんが初めての交渉のため、反対派の代表者に会った際、相手から言われた言葉が「お前とは友人だが、それとこれとは話が違うからな。交渉時にはオレを友人と思うな」です。
考えてみればもっともな話です。お互いに立場というものがあるのです。友人が交渉の担当者になったからといって、それだけで反対派の強硬な態度が変わるわけはないのです。
Sさんは、友人と仕事の間に挟まれて、身動きが出来なくなり心身ともに疲弊して行ったそうです。
そして、とうとう、うつ病を発症して入院してしまったのです。この後、私よりも早く退院して行ったSさんでが、復職後も以前ようには働くことが出来ずに、早期退職をしてしまいました。
まだ、50代前半だったと思います。Sさんは、高校生以来の友人を失い、仕事も出来なくなり絶望をしてしまいました。
そして、とうとう首吊り自殺してしまったのです。
私がSさんの自殺を知ったのは、仕事中のことでした。当時は、うつ病で休職をした後の復職のリハビリ勤務として、市民課のお手伝いをしていました。
そこにSさんの死体検案書が回って来たのです⋯。
ちなみに、「死体検案書」と「死亡診断書」の違いを説明しておきます。
医師が死亡の看取りをした時に書くのが「死亡診断書」で、死亡の瞬間を見れずに、死体になってから見た時に書くのが「死体検案書」です。
Sさんの「死体検案書」によると、Sさんは自宅の裏の車庫で首を吊っているところを発見され救急搬送されましたが、既に亡くなっていたとのことです。
「死体検案書」には、発見時のことが事細かに書かれていました。その内容については、ここでは書くことを控えたいと思います。
Sさんの自殺も他の二人の先輩の自殺も防げた自殺だと思っています。
職場の周囲の人間がもう少し気をつけていてあげたら、あるいは、人事課が短絡的な考えで職場の異動をさせていなかったなら。
組織というものは、個人を護る義務があると思うのです。組織が守ってくれるという安心感があるからこそ私達は働くことが出来ると思うのです。
組織があって人がある。のではなく、人があって組織があるのです。その順番を間違えてしまうと、このような悲劇が起きてしまうと思うのです。
これが、元上司の自殺の顛末です。二度とこんな不幸なことが起きないように、組織の体質改善をして頂きたいと思います。
それでは最後までお読み頂きありがとうございました。
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