肘関節外側部の機能解剖とバイオメカニクス―上腕骨外側上顆炎における前腕伸筋群の機能解剖とバイオメカニクスについて―
今回は肘関節外側部の機能解剖とバイオメカニクス―上腕骨外側上顆炎における前腕伸筋群の機能解剖とバイオメカニクス―について報告を紹介します。
北海道医療大学、リハビリテーション科学部理学療法学科、青木光広先生
整形・災害外科(2020年12月)63:1743-1748
要旨
機能解剖とバイオメカニクスに関する文献的考察より、上腕骨外側上顆炎の機械的発症要因はECRB腱膜に肘関節橈側に位置する手関節・手指伸筋の牽引力が集中して伝達すること、上腕骨小頭と橈骨頭がECRB腱膜を内面より圧迫することが示された。繰り返して行われるスポーツ動作や作業動作による牽引力が、ECRB腱膜の上腕骨外側上顆起始部の断裂を起こし、上腕骨外側上顆炎が発症すると推定される。
Key words:短橈側手根伸筋(ECRB)、総指伸筋(EDC)、バイオメカニクス
はじめに
1979年にNirschlらが上腕骨外側上顆炎の詳細な臨床報告を行って以来、同疾患は肘関節外側部より起始する手関節伸筋が原因部位であり、特に手関節伸筋の反復収縮による機械的刺激がもたらす短橈側手根伸筋起始部の微細断裂が発症の原因となり、同部位の非特異的慢性炎症が疼痛発現の病態であるとされている。
Nirschlらの報告に続いて、上腕骨外側上顆炎の病態に係る肘関節外側部の解剖所見を調査した報告がみられ、詳細な構造が明らかにされた。青木先生が、手関節伸筋の反復収縮による機械刺激が短橈側手根伸筋起始部にもたらす構造変化を機能解剖とバイオメカニクスの観点より以下の報告を紹介されている。
文献レビュー
Briggsらの報告
1985年
上腕骨外側上顆での手関節伸筋群29例の解剖所見より、上腕骨外側上顆での手関節伸筋群はECRBが主成分となり厚く幅のある竜骨状腱膜(keel aponeurosis)として起始すると報告した。これ以降の解剖観察報告では、keel aponeurosisという言葉が継続して用いられているため、ECRB起始部を「ECRB腱膜」と表現する。さらにBriggsらは、ECRB腱膜が前腕回内、手関節屈曲と尺屈で肉眼的に最も緊張する所見を述べ、それは橈骨頭が前腕回内で前方に移動することによると報告し、上腕骨外側上顆炎が機械刺激により発生するという仮説を支持する根拠としている。
Fairbankら、Shiratoらの報告
2002年、2015年
EDCとECRBの解剖所見より、ECRB腱膜とEDC示指成分(2ndーEDC)は外側上顆より6.5~8.1㎝の部位で連結すること、EDC中指成分(3rd-EDC)筋線維はECRB腱膜を後方より覆うように起始していることを報告している。これらはECRB腱膜に同筋がもたらす張力に2nd-EDCと3rdEDCがもたらす張力が加わるとし、ECRB腱膜への集中的なストレスの伝達が上腕骨外側上顆からECRB腱膜が剥離する原因となると推測している。
Takasakiらの報告
2007年
12例の未固定標本をジグに固定して、肘関節と手関節、前腕回内肢位による上腕骨外側上顆炎のストレッチ手技によりECRL・ECRBが伸長する所見を観察した。特に肘関節は屈曲位より伸展位で、前腕は中間位より回内位で、手関節は屈曲より尺屈を加えた肢位で筋線維の伸び率は大きく、ECRLでは最大17%、ECRBでは13%筋が伸長した。また、2008年Takasakiらは、8例の未固定標本をジグに固定して、中等度のECRL・ECRB作動状態でのECRB腱膜の伸び率計測を行い、同部の伸び率が2.4%であり、前腕近位部でのテニスバンドの使用により伸び率が低下することを報告した。
Shiratoらの報告
2017年
8例の未固定標本をジグに固定して、肘関節肢位と手関節肢位を変化させながら手関節・示指・中指MP関節屈曲ストレッチを行い、ECRB腱膜の伸び率を計測した結果、肘関節内反・前腕回内位で肘関節が15°屈曲位でのECRB腱膜の伸び率が最も大きく、最大伸び率は5.3%であった。これは、Briggsらの肘関節が15°屈曲位で手関節を屈曲・尺屈すると前腕回内位で橈骨頭が前外側へ移動して、これがECRB腱膜を押し上げて力学的牽引方向を変化させるという記載と一致している。
Bunataらの報告
2007年
60例の固定肘標本を観察して、ECRB腱膜の下面は上腕骨小頭の突出した外側縁に接触して圧迫され腱が脆弱化して微小断裂を引き起こす可能性を指摘した。特に肘関節が伸展位で前腕を回内すると上腕骨小頭に対するECRB腱膜のwrap-around構造が橈骨頭外側縁でのECRB腱膜の脆弱化をもたらすと推定している。
そこで、
Tanakaraらの報告
2011年
8例の未固定標本を用いて、ECRB腱膜と上腕骨小頭外側部での圧力計測を行った。その結果、肘関節伸展位で前腕が回内した場合にECRB腱膜下面と上腕骨小頭外側縁との圧力が最も大きいことが明らかとなった。さらに、肘関節が30%以上屈曲すると圧力はあまり増加しないことを示した。つまりECRB腱膜は肘関節が伸展位・前腕回内位・手関節屈曲位で緊張することを示しており、BriggsらやBunataらの報告を支持している。
感想
肘関節外側部について1985年から2010年代の文献をまとめた報告である。臨床をしていて、上腕骨外側顆炎の症例はよく遭遇する。上記の筋の筋緊張を落としながら、手指屈伸、前腕回内外、肘jt屈伸をスムーズに行ってもらえるように、解剖学的知識を頭に入れて日々の臨床に向き合っていきたい。
次回は5月8日に『身体機能不全からみた投球フォームと組織損傷との関連性から考える治療-肩関節インピンジメント症候群と肘内側障害へのアプローチ』について報告させていただきます。
次回 4月15日(土) 中井亮佑先生
『Anconeus Epitrochlearis Muscle Associated With Cubital Tunnel Syndrome: A Case Series』
投稿者:小林博樹
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