【なんのはなしですか書籍化ボツ作品】Noir
なぜだ?
一体どういうことだ?
僕は、自分を信じるままに表通りをまっすぐ歩いていただけだ。
そんな僕の目の前に現れた、見えない壁。
おかしいと思ったから反発したんだ。
でも、正論とやらではね返され、取り合ってさえもらえなかった。
次の瞬間、壁から混沌のごとく湧き出した疑問、不信、後悔、挫折、不安たちに襲われた。
それらは僕のこころにおもしとして積み重なっていき、僕から色を奪っていく。
鮮やかな蛍光色から三原色に至るまで
少しずつ、
絞られるように、
こぼれていった。
***
いつしか世界が、白と黒しかなくなった。
少し前まで鮮やかな色をまとっていたはずなのに。
こころ踊る充実した毎日だったはずなのに。
相変わらず見えない壁は、僕が前に進むのを阻む。
なぜだ?
僕は見上げながら頭をかかえた。
そこには白一色の世界が広がる。
ふと時計に視線を落とす。時間がない。
打開策を考えるように目を閉じる。
すると、世界は黒一色となる。
これ以上何ができる?
できない。
無理だ。
どうすればいい?
気持ちだけがあせり、空回りして過ぎていく。
気づけば頭上さえ黒くなった。
ついに白もこぼれ落ち、何もかも黒一色になった。
明日も、今日も、次の瞬間も。
時の感覚さえもなくなった。
身体が思うように動かない。
黒い世界だけに生きる「 」に成り果てた。
表通りから静かに離れ、ほの暗い物かげへ身を寄せるしかなかった。
***
どのくらいの時が経ったのだろう?
静かに過ぎる日々の中でふと気づくと、遠くに光が見えた。
よろけながら足を運び、覗いてみる。
そこには、色彩豊かな世界が広がっていた。
ここは路地裏と呼ばれるようだ。
ここには上下も競争も決まりもない。
ただただ、面白おかしいことば達が飛び交い、意味もなくそれを愉しんでいる住人たち。
ひとりひとり色の違う、妙味のある彩りが路地裏を照らしていた。
気がつけば、「 」も呟いていた。
「なんのはなしですか」
すると、
「回収させていただきます」
と突然現れた未確認飛行物体に白い照射灯を当てられた。そして、照射灯を目がけて住人たちからたくさんのスキが飛び込んできた。
未確認飛行物体はスキの活力を吸収し、次の回収へ向けてふらふら飛び去った。
なるほど、そういうことか。
ことばの、路地裏の愉しみの一端を知る。
蒼、黄、翠、桃、紅。
呟くほど、照射灯を浴びるほどに、「 」は色づいていく。
***
気がつけば、あの日に戻っていた。
ここはいつかの表通り。
昔、まっすぐ自分を信じ、歩いていた。
そして、見えない壁に阻まれていたんだ。
見えない壁まで足を運び、当時の思いを馳せる。
昔は反発することしかできなかったな。
今は違う。
見えない壁に触れてみる。
壁を受け容れて、回り道してみる。
壁の切れ目を見つけ、ようやくあの日から歩を進めた。
ああ、やっと「 」から僕を取り戻すことができた。
***
僕は線と数字だけの世界に生きてきて、見えない壁にぶつかり、黒い世界に引き込まれた。
そんな僕が、路地裏でことばを覚えた。
これからは、線と数字とことばを操り生きていく。
燃え尽きるまでなにかを表現し、前に進み続けてやる。
表と裏を行き来しながら、今度こそ。
そして燃え尽きる瞬間に見えるであろう、暁の色を想像しながら。
本作品は「なんのはなしですか書籍化」のボツ作品です。
ボツにした理由は「よくわからないにこだわりすぎて面白くなかったから」。
すのうさんに送付済みの作品はちょっとぶっ飛んでいます。
(ワンチャン「私がいないとダメね」の可能性あり)
電子書籍完成のあかつきにはぜひ読んでみて下さいね。
とことこてー