【灯火物語杯応募作】こどもの夢を壊したサンタクロースの真実
灯火さん主催の私設コンテスト「灯火物語杯」の応募作品です。
実話をもとにしたエッセイとなります。
#灯火物語杯
サンタクロース。
毎年キリスト誕生日前夜、赤白の防寒着を着てトナカイとともに夜空を飛び回り、世界中の子どもたちに夢を届けると言われる、白ひげで温和なおじいさんである。
親にそう教わり、絵本にも出てくる存在。
目当ての子がどこにいるかをどう判断してるのか?煙突のない家の侵入経路は?プレゼントの調達手段は?お金はどうするの?
大人になれば自然と疑問に感じるところであるが、こどもには野暮な考えだ。無条件にサンタクロースの存在を信じていた。
その証拠にしっかり望むおもちゃが届くのだ。クリスマスの朝、プレゼントの入った箱を見てサンタクロースが来たのだと到来を喜んでいた。
寒くなり、雪が降ってくるとサンタクロースがやってくる日を、ただワクワクして待っていた。
そう、あの年までは。
間もなく昭和が終わろうとしていた年末。
冬の札幌はすでに雪深く、しんしんと降っていた。
日本でも少数派だが、ここでは当たり前のホワイトクリスマスだ。
幼稚園卒園間近だった僕は、新居に引っ越した叔父さんの招待で我が家(3兄妹)と従兄弟一家が集まってクリスマスパーティーをすることになっていた。
新居の最上階は遮るものがなく、眺めもいい。
クリスマスツリーに明かりが灯る。
クリスマスパーティーらしい豪華な料理が並ぶ。
鶏手羽元の唐揚げ。
肉団子。
チーズ。
フライドポテト。
ブロッコリーやミニトマトが彩りを添えていた。
宴が始まる。
シャンメリーで乾杯し、思い思いに食べ始める僕ら。
その時、呼び鈴が鳴った。
叔母さんがドアを開ける。
現れたのはなんと、サンタクロースその人だった。
突然の初対面に興奮する子どもたち。
僕を含め、こどもがサンタクロースからプレゼントを受け取ってリビングへ駆けていく。テンションは最高潮だ。そんなこども達をビデオに収めようと夢中になる大人たち。
これがサンタクロースにとって誤算だった。
最後に玄関に残ったのは従兄弟と叔母さん。
サンタクロースから言われた衝撃の一言をそのままみんなに伝えた。
「ねえ、サンタさんがハンコちょうだいって言ってるよ!」
まさかの事態である。
慌ててハンコを押す叔母さん。
そう、サンタクロースの正体は配送業者だったのだ。サンタクロースに扮して各戸を回りプレゼントを配り、こども達から最高の笑顔を引き出す、まさにこどもに夢を与える仕事だ。
夢に見たはずのサンタクロースはなかなか受領印をもらえず、仕方なくこどもが玄関に残る場面で印鑑をお願いする失態を犯した。
面と向かって言われ、恐らく全てを察した従兄弟。まだ頭にクエスチョンマークの残る僕ら。
従兄弟の人生におけるクリスマスの夢は、恐らくここで潰えた。
あの日にもらったZZガ○ダムの組立済モデルは確かに僕らの心を掴んでいた。
プレゼントも確かに望んだものだった。
でも、なぜサンタクロースが受領印を要求するの?
僕の中で真相は白い景色とともに消えていった。
翌年からもイブの夜ではなく、土日に合わせて都合よくサンタさんが来るという謎展開に僕が気づくようになった小3くらいになって、母親からそっと真実を打ち明けられたのである。
僕らがサンタクロースのプレゼントと確信していたのは、親によるものだと。
さらに後に知ることになるが、北欧フィンランドには公式のサンタクロースも確かに存在する。しかし夜空を飛び回り、一晩でプレゼントを配り回ることはない。
夢の真実は、「象徴」でしかなかった。
時は経ち、僕が親になった。
11月くらいから娘にサンタクロースへのリクエストを聞く。
そして、真実を知ってしまった僕がサンタクロースの存在を娘に布教しながら、時に利用しながら(いい子にしないとサンタさんこないよ!という定番)、裏でプレゼントを調達する。
今年は購入がバレないようにお義兄さんに協力までしてもらった。
Youtubeの影響でプレゼント謎解き捜索形式への要望を叶えるべく動く。世の中には似たような問題で悩む親もいるのだ。
小1娘は恐らくまだサンタクロースの存在を信じている。いつか、親がしくじるか、友人に知らされるか、本などで察するか。
真実を知る日まで、とことん夢見させてあげよう。
ワクワクを体験させてあげよう。
それで花開くイマジネーションも、信じる心も出てくるはずだ。
今年もクリスマスが近づく。
宗教は関係ない。
幸せな思い出を作る為に、僕たち親は今年もこどもの夢の仕事をサンタクロースに代わって行う。
世界の全てのこども達が幸福に包まれますように。
メリークリスマス。
(了)
(1863文字)