三題噺 「夏至」「スニーカー」「高校生」
たとえ、今、僕が死んだとしても、この呪いから解放されることはないのだろうか。魂もあの世とこの世を彷徨い続けてしまいそうだ。
高校生の健介は家の日の当たる縁側で、体を伸ばして横になっていた。その心地よさだけが、母方の祖父母の家での楽しみだった。
「ゲームしたい」
太陽の眩しさに目を細めながら、家の快適さに想いを馳せていた。祖父母の家にはエアコンもなければ、パソコンもない、ネット環境もないという健介にとっては最悪であろう環境に置かれていた。
古い携帯ゲーム機でも持って来ればよかったか。
そう思いながらも、夏至に親族が集まるという謎のイベントに健介は強制参加しているのだが。
どうせなら、この縁側で冷たいラムネを持ってきて、少しでも夏を楽しもうと起き上がり庭を見たところで、彼女はいた。
長い黒髪、白いシャツ、ジーパン、そしてスニーカー。
いきなり出現した若い女性に健介は驚き、乱れた姿勢を正した。
「だらしないな、健介。」
「な、なんだよ、みかねぇ。久しぶりにあったと思ったら、一言目がそれかよ」
健介の支線は彼女と隣の木を交互に見ながら、何気なく答えた。
みかねぇは健介にとって姉であり母でもあるような存在だった。健介が赤ちゃんの頃から面倒を見て来れていたというが、健介からしたら、幼い頃の薄い記憶しかなく、正直、健介自身もみかねぇはどういう親戚つながりなのかは知らない。今では年に何回しか会えない存在だった。そんな、彼女の小さな変化に健介は気づいた。
「みかねぇ、その指…」
「あ、これ、これなんだと思う?」
「その薬指にある指輪、もしかして…」
いや、まさか、そんなわけないと健介は心の中で何度も、自分を説得させていた。
結婚 健介の頭には二文字が浮かび上がっていたのだ。
相手は誰なのだろか。どんなやつだ。夏の暑さとは別の汗が健介の体を流れていった。
「まさか、け…」
「これは、オシャレ。いいでしょ。まさか結婚だと思ったわけ?結婚は左手でしょ。じゃ、私はおばあちゃん達にも挨拶してくるから」
目の前の安堵感に打ちのめされている高校生を、みかねぇは微笑むだけで最後の挨拶を返した。健介はただ、黙ってそんな彼女を見送ることしかできなかった。
「そうだ、ラムネのもう」
家に帰ったら靴屋でスニーカーを見てこよう。と思いながら冷蔵庫へ、軽やかに足を運んだ。