りぼんの結びめ
ピンポーン。
「ん?はーい。」 「あ、たっちゅびん」
予期しない音が鳴る。反射的に返事をする。
生まれてこのかた2年。未だ切ったことのない、腰まで伸びた髪が縦横無尽に揺れながら、玄関へと駆けてゆく。
「…さんですね、はい。…失礼します。」
文言上のやりとりをして、配達員が扉を閉める。あたたかな風がふと自分と娘の間を通り過ぎる。
片手には段ボール製の箱、シンプルな花柄の紙で包装されており、赤色のリボンがおまけの様にキュッと結んである。ふわっと香る、青と赤のにおい。
赤色のリボン。
ふとよぎる淡い記憶。
小さな女の子、束ねた髪にこんなリボンを付けていた。わざと解いて取って見せたら、すごく泣いてしまったんだっけ。次の日、大好物って言ってたから、給食の時間に出たイチゴをあげたら「もうしないでね」って赤い顔して怒っていたんだっけ。
リボンを解きながら人生で初めて女の子を泣かせた日を思い出す。
なんだろう、と考えるのも束の間。いつの間に包装されていた紙がびりびりに破かれている。
「わあ、早いなもう。」
綺麗に整頓された赤い実が、つやつやと輝いている。
「なんだったの、なんか頼んでたっけ。」
スポンジ片手にキッチンから興味ありげに顔を覗かす。
さらっと短い髪の毛が揺れる。
もう見慣れてしまったけど、ずっと長かった髪の毛を出産の機会に切った時は驚いたっけ。
「いや、苺が。母親からだ。そういや、LINEあったんだ。」
「いちご、いちごたべりゅ。」
「あー、ゆい。洗ってからね。食べよう、おばあちゃんからだよ。」
手を伸ばしたゆいから、さっと取り上げカウンターに置く。
ビリビリに破かれた包装紙をゴミ箱にいれながら、解いたリボンに手を伸ばす。
「はい、あげるよ。」
「え?なに、なんでよ。」手渡されたリボンを見て半笑いでこちらを見る。
「好きじゃん、こういうの。昔髪の毛結んでたよ。」
「うっそ、覚えてない。そんなことしてた?可愛いときがあったもんだね。」リボンをくるくる手でいじりながら、キッチンの隅にぽんと置く。
本人は覚えていないらしい。そのまま苺を水洗いして、お皿に移す。大きなお皿と、プラスチックのお皿に分ける。
「はい、ゆい。後でおばあちゃんに電話しようね。」
そういって、ゆいの口に苺を運ぶ。自分の口にも運ぶ。
「ん、あま。今旬なのかな。」ぱくぱくとどんどん口に運んでいく。
髪の長さも、好きなものもあのころとはすっかり変わって。
それは自分も同じで。でも隣にいて、同じものを食べている。
それはあのころと変わらないみたいだ。