僕NOポケット

ビッチョと僕はいつも一緒

公園に行くときも
幼馴染の家に遊びにいくときも

ビッチョは僕の紺色のズボンのポケットに
ひっそりと隠れていたんだ

ビッチョは柔らかくて、温かかった

学校で嫌なことがあっても
ママやパパに叱られても
ビッチョがいると悲しくなかった

でもビッチョのことは誰にも言わなかった

ビッチョの存在を秘密にすることで
僕はたくさんママに嘘をつくようになった

ピンクの花が咲いた朝

目が覚めて、履こうとしたら
紺色のズボンがなかったんだ

ママが僕に内緒で、近所の子にあげちゃった
もう僕には小さいからって

ママが買ってくれた新しい紺色ズボンのポケットには
ビッチョがいなかった

僕は大切なビッチョを失った

僕はその日、一日中泣いた

あれから、僕の背はまた伸びた

ビッチョがどんな感触だったか
もう思い出せなくなった頃

ママはまた新しいズボンを買ってくれた
それは紺色じゃなかった

僕の背はもう伸びなくなった

それでもピンクの花が咲く度に
ママは新しいズボンを買った

空っぽのポケットに手を入れて
何かを探すこともなくなった


初めての給料日に新しいズボンを買った

僕にも新しい家族ができた

そして自分より大切なものを手に入れた

なぜか、いつも同じズボンを履きたがる息子

母さんは僕の小さい頃にそっくりだって

ほら、転んだら危ないからポケットに手を入れたら駄目だぞ

何度言ってもポケットに手を入れたがる

ほんの少し背が伸びた息子の横顔が、昨日より凛々しい

明日、一緒に新しいズボンを買いにいこうか

嫌だよ、パパ
このズボンがいい

今のより、ずっとカッコいいズボンにしよう

嫌だ、絶対

何でそんなに嫌なんだい

パパ、僕はずっと

ずっと僕のままでいたいんだ

いいなと思ったら応援しよう!

西丘塔子
最後までお読みいただき有難うございました!😊🙏