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旅ログ064 所沢〜新座

歩き始めると、雨がぱらぱらしてきた。
今日はまだ所沢(ところざわ)の町にとどまったほうがいいかもしれないと、少しだけ思った。
でもこの季節にしては気温が低く、かんかん照りの日よりもむしろたくさん歩けるような気がした。
このまま小雨でいてくれれば、という期待に賭けて、私は進むことを決めた。
北へ進むと川が流れていた。

東川(あずまがわ)という川らしい。
泡が浮いていて、水はあまり澄んでいないようだ。
でも湿気を吸い込んで元気そうな植物を眺めるのと、流れる水の音を聞くのが心地よく、私は川沿いを下流に向かって、東へ進むことにした。
川沿いには桜の木が植えられ、春はさぞかし美しいのだろうと思う。
写真にはうまく撮れなかったが、暗闇を切り取ったような全身真っ黒なトンボが飛んでいた。

しばらく進むと本格的に雨が降り出してしまい、私は傘をさして歩いた。
旅に出てそろそろ4年になるが、傘をさして旅路を進めるのは初めてだ。
片手がふさがって写真を撮りにくいという難点はあるが、今日のような気候なら悪くない。
せっかく雨の降る惑星の、雨の降る土地にいるのだから、雨の旅路も味わったほうが得な気がしてきた。

1時間もせずにまた雨は落ちついてきた。
休憩できるところがあり、私はひと息ついた。

いすに座って川の反対側を眺めると、妙に壁のかくかくした建物があった。

建物からは美しい音楽が流れてくる。
ちょっと入ってみたい気もしたが、今はせっかく雨がやんでいる。
また降るかもしれないので、今のうちに歩みを進めようと思った。
私は再び川に沿って歩き始めた。

川沿いに植えられたひまわりが夏を謳歌していて、掲示板には「9月頃曼珠沙華いっぱい咲きます」という貼り紙も。

花は旅人を幸せにする。
やがて川沿いには道がなくなり、私は川から北へ逸れてしまった。
申し訳程度の歩道しかない道を、大きなトラックがすれすれで走っていくのが少し怖い。

早く花咲く平和な川沿いに戻りたい、と思っていたら…。
ずいぶんと水の澄んだ大きな川にたどりついてしまった。

今日ずっと一緒に歩いてきたあの東川が、ちょっと目を離した隙に急成長したわけではないらしい。
錆び錆びの看板の文字は「柳瀬川」と読める。
よく目をこらすと、ここで合流しているみたいだ。

空堀川や東川を引き入れて、柳瀬川は雄大で美しい。
私はなんだか満足して、もう少しだけ東へ進んで今日の旅路を区切ることにした。
幸運なことに後半は雨に降られず、前にも訪れたことのある「新座(にいざ)」の鉄道駅で旅のログを終えた。

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