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元首相暗殺1か月 2度読んだコラム5選

 安倍晋三元首相暗殺から1か月です。

死亡2日前の7月6日、横浜駅西口にて。撮影:筆者

 この間(7/8〜8/7)、普段は手にしない新聞や雑誌、思わず読み飛ばしてしまう論客のつぶやきも含めて、かなりの数の解説や評論に触れてきました。

 浮上した論点は多岐にわたります。ただ、大文字の政治評論よりも、政治家の「人となり」や書き手との「距離(感)」に関心が向くのが、私の(悪い)癖です。

 甲乙をつけられる立場でもないし、論評する能力もたいしてありませんが、①〜⑤のコラムはとても印象に残り、2度読み直しました。

① 評伝 「現実主義」求めた保守/安倍氏「敵・味方」深めた溝(小野甲太郎氏、朝日新聞7/9朝刊)

②  忘れちゃいけない 晋三さんへの恩義(なべおさみ氏、月刊HANADA9月号)

③  安倍晋三の横死は防ぎ得たはずだ(菅野完氏、月刊日本8月号)

④ 無題(12年間の議員生活で与野党のいろんな方から学ばせていただきました。)(松井孝治氏、facebook投稿7/28 4:08)

⑤ 家業としての安倍政治批判(伊藤智永氏、毎日新聞8/6朝刊)

 以上は、私が読んだ順に並べました。

 河井克行氏の「連載・獄中日記第4回/朝の来ない夜はない」(月刊HANADA9月号)や、與那覇潤氏の「自助の果てに起きたネオリベラルなテロリズム 安倍元首相銃撃事件に見た時代の病」(アエラドット7/17配信)も読みごたえがありましたし、島薗進氏による解説記事はいずれも安心して読めました。

 そして、やや日刊カルト新聞のお仕事に陽が当たる日がやっと来てよかった。

2018年4月、桜を見る会にて。撮影:筆者

 女性筆者からひとつも選んでおらず、申し訳ございません。「代議士の妻」や「政治家一族」に強い興味を持つ物書きとしては、安倍昭恵さんや安倍洋子さんの数奇な人生に肉薄した長尺の読み物をどなたがどのように書くのか、とても期待していたのですが……。

同前。撮影:筆者

 週刊誌系では絶対王者の「文春」はさておき、「新潮」や「フラッシュ」などの善戦ぶりが目立ちました。雑誌ジャーナリズムの面目躍如といったところです。

 事件直後の発売だった「世界」、「中央公論」、「文藝春秋」の月刊3誌は、前月末に編集作業を終えていました。各誌がリアルタイムで事件をフォローできていれば、私のリストもまた違う趣きになったかもしれません。

 底がぬける。軸がゆがむ。バネがゆるむ。手元がくるう……。「7・8」を境に一変した言論空間に、それ以前のテイストで編んだ特集を1か月も並べざるを得なかったことは、プロの雑誌屋にとって断腸の思いだったでしょう。(たとえば、月刊文藝春秋ならば、大特集「日本左翼100年の総括」が「日本右翼の総括」であったなら‥)

 このお盆は、8月中旬に発売される各誌の9月号をじっくり読みたいと思います。

2018年4月、桜を見る会にて。撮影:筆者

 一方、どの新聞もある種の「書きにくさ」や「扱いにくさ」を抱えているようで、この1か月、世紀の大事件だ、民主主義の危機だと騒いだわりには、永久保存版の「決定的論考」というものにはとうとうめぐり会えませんでした。

 「碩学」をずらりと揃えられても、概して大味で、決め手となる要素に欠け、読んだ後にわだかまりが残りました。私の読解力不足を棚に上げると、「5選」に超ビッグネームの論客たちの名前が抜けているのは、そのせいです。

 各新聞社の編集会議では連日、喧々諤々の議論が行われたことでしょう。しかし、どの社の一軍ベンチにも控えているはずの「専門記者(特にカルト問題の)」による渾身の署名記事がなかなか見当たりませんでした。

 コラムというよりは事件そのものの検証記事についての話になってしまいますが、巷では「現場の記者が劣化した」、「上層部の腰が引けている」、「特定の団体と癒着しているからだ」などと、いつも以上に言われたい放題です。

 この間、新聞社の社内でなにが起こっていたのか。私も、その点には素朴に興味があります。(責めるわけじゃなくて)

事件翌日(7月9日)の各紙朝刊。全国紙の見出しは横並び…

 妙に世間の空気を読んで、自己(メディア)批判に走ってみた優等生気質の新聞社もありましたが、エリート集団がいまいち本領発揮できないのは、おそらく次のような不確実性があまりに高い段階だからでしょう。(傲慢とか怠慢の罪という話よりは。そう願いたいです)

「政治家の命が奪われてしまうと、その人の影響力のみならず政治全体の調和が失われていく。つまり『安倍さんが生きていればこういうふうに政治が進むよね』という予測可能性があるんだけど、亡くなってしまうと予測可能性がなくなってしまう」(御厨貴氏、NHK政治マガジン7/19配信)

「田中角栄首相は『今太閤』と呼ばれて人気があったが、ジャーナリストが金権問題を追及してから内閣支持率が急降下した。昭和天皇も死去直後は称賛一色だったが、その後さまざまな資料が出てきて評価が変わった。安倍氏の場合ももう少し時間をかけて検証されるべきだ」(原武史氏、中国新聞7/24朝刊…共同通信配信記事?)

 これからじっくり取り組もうとしていた安倍時代の総括を今すぐ開始せよといわれてもそう簡単にできるもんじゃない、あれだけ国論を二分させてきた存在だけに当面はきちんとした議論も成立しにくい――という主旨の見方を、事件発生からわずか44時間後にテレビでとうとうと述べていたのは、姜尚中氏でした(TBSサンデーモーニング7/10放送)。 

2017年4月、桜を見る会にて。撮影:筆者

 最後に。

 ①の筆者を筆頭に、2012年12月以降に「安倍番」の経験がある新聞社やテレビ局の記者(自称「安倍氏の顧問」は除く)には、どんなに時間がかかろうと、歴史法廷に堂々と立ち、安倍時代の功罪を総括する権利と義務があると思います。

 たとえ、どんなに会社が傾こうと、どれだけ理不尽に職場でほされようと、あるいは破格の条件で他業種に誘われようと(笑)。彼らをその気にさせて、しっかりサポートしていくのが、社会の公器たる新聞社のあるべき姿です。

 一方、そこで直面するのは、彼ら彼女たちが全力で書き上げようとする「大作」を同じ熱量で引き受けられる心・技・体の三拍子そろった「頼りになるノンフィクション書籍編集者(政界の土地勘もある)」と出会うことが、八重山の密林でイリオモテヤマネコを見つけるよりも難しいという2020年代の出版業界の現実です。(不一)

2022年7月11日、首相官邸に向かう霊柩車。撮影:筆者


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