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期待され続けた親知らず。

4本のうち1本だけ残した右下の親知らず。
そいつが昨日から主張し続けている。
つまり痛いのだ。


大学時代に抜いた親知らずを、なぜ1本だけ残していたのか。理由は2つある。

ひとつ目は簡単。埋伏歯だったので、虫歯になる心配がなかった。3本の抜歯で十分に心は折れ、もういいや的な放置。

ふたつ目の理由が本当の目的。未来への希望だ。
中学時代、大きな虫歯の為に奥歯の神経を抜いた。巨体な銀の冠をかぶったその歯は、何度も化膿を繰り返し、歯磨きを怠った私を責め続けた。
銀の冠を強引に外して治療するたびに、残された歯は削られ、最後には根っこと、歯茎からわずかに出る歯の壁面が薄く残るまでになった。 

「次、開ける時が最後かもしれないよ」

と、巨大な金属の塊が詰められた上から冠で頑丈に封印した歯科医にそう言われた時、最終兵器の親知らずを残してあるから大丈夫、と私は密かに思っていた。

10年だか20年だか経って、医学が進歩すれば、1本温存した親知らずの何かしらを生かして、代わりになる歯の一本くらい作れる時代が来るんじゃないか。根拠もなくそう信じていた。

なのに現実は、親知らずを残す決断をしてから30年近く経っても、画期的な歯の再生治療の話は聞かない。

埋もれていたはずの親知らずは、老化による歯茎の後退で顔を見せるようになり、その周辺は慢性歯肉炎でたびたび腫れ上がる。

ついに医学の進歩への期待を手放し、親知らずとお別れする時が来たのかもしれない。


歯医者に行く前に、念のため検索してみた。
すると「歯髄再生治療法」なるものを発見した。

“親知らずなどの不要な歯の中から、歯髄組織の中に多く含まれる幹細胞を培養。歯髄幹細胞を神経を抜いた後の根の中に移植すると、数ヶ月後には血管や神経を含む神経が再生”

だって!
今は臨床試験はしてないものの、
“歯髄さらには象牙質を再生させます”
だって。だってさ!

この治療法がまちの歯科医まで広がるまで、
やっぱりこの親知らず、抜かずに温存するしかない。
長生きしないといけないな。

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