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2024.08.07 「科研製薬 v. リジェネロン/サノフィ」 知財高裁令和5年(行ケ)10019 ― 臨床試験結果に基づく医薬用途発明の特許出願のジレンマ:臨床試験プロトコル公開のインパクト


1.はじめに

アトピー性皮膚炎治療のための抗インターロイキン-4受容体(IL-4R)抗体を含有する医薬組成物に関するリジェネロン及びサノフィの特許に対する無効審判請求を不成立とした審決を不服として科研製薬が提起した審決取消訴訟(知財高裁令和5年(行ケ)10019)で、知財高裁は、本件審決の判断に誤りはなく、科研製薬が主張する取消事由(進歩性、サポート要件及び実施可能要件に関する誤り)はいずれも理由がないと判断した。

本件特許は、2023年に世界で116億ドルを売り上げたデュピクセント®(米国販売名はDupixent®)(有効成分:ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体であるデュピルマブ)のアトピー性皮膚炎患者における有効性を確認する臨床試験結果に基づく医薬用途発明に係るものであり、日本におけるアトピー性皮膚炎治療に関するデュピクセント®の効能効果を保護するものであると同時に、機能的に表現された抗IL-4受容体抗体のアトピー性皮膚炎治療に関する医薬用途発明をその技術的範囲とするものである。

科研製薬は、ニューマブ社とアトピー性皮膚炎を対象としてIL-4RαとIL-31に結合する二重特異性抗体を開発していたことから、この競合関係に今回の特許紛争の火種があったと想像される。

進歩性欠如の無効理由として科研製薬が挙げた引用文献は、本件特許の明細書に実施例としてその結果が記載されている、臨床試験情報データベースClinicalTrials.govに登録されたデュピルマブの臨床試験(フェーズ2)のプロトコル(試験実施計画書)であった。

本稿は、それら臨床試験プロトコルの公開と臨床試験結果に基づく本件特許との関係を整理した上で、本件訴訟における裁判所の判断と欧米での審査状況を紹介しつつ、臨床試験プロトコルの公開が特許性に与える影響から、臨床試験開始(プロトコル公開)前に出願(新規性・進歩性重視)すべきなのか、臨床試験結果が出てから出願(記載要件重視)すべきなのかというジレンマについて、まとまりのない思いついたままの感想を述べるものである。


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