【 定額減税と差押えについて ー 租税滞納者に対する定額減税の扱いは? 】
《 ー 徴 収 職 員 の 方 々 へ ー 》
1 定額減税の仕組みの理解
現在、各税務署において、主に給与支払者(担当者)向けに定額減税の経理処理方法の説明会が行われています。
所得税等(国税)は3万円、住民税(地方税)は1万円の減税が行われるところ、給与所得者に対する減税処理は、令和6年6月分給与から、3万円に達するまで所得税減税処理を行わなければなりません。6月以降の給与で引き切れない分は、12月の年末調整対象です。住民税減税分1万円分は、特別徴収義務者である給与支払者に対し、従業員等の特別徴収税額(住民税)の月割額が各地方自治体から通知されます。減税しきれない部分は、調整給付金として、支払われる予定となっています。
扶養家族分の計算や事業所得者、年金給付者に関する説明は、ここでは省略します。
2 差押禁止なのか?
今回、定額減税自体、給付金(支給型)ではないことから、直接差押えの対象にはなりません。しかし、調整給付金は、差押禁止財産ではないことから、差押えは可能と考えられます。国税庁や内閣官房のQ&Aにこの調整給付金が「差押禁止財産である」との記載はありません。ただし、調整給付金が生じるのは、非課税者又は低所得者であることから、今後、差押禁止との立法措置がなされるかもしれません。
なお、コロナ時の特別定額給付金については、令和二年度特別定額給付金等に係る差押禁止等に関する法律において、差押禁止と法律に明記(法定)されていました。
3 滞納者の給与差押えにおける取扱い
租税等債権者である官公庁等徴収職員が、令和6年6月分以降の滞納者の給与債権を差し押さえる場合、国税徴収法(給与の差押禁止)76条1項1号の「所得税に相当する金額(今回、減税対象)」をどのように考慮するのかという問題があります。
同条は、個人の最低限の生活保障の観点から、給与には差押禁止部分があるとし、その計算方法を定めているのであって、差押権者が定額減税部分だからといって、何ら考慮する必要はありません。
すなわち、給与支払者が源泉徴収における所得税計算において、定額減税処理を行い、実際の給与支払額がその分増額される訳ですから、差押債権者にとっては、実質、その増額分の差押可能額は拡大することとなります。住民税も然りです。
4 還付金等に定額減税分が含まれる場合
個人が令和6年分の確定申告を行い、還付金等が発生した場合、特段、定額減税分を考慮する必要はなく、既に滞納国税等が存する場合には、国税通則法57条1項の規定により、充当しなければなりません。
また、還付金等を還付するまでに、別途、当該個人に滞納租税債権が発生した場合には、還付金等請求権は、差押対象財産となります。
注)本件は、令和6年5月現在の法令に基づき、執筆したものです。