知らぬは本人ばかりなり5
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 5~
「……へー」
ある程度の説明を受けると、人事のように数人から呆然と声が漏れる。
「……へへっ、すっげえなあ」
「本当。こんな、凄いプロジェクトのマネージャーなんて、出来るかしら」
幸弥から驚きに声が漏れ、つられた花穂が少し自信なさ気につぶやく。
「大丈夫だよ。言葉とか文字にしちゃうと大仰だけど、実際経験しちゃえばあっという間だから。ね?」
と花穂の不安を取り去るべくテルが説明する。
「まあ、マネージャーとは言うけどね。僕らの手伝いをして欲しいだけなんだ」
そう言われ、肩にそっと手を置かれて顔を覗き込まれる。
「へへっ、ありがとう。……でも、ほんとに出来るかなぁ?」
やはり自信が持てないでいる花穂に、背もたれに体重をかけて椅子を揺らしながら大介が茶々を入れる。
「無理無理。こいつに任せたらきっとチケット代の帳尻が合わねぇで、後で被害被るぞ」
その一言に額に細く青筋を立てて、鋭い視線を投げる花穂。
「何よそれ!? あたしそこまで馬鹿じゃないんだから平気よ!!」
一瞬にして今まであった空気が霧散し、あっという間にお馴染みのけたたましさが室内を満たす。
「ハッ!! どうだかなぁ? 数字三桁になると計算スピード落ちる人が」
「そ、それはちょっとは……でも平気だもん! 電卓だってあるし。大丈夫だもん!!」
「接客だって、思いやりと気配りが出来なくて、その上愛想がないんじゃ無理なんじゃねーの? 色気だってねぇし」
「何よ! あたしはねえ、あんた以外の人間にはすこぶる態度がいいんですからね! っていうか不愛想で思いやりや気配りがないのはあんたでしょ!? それに何より色気は関係ないじゃない、いったい何考えてるのよこのスケベ!!」
騒ぐ二人に置き去りにされ、一瞬にしてテルと幸弥が蚊帳の外の傍観者に変わる。
「とにかく、全てにおいて不器用なおまえにゃマネージャーなんて、絶対無理だね!」
大介が憎々しく言えば、身を乗り出して反論する花穂の額には青筋がくっきりと浮かぶ。
「なにをー!! 言ったわね! いいわよやってやるわよ! 見てなさい、完ッ壁なマネージャー業をしてあんたを見返してやるっ!」
「おー、言ったなぁ? おもしれぇ、ほんとに完璧にこなしたら、お前の願い何っでも聞いてやるよ!!」
「よーし乗った!! 後悔させてやるわ!!」
ヒートアップしていく花穂と大介をよそに、後ろの二人は呆れ顔。
「あーあ、また始まった。仲いいねぇ」
「安心させてやりたいのは分かるけど。……素直じゃないなぁ」
口々にいい、苦笑しながら二人は目の前の光景をのほほんと見ていた。