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知らぬは本人ばかりなり6

~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 6~

「何よわからずや!!」
「あんだよこの石頭! そんなんだから、いくつになっても彼氏の一人も出来ねえんだよ! いい年して可愛くねぇ!! ちっとはしおらしくなれよな!」
 あれから三年。無事に大学生となった彼らは、相変わらず音楽活動を続けていた。インディーズながらそこそこ人気のバンドになりつつある。
一定数のファンが付き、インディーズコーナーに置かれたCDが在庫を溜めずに売れてくれているというまだまだな状況だったが、まあまあ順調なバンド人生を送っている。
テルと大介と幸弥。メンバーは変わらずあの三人である。
そして、マネージャーも。
「何よ! あたしはあんた達のためにやってるんでしょ!? それを意見するなんてどういうこと? それにっ、彼氏のことは余計なお世話よ! 大体まだあたしは学生ですから!」

「相っ変わらずうるっせえなあ」
「あーあ、また始まった」
呆れて幸弥が半眼になり、しみじみとテルがこぼしてその光景を見守る。
額を突き合わせ牙を剥いて睨み合う相変わらずの二人に、すっかり存在を忘れられた二人が交わす会話は、あの時と変わらない。
 最初は真面目な仕事の話での意見の出し合いでも、飽きるのが速い大介がおちょくるように言えば、花穂は良い様に乗せられて必ず幼稚な言い争いになる。
姿形は成長しても、言い合う二人には精神的成長が一切見られる事も無い。
「まあ、名物だよね。一種の」
 日課ともいえる光景を生暖かく見守っていたテルが、ふと思い出したように言う。
「でもさあ、あの時マネージャー候補を決める時、真っ先に花穂ちゃんの名前出したの大介だよねえ」
「そうそう。俺たちがこうなることを見越して反対したのを断固として押し切ったんだよな」
幸弥が椅子の背で頬杖をつきながら続けた。
「うん。花穂ちゃん推しの理由知っててからかってるだけなのにムキになっちゃってさー『あいつは器用だ!』とか『気立てがいいから、接客にはもってこい』とか『あいつ以外じゃなきゃこんなきつい仕事は出来ねぇ』とか。聞いてないのに、まぁ、しゃべるしゃべる! あんときの大介の顔は今でも忘れられないよ」
その時の大介の必死の形相を思い出して、テルはふっと吹き出した。
「そうだよなぁ。ってかさ、あれ、俺達が知ってるって気付いてないぜ? 知らぬは本人ばかりなりってやつさ。未だに隠せてると思ってやがる」
苦笑する幸弥に、ほんとだねえとテルが笑う。
「花穂ちゃんも鈍いよね。大介の気持ちにも、自分の気持ちにも」

「おまえって、ほんと仕事出来ないよなぁ!」
「何言ってんの!? 半ば強制的にマネージャーにしたのはあんたたちでしょー? 大体、そんなこと言うなら何でマネージャーなんかにしたのよ!?」
「俺じゃねぇ! 多数決だ! 文句あんならテルと幸弥に言え!」
「何よ、この馬鹿!!」
未だ飽きずに言い争う二人の間に、テルが手を叩きながら仲裁に入る。
「はいはい。そろそろレコーディングに支障があるからお開きねー?」
そうして収まるいつもの光景。
そんな景色を生暖かい目で見守りながら、幸弥はぽつりとつぶやいた。
「あー。青い春だなぁ」

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