いつもより苦い、チョコの味
「お前、これ好きだったろう」
アルバムを見てた私に、父は一口サイズのチョコレートが詰まっている箱を差し出した。
そして私の横に座り、ただ黙ってアルバムに目を落とす。
いつもより寡黙な父に、ページを捲る音だけが響く。
「あ」
一枚の写真に思わず私は手を止めた。
肩車されて嬉しそうな私と父が、写真の中で笑っている。
『ねえ、女の人って結婚すると名字が変わっちゃうの?』
『え? なんだ急に?』
『だって、幼稚園のお友達が言ってたの』
『そうか。うん、そうだな……確かに変わるぞ』
『だったら私は変わらないね!』
『うん? なんでだ?』
『だって、私はお父さんと結婚するんだもん!!』
父は、嬉しそうに笑って私をひょいっと抱え上げた。
思わず瞳が潤む私に、写真を見つめ続ける父が小さく言った。
「何、名字が変わって少し遠くに住むだけだ。いつでも遊びに来ればいい」
「うん」
頷いて、チョコレートを一枚かじった。
私は明日、お嫁に行きます。