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知らぬは本人ばかりなり3

~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 3~

放課後、いつものように自分達のバンドのミーティングルームに向かう大介は、付いて来いと花穂を先導するように前を歩く。
「本来ならば女人禁制のミーティングルームなんだぞ」
何をそんなに嬉しそうに語るのかはわからないが、とにかく花穂は僅かに浮かれているように感じる背中に付いて行く。
 そもそもまだマネージャーの件についてはOKは出していないのに、もうすっかり決定事項と捉えている大介に、もう諦めるしかなさそうだなと花穂は密かに腹を括る。
なにしろ一度言い出したら聞かないのだ。聞いたとしても一旦その場を引いただけ。諦めない大介の性格を嫌というほど承知しているが故、相当な理由がない限り素直に聞いいれた方が面倒が少なくて済む。
 なんて頑固で融通の利かない男なんだ。と思って今度は、重く溜まった息を吐き出した。
 旧校舎。渡り廊下の最奥部。全体的に老朽化して時折ギシリと鳴るそこは、なんというかそれなりの不気味な雰囲気が漂っていて、何だか異空間のような気がして落ち着かない。
うっすらとした恐怖感が花穂を取り巻き、無意識に身が硬くなる。
もちろん不慣れな場所に対する緊張もあるが決してそれだけではないよなと、花穂がそう考えて引きつるような苦笑を浮かべた時、ふいに大介に呼ばれて顔を上げた。
「着いたぞ」
「えっ? ここ!?」
「そう」
あまりにもおどろおどろしい空気を醸し出すそこに花穂は思わず声を上げた。
予想していたのだろう、大介は苦笑を浮かべてドアノブへと手をかける。
「ようこそ。俺達の城へ」
嬉しそうに誇らしそうに笑いながら、大介がノブをひねる
動きの鈍い扉が開くと歓声と拍手が響き、二人のメンバーが、にこやかに花穂を迎えた。

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