トマトパスタとたらこパスタ

「うわー、こっち美味しそう!」
 幸せそうに悩むキミの視線の先にはトマトパスタ。
「うーん、どっちにしようかな?」
 眉根を寄せたその顔がとても無邪気でかわいらしくて、俺は思わず口元を隠した。
 周囲ににやけた顔を見られるのは、流石にちょっと居心地が悪い。
「うわーん、どっちも捨てがたい!」
 ガラスの中のサンプル二つを見比べて、人差し指をこっそり左右に動かし始めた。どうやら、天に委ねるらしい。
「よしっ、こっちだ!」
 そうしてすっきりとした顔になったのに、一瞬にして元に戻る。
「困った。やっぱり決められない!」
 今にも唸り始めそうなキミの瞳は真剣で、俺はついつい笑ってしまった。
「何よ!?」
 そんな俺を見る、不服そうなその目が泳いだ。
どうやら恥ずかしがっていて、そんなところも、俺の心をくすぐった。
「そんなに悩むなら、両方頼めばいいじゃん」
「有難いけど、あたしそんなに食べられないよ」
 恥ずかしがることないのにと苦笑すると、キミが一人で拗ね始めた。
「どうせあたしは、食い意地張った優柔不断の子供ですー」
「いや、そんな事は思ってないけど」
 可愛いなとは思いました。
 もちろん、そんな事は言えないけれども。
「じゃあさ、半分こしようよ。俺がトマトのパスタを頼むからさ、たらこのパスタをお願いします」
笑いながらそう言うと、キミの瞳が輝いた。
「良いの!? あ、でも。悪いよ」
 本能の後にやってきた理性に、キミは瞳を陰らせる。
「いいよいいよ。俺も、これが食べたかったんだ」
「ほんとに?」
「うん」
 おずおずと聞き返すので、思い切り頷くと嬉しそうに笑う。
「ありがとう!」
 じゃあ、いこっか。
 スキップしそうな勢いで入店して、通された席に向き合って座る。


「ご注文の品をお持ちしました」
そう言って、俺たちの目の前に料理が並んだ。
「いただきまーす!」
 パスタを頬張るキミの、なんと幸せそうなこと。
「おいしいね」
 とろけるようなその笑顔に、俺も笑ってそうだねと返した。

 俺は、トマトとたらこが苦手です。