が、気になった。~月曜日~

俺が勤めている会社には 、図書コーナーがある 。
社員から 読まなくなった本を 集めて、 カラーボックス を並べて 本棚を作り、テーブルと椅子 を備え付けた 非常に簡素なものである 。 こじんまりとしたスペース なのだが、 俺が入社して 三年 、一度も利用してる人を見たことがない。

社員食堂の 真ん前にあるので 、昼食を食べ終わった 社員が 利用してるのを目撃しても良さそうなものだが。

なぜ こうまでして 利用者が いないのか。
それは 、俺が思うに 立地条件にあると思う 。
食堂の目の前の廊下 。百歩譲ってそれはいいだろう 。ちゃんと 目隠しも あるのだから 。
しかし 、問題は その目隠しにある 。

その衝立ては 食堂の 正面側のみ に設置されており 、裏からは 丸見えなのである 。食堂の利用客は 必ずと言っていいほど エレベーターを使う 。そして そこから 食堂に入るためには 、図書コーナーの 前を横切らなければならない。
エレベーターへの通路は 図書コーナーから見て裏手に 面しているため 、双方ともに 鉢合わせ は免れないのである。

読書というのは ある種 、無防備なもの ではないかと思う。物語に没頭し 、喜怒哀楽を素直に示す 。
そんな 思いっきり 素の 自分が 目撃されることになるのだ 。そんな羞恥プレイ 誰が 好き好んで するというのだろう。
せめて廊下の壁際 にセッティングしてくれれば 利用もしやすくなると思うのだが 、しかしこんな改善提案は 性急性 と重要性 が認められず 放置されたままである 。
したがって 結局 一度も 利用してる人を 見たことがないという、 痛い結果となっている 。

そんなある日の事。
食事を終えて エレベーターへ 行こうとしたら 、衝立の中 人が座っているのが見えた 。
気づいた瞬間 「勇者だ 」と思わず感心してしまう 。通り過ぎる際に ちらりと横目で 見てみたら 、肩の位置でひとつに束ねた髪を胸の前に垂らした女性だった。 目に映ったその人の顔は、まだあどけなさが残っている。

新入社員かな 。と思い、
だとしたら事情を知らずに利用しているのかもしれない と思った。
今すれ違った時には、 彼女は本に没頭していて 顔は合わなかったけれど 、今後誰かと鉢合わせしたら 気まずくなって 、もう利用なんかしないんだろうな 。
そう思いながら 俺は エレベーターに乗り込む。

その光景が、気になった。