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知らぬは本人ばかりなり1

~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 1~


「大介! いつまで寝てんの!? 学校遅刻するよ!!」
入ってくるなりけたたましく喋りながら、花穂はベッドで眠る大介の掛布団を引きはがす。 
「ったく、こうも毎日遅刻じゃあ、そのうち単位足りなくなって退学になっちゃうよ! 毎晩毎晩練習すんのは結構だけど、とばっちり食うのはいつもあたし」
「お前、俺達のマネージャーになれ」
「はっ?」
朝七時三十分。ベットから起き上がった寝ぼけ眼の大介は、小言をぶちまける幼馴染の言葉を遮って、開口一番そう言った。
「なっ、なによ? それ?」
いきなりの勧誘に混乱し、ぱちくりと大きな瞳を瞬かせながら質問する。
大介はのろのろと布団から起き上がると、お構いなしに鴨居にかかる制服を引っ張って引き寄せた。
「そんな取り方したら制服が傷むじゃない!」
花穂が眉を顰めて注意する。
「着替えるんだから出てけ」
その言葉に対して、大介はまだしっかり回らない口で言い、ドアへと追いやる。
「ちょ、ねえ!!」
追い出された花穂はドアに向かって声を上げたが、届いているのかいないのか。
閉められた扉の前で、ふくれっ面で腕を組む。
「マネージャーって何? 結局答えてないし」
眉間に皺を寄せ、納得のいかない表情でつぶやく。
 着替えを済ませた大介は、部屋から出てくると無言のままに花穂の横を通り過ぎて階段を下りる。
まだ半分眠ったように惚けているその顔。いつものようにそれを目で追って、花穂も後を付いて行く。
 時に急かし、時に注意を喚起しながら彼の行動を見守る。
 既にこれがマネージャーみたいなものじゃないのよ。
 ふとそんな思いが湧き上がって半眼になるが、いやそういう事じゃないだろうと即刻その考えを打ち消した。
分からないものはいくら考えても分からない。しかし、気になり出すと止まらないのが人情だ。
本当は気になって今すぐにでも聞き出したかったが、寝起きの悪い大介が覚醒するのはまだ先なので、うずうずする心をグッと堪えてその時を待った。
朝食を終えて玄関を出て、タイミングを計りつつ、控えめな口調で聞いてみる。
「ねえ、大介?」
「んんーぅ?」
あくびをする大介は、まだふわふわとした目で空を見ていた。
 それを横目で見やった花穂は、駄目かもと思って短く嘆息し、黙って足を進める事にする。
歩みに合わせて、学生カバンが規則的に揺れる。
取手についた小さな鈴のキーホルダーが、シャラリシャラリと綺麗な音を響かせた。