ミサンガ
「なにやってんだ?」
せっかく訪ねて来てるのに、放っておかれて痺れを切らした新平は、机に向かって作業をしているさつきを覗く。
覗き込んだ机の上には色とりどりの細い糸が、剥がせるテープに留められて奇麗に六本並んでいた。
「何作ってんだそれ?」
何かを作成している事は分かるのだが、何になるかは分からずに新平は片眉をひそめて腕を組む。
手を止め振り返ったさつきは、緩やかに微笑むと新平の顔を見ながら言った。
「ああ、これはミサンガ作ってるのよ」
「ミサンガ……ってなんだ?」
単語を言われてもピンと来ない新平は、不思議そうにさつきを見る。
「ミサンガって言うのはね、お守りの事なのよ。糸で編んで作るの。手首に巻いたり、足首に巻いたりするんだ」
「へー」
お守りと聞いて、途端に興味を失くした新平に、さつきは構わず説明を続ける。
「それでね、糸が自然に切れるまで付けていると願い事が叶うって言われてるの。だから、作ってみようかなぁーって思って」
「けっ、くだらねえ! そんなもんで願いが叶うんだったら苦労しねえよ!」
呆れ、怒りながらそっぽを向いた新平に、さつきは別段気分を害した風でもなく笑う。
「そりゃそうだけど。いいじゃない、たとえ迷信だとしても『安心感』が欲しいのよ。何かに祈ることで」
「情けねぇな、それ」
「そうかなぁ? 情けなくても、弱くても、それで何かを始められたらいいんじゃない?信じる事や、頑張ることが出来たならそこから何かが変わるかもでしょ? よしっ、出来た!」
作業の為に下を向いていた顔がぱっと上がり、嬉しそうに出来上がったミサンガを見て満足そうに微笑んだ。
「はいコレ、新平の!」
「あっ?」
差し出されたミサンガに眉をひそめる新平を見て、さつきは一瞬眉を下げた。
「迷惑?」
「別に、そんな事ないけど……」
「そう? ならよかった」
気を取り直して笑うさつきからミサンガを受け取りながら、新平が半眼になる。
「こんなもん無くても、叶えてみせるっつの」
「分かってるわよ。でもおまじないなんだからいいじゃない」
なんだかんだで受け取る新平にさつきは嬉しそうに笑い、その嬉しそうな笑顔に新平はうっすらと頬を染めた。
どこかであった、とあるひとつのエピソード……。