日本みつばちのこと
みなさんは、みつばちには西洋みつばちと日本みつばちの2種類があることをご存知でしょうか?
時生屋では日本みつばちの天然はちみつを販売していますが、買っていただいたお客さまから「スーパーに売っているはちみつとなんでこんなに味が違うの?」という驚きの声をたくさん頂きます。
日本みつばちのことをもっとたくさんの人に知ってもらいたい!
ということで今回は、日本みつばちについて私の知っている限りのことを書いてみようと思います。
まだまだ新前養蜂家なので、少ない知識と経験の中から搾り出した内容ですが、日本の方に日本みつばちの良さを少しでも広めていけたらと思っています。
西洋みつばちと日本みつばちの違い
西洋みつばちは、名前からも想像がつく通り、アフリカやヨーロッパを起源とする外来種のみつばちです。
19世紀半ばに飼育管理方法が広まって以来、家畜として改良されてきました。
日本では明治時代にアメリカから輸入されたと言われています。
合理的な飼育法により短期間で大量のはちみつが生産できる上、巣箱を養蜂家が移動させることでどこの花の蜜を集めるかをコントロールできます。
一般的にスーパーなどの店頭で流通しているはちみつや加工食品の原材料に使われているはちみつのほとんどが、西洋みつばちのはちみつです。
日本みつばちは、日本に古来から生息する在来種の野生みつばちです。
野生であるためとても敏感、繊細な上に記憶力が抜群で、巣箱がほんの少し移動しただけでも帰ってこれない迷い蜂が発生します。
そのため西洋みつばちのように巣箱を移動させて蜜源をコントロールすることができません。
日本みつばちは一年を通して野山から四季折々の草樹花の蜜を集めるため、その蜜は「百花蜜」と呼ばれていて、年に一度だけしか採蜜できない希少なはちみつです。
日本みつばちのはちみつが「幻のはちみつ」と言われるのはそのためで、現在日本国内での流通シェアは1%にも満たないと言われています。
日本みつばちは温厚で大人しい
よく周りの友人などから「蜂と一緒に暮らしてて怖くないの?」「刺されたりしない?」と聞かれることがあります。
日本人にとって蜂のイメージは、攻撃的で怖い、刺されたら大変、などのマイナスイメージの方が強いのかもしれません。
確かに日本には、攻撃的なスズメバチや大人しいけど毒は強力なアシナガバチなど、危険な蜂も多く生息していますが、花の花粉を集めるみつばちは温厚で大人しく、人を攻撃することはあまりありません。
みつばちは、一度刺すと死んでしまいます。
スズメバチは、何度でも刺せます。
みつばちは自分の命をかけて刺す分、そう滅多なことでは刺さないのです。
とはいえ、ここにも西洋みつばちと日本みつばちで違いがあります。
西洋みつばちは、人間が巣に近づいたくらいでは人を攻撃したり刺すことはありませんが、蜜を奪おうとする相手には攻撃します。
なので養蜂家は、採蜜する際には燻煙器で二酸化炭素の煙をかけてみつばちの攻撃性を鎮静させるんだそう。
ちなみに、なぜ二酸化炭素の煙で大人しくなるのかは理由が解明されておらず、色んな説があるそうですが、煙を吸うことで山火事だ!と勘違いしたみつばちが慌てて巣に戻るからではないかという説もあるそうです。
では日本みつばちはというと、巣を襲ってくるスズメバチとは闘いますが、採蜜しようとする養蜂家を攻撃したり刺したりすることはありません。
刺すどころか「ちょっと蜜を採らせて貰いたいんだけど、少しだけみんな巣箱の裏に移動してほしいな」とお願いしながら作業をはじめると、ザーーッと静かに巣箱裏に集まって作業しやすくしてくれたりします。
ブラボー!
なんて良い子たち!
作業がスムーズでなかったり、不必要な刺激を与えたりした場合には徐々に機嫌が悪くなってくるので、みつばちに極力ストレスを与えない手順で手早く採蜜を終えることが重要です。
ここはもう、養蜂家とみつばち達との日頃のコミュニケーションや信頼関係が物を言うといっても過言ではありません。
万が一怒らせてしまった場合でも、日本みつばちはいきなり刺してきたりはしません。
ブンブンと羽音を立ててまとわりついてきたり、顔や体に体当たりして「その行為は不快だよー!」というサインを送ってくれます。
こちらがきちんとそのサインに気付いてあげられていれば、それ以上怒らせることはないのです。
みつばち1匹が一生に集められる蜜量はティースプーン1杯分
日本みつばちの群れは女王蜂、働き蜂、雄蜂で構成されています。
女王蜂はひとつの群れに1匹のみ、雄蜂は繁殖シーズンの春にだけ全体の5%ほどの数がいるようですが、悲しいことに繁殖シーズンが終わると群れから追い出されてしまいます。
なんてこった。
働き蜂はすべてメスで、雄蜂は繁殖のためだけに存在するのです。
群れのほとんどは働き蜂で、巣作りから花の蜜集め、はちみつの製造までの全てを行っています。
働き蜂の寿命は30日程度で、最も活動が少ない越冬時期でも140日程度。
1匹の体重は、0.09g。
1回の飛行で集めてくる花蜜の量は、0.04gだと言われています。
1日の飛行回数は10回程度なので、1日で0.4gの花蜜を集めてくることになります。
あの小さな体で自分の体重の4倍以上もの花蜜を1日で運ぶという重労働を毎日こなします。
8の字ダンスで花の場所の情報を共有して、1匹の働き蜂が一生のうちに集められる蜜量はティースプーン1杯分。
なんと貴重な蜜でしょうか。
日本みつばちは人に馴れる
俄かには信じがたいかもしれませんが、日本みつばちは人を選びます。
匂いによって人を認識できるそうです。
人を認識し、ちゃんとコミュニケーションが取れる相手かどうかを見極めた上で、その人が危険ではないと一旦認めると、それは群れ全体の認識になり、信頼関係が生まれます。
巣内の蜂同士は常に隣の蜂と体毛を通して意思の伝達がされていて、何が起きてもすぐに統制のとれた行動に移せます。
人には羽音によって意思を伝達してくれます。
草刈り中にうっかりみつばち達の蜜源であるシロツメクサを刈ってしまった事がありました。
すると間もなく1匹のみつばちがブンブンと慌てたような羽音を立たせてまとわりついてきます。
まるで「そこは刈らないでー!」と言っているようで、思わず「ごめんごめん、うっかりしてた」と謝ってしまいました。
どうしても刈らなければいけない理由がある場合には、「ごめん。残しておいてあげたいけど、どうしても今日は刈らせてほしい理由があって。
代わりの場所に蜜源を作るから、それで手を打ってくれない?」なんて交渉すると、「仕方ないなあー」と言わんばかりに諦めて帰っていきます。
それ以降その場所のシロツメクサを刈っていても、みつばちがブンブンとまとわりついてくることはありませんでした。
人間側の意思をみつばち達がどうやって汲み取っているのかはわかりませんが、挨拶や声かけなどの言葉のコミュニケーションと「飼育」や「搾取」ではなく「共生関係」であるという姿勢をこちらがきちんと行動として示すことで、確実に信頼関係を築くことができるのです。
西洋みつばちは家畜化されているわりには人には馴れず、常に一定の距離を保つ必要があるそうです。
日本みつばちは、戦後の食糧増産のための農地拡大や経済林造林などのために雑木が伐られたことによる蜜源の喪失、農薬による死滅、国外由来の伝染病などによって絶滅の危機にあります。
本来なら一生野生のまま暮らしていけるほどの群れの数と力を持っているはずの生態系が、人間による環境破壊によって衰弱化してしまいました。
人ができるだけ野生に近い状態で保護し、足りないところは手を貸してやらなければ、このまま絶滅してしまうでしょう。
日本みつばち達は本能でそれを理解しているのではないかと思います。
だからこそ人に馴れ、共生関係を築くことで絶滅の危機から種を守ろうとしている。
みつばち達と暮らしていると、そんな風に感じる瞬間が幾度となくあります。
百花蜜はみつばち達のオリジナルブレンド
そんな日本みつばちのはちみつは、蜜源によって味、香り、風味もさまざまで、毎年同じ味にならないのも特徴です。
いわば日本みつばちの群れひとつひとつの完全オリジナルブレンド。
群れが違えば、味も色も違います。
巣箱の中で季節をまたいで熟成された蜜の味は、濃厚な深みと後にひかないさっぱりとした甘みで、その豊かな味わいは自然の恵みそのもの。
その味わい深さは、短期間で単一の花蜜を集める西洋みつばちのはちみつとは大きく異なり、その差が「スーパーに売っているはちみつとなんでこんなに味が違うの?」に繋がってくるのだと思います。
いかがでしたか?
日本古来の在来種、日本みつばちの魅力が少しわかっていただけたでしょうか?
まだまだ書き足りない事は山盛りですが、これからも知識と経験と経験と経験をじわじわ増やして、日本みつばちの社会や生態をより詳しくご紹介できたらと思っています。
次回は、分蜂について書いてみようかな。
雄蜂が巣箱から追い出されたその後なんかも気になりますよね。
乞うご期待!